脳には今まで感じたこと、経験したことの全ての記憶が入っています。そのため、脳は私たち自身と考えても過言ではないでしょう。脳の機能は生まれ持ったものだけで決まるのではなく、後天的に変えていくことが出来ます。
後天的に改善する方法、それが運動をすることです。パズルや記憶力トレーニングをすることではありません。運動をすることで一流の頭脳に近づけます。アンダース・ハンセン著『一流の頭脳』より、次の7つのテーマでご紹介します。
- 運動によって、脳はアップグレードできる
- 運動によって、ストレスが感じにくくなり、コルチゾールの分泌量が減る
- 運動によって、集中力が高まる
- 運動によって、うつ病や気分のむらが取り除かれる
- 運動によって、創造性が高まる
- 運動によって、脳の老化が食い止められる
- 運動量の目安
目次
運動によって、脳はアップグレードできる
原始人は現代人よりはるかに動いていました。私たちは、動くことに適した身体をもっています。脳も例外ではありません。
脳機能を向上させるための最も有効な方法は運動するということです。
ある実験で、60歳の被験者たちを2つのグループに分け、片方には週に数回のウォーキングを1年続けさせ、もう片方には心拍数を増やさない程度の軽い運動を続けてもらいました。そしてMRIを使って実験を始める前と運動を1年続けた後の脳の働き方の変化を調べたところ、ウォーキングを1年間続けた被験者たちは健康になっただけでなく、脳の働きも改善していました。
MRIの画像を解析すると、脳の各領域の連携が強化され、脳の働きが若返っていたことが分かりました。これは若い被験者であっても同じです。
また心理テストの結果でも、ウォーキングをしたグループでは自発的に行動したり、計画と立てたり、注意力を制御するといった機能が向上していたことが分かっています。
つまり、身体を活発に動かすことにより脳が若返り、さらには脳機能も向上したということです。

運動によって、ストレスが感じにくくなり、コルチゾールの分泌量が減る
ストレスを感じると、人間の脳内では「コルチゾール」というストレスホルモンが分泌されます。このコルチゾールにさらされ続けると海馬や前頭葉といった脳の器官が委縮します。
海馬は記憶力や空間認識をつかさどる場所であり、前頭葉は抽象的思考や分析的思考を行う、いわば人間の理性をつかさどる器官です。両者ともストレスに対するブレーキの役割を果たしており、ここが発達していればストレスを感じにくくなりますが、慢性的にストレスを抱えている人は、この2つの器官が委縮していることが分かっています。
つまり、ストレスに対するブレーキが2つともきかない状態でストレス状態が延々と続くと、それがさらに海馬と前頭葉の萎縮に拍車がかかるという負のループになります。
この負のループにストップをかけられるのが運動です。運動をすると、海馬の働きが活発化し、前頭葉の機能も向上します。
運動をすると一種のストレスがかかるため、コルチゾールの分泌量は増えるのですが、運動をやめるとコルチゾールの分泌は減ります。これを何度も繰り返すことにより、運動をしている時のコルチゾールの分泌量の増え方が緩やかになります。これにより、ストレスを受けても コルチゾールの分泌量の増え方が緩やかになります。
つまり、定期的に運動をすることにより、コルチゾールを減らすことも出来、ストレスに過剰反応しにくい体になります。

運動によって、集中力が高まる
運動をするとドーパミンの分泌量が増えます。ドーパミンは快楽物質と言われていますが、集中力を保つためにも欠かせない物質ですので、運動を終えた数分後にはドーパミンの分泌量が上がり、数時間その状態が続きます。そのため、運動の後には集中力が高まります。
運動によって、うつ病や気分のむらが取り除かれる
うつ病の原因は、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンというような人の感情に影響を及ぼす神経伝達物質が不足することが原因だと考えられてきました。だからこれまでは抗うつ剤によってこれらの物質を補うという方法がとられてきました。しかし抗うつ剤によってセロトニンやドーパミンの濃度がすぐ上がるにもかかわらず、患者自身の気分が良くなるまでには数週間かかることが多いという事実がありました。
この理由は、うつ病の症状を最終的に取り除いてくれるのはセロトニン等そのものではなく、実はBDNF(Brain Derived Neurotrophic Factor, 脳由来神経栄養因子)と呼ばれるたんぱく質だからということが分かりました。BDNFは、ストレスなどで神経細胞が傷つかないように保護し、神経ネットワークの維持のために働きます。そしてうつ病患者は、このBDNFの分泌量が低いことが分かっています。うつ病から回復して精神状態が安定するにつれ、BDNFが作られる量も増えていくということが明らかになっています。
ただし、BDNFは口から取り入れたり、血管に注射をしても脳には達しません。神経細胞に影響のある物質をブロックする血液脳関門を通過することが出来ないからです。つまりBDNFは、脳内で直接作り出す必要があります。
そして、そのBDNFを自然に増やせる最も効果の高い方法が、有酸素運動です。運動を続ければ続けるほどBDNFの生産量も増えていきます。また嬉しいことに、いったん増えたBDNFの量は数日程度では下がらないので、毎日欠かさず運動する必要はありません。うつ病でなくてもやる気にむらがあるというような状態等、運動をすることにより改善が期待できます。

運動によって、創造性が高まる
運動することによって創造性が増すということが、事実や数々の実験でも立証されています。スタンフォード大学の研究チームが行った実験では、176名の被験者が創造性を測る数種類のテストを、屋内や屋外で歩き回ったり座ったりといった様々な条件下で受けました。その結果、被験者が歩きながらテストを受けた場合は5人に4人の割合で好成績が出ました。特にブレインストーミングと新しいアイデアを出す能力においては歩きながらテストを受けた被験者とそうでない人の成績は60%も差がありました。
クリエイティブな仕事をしている人は運動しながら考えるということを日常に取り入れていることも多いようです。実際、Appleの創業者であるスティーブジョブスも歩きながら会議を行うことが多く、これに倣って、シリコンバレーの多くのビジネスエリート達も、この「ウォーキングミーティング」を取り入れています。
運動によって、脳の老化が食い止められる
脳の司令塔である前頭葉は加齢とともに少しずつ委縮し、知的な能力が少しずつ失われていきますが、これも運動によって食い止めることが出来ます。
加齢による前頭葉の萎縮の進み具合は、カロリーの消費量とかかわっています。つまり、良く動いてカロリーを消費する人は、加齢による前頭葉の萎縮の進行が遅くなります。これは何年もかけて、カロリーを消費し続けることによって効果がみられてくるものですので、脳の若返りを目的するのであれば、若いうちから日常的な運動の習慣を持っておく必要があります。
ある研究では、2万人もの70から80歳の女性を対象に、20年以上にわたって調査が行われました。それによると定期的に運動している女性は、座っている時間が長い女性よりも過去の出来事をよく覚えていたという結果が出ています。
集中力や注意力も、運動している人の方が高い傾向にありました。(年齢で換算すると、運動習慣がある人は脳が3年若い)毎日意識的に歩くだけで、認知症の発生率が40%も減らせることも分かっています。
運動量の目安
最も効果的な運動量は?という問いに対しては、現段階では明確な答えは出ていないようです。しかし、たとえわずかな1歩でも、5分だけでも、何かしらの効果はあります。高い効果を得たいのなら、最低30分のウォーキングを、脳のための最高のコンディションを保つためにはランニングを週に3回、45分以上行うことを目安にすると良いでしょう。週に数回の運動を半年程度続ければ十分に効果を実感できるはずです。

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BDNFを増やす最も効果のある運動は有酸素運動ですので、ウォーキング、ランニング等です。マシンを用いた筋肉のトレーニングとは違うので、その点は注意してください。
私は、週に3回程度、1回あたり1時間から2時間歩いています。Apple musicで音楽を聞きながら、ひたすら歩く。突然何かが分かったり、突然大事な何かを思い出したりするので、運動が脳に良いだろうということは、この本を読む前から何となくわかっていました。
何かを始めるとき、最初は大変かもしれません。でも続けていくと、やらないと気持ち悪くなってきます。運動がこれだけ脳に良いことが分かっており、しかも例えばウォーキングやランニングといった有酸素運動であれば、全くお金もかかりません。やろうと決めたら取り入れやすいのではないかと思います。
本書に興味を持っていただいた方、詳細は 『一流の頭脳』 をご参照ください。
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