ハンス・ロスリング 著『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』では、教育、貧困、環境、エネルギー、人口など幅広い分野の最新の統計データを基に、世界の正しい見方が紹介されています。
本書を、次の4つのテーマでご紹介します。
- データを基に世界を正しく見る
- 分断本能
- ネガティブ本能
- 恐怖本能
データを基に世界を正しく見る
本書の題名、「FACTFULNESS」とは、自分の思い込みや偏見に気づき、データや事実に基づいたものの見方をすることです。
私たちは、事実とは異なる、偏見に満ちたものの見方をしています。例えば、
- 世界には貧困に苦しむ人が大勢いる
- 飢餓で死ぬ人が大勢いる
- 貧しい国ではほとんどの女性が教育を受けられない 等
しかし現実は、
- 貧困に苦しむ人は年々減っており、ほとんどは中間所得層に成長した
- 飢餓で死ぬ人はほとんどいない
- 貧しい国にでも女性の60%が教育を受けている 等
この間違いは、知識の豊富な政治家や国連スタッフ、国際銀行家、ノーベル賞受賞者も同様にしています。ほとんどの人が正しく世界を認識していません。このような状態で、まともな政策や企業戦略を計画できるはずがありません。
ものの見方が間違っているのは、ニュースなどで事件ばかりが報道されるからです。本当は、世界は年々良くなっています。
ドラマチックなものの見方をするのは、昔の人達は事実よりも恐怖を大きめに感じることで、下手な冒険をしなくなり、生存確率が上がっていたので仕方がないことだとも言えます。
このようなバイアス(偏見)にとらわれないためには、データで物事を見ることが大切です。本書の目的は、データを見ることで私たちをバイアスから解き放ち、世界を正しく認識することです。

分断本能
「世界は分断されている」という思い込みを、「分断本能」といいます。
お金持ち vs 貧乏、先進国 vs 発展途上国などの対立関係でとらえることは、いかにもドラマチックであり、私たちはこのような物事の捉え方を好みます。
しかし分断は実際にはなく、ほとんどはその中間に位置しています。
データを見ると、現在は世界のほとんどの人は中間所得層に位置していることが分かります。裕福な国と、貧しい国の二極化ではなくなっています。
下図オレンジ色の人、一人が10億人です。1日あたり2ドル以上、32ドル未満で生活してる中間所得層が約50億人いることが分かります。(より詳細なデータは、Gapminder Tools参照)

また、先進国と発展途上国の出生率や幼児死亡率に大きな差があるという考え方も、1965年には正しかったが、2017年では正しくないと言えます。(下図参照)そもそも、発展途上国にいまだに分類される国は、わずか6%しか残っていません。
<1965年:先進国と発展途上国の出生率、死亡率に大きな差があった>

<2017年:先進国と発展途上国の出生率、死亡率に大差はない >

近い将来に世界の人口分布の大半を占めるアジア・アフリカがこのまま成長し、グローバルな消費者になると、世界の中心は西欧からアジアに移っていきます。2040年には、グローバル経済の消費者の6割が、西欧以外の国になるとみられています。
現在アメリカが必死に世界の中心に居座る最後の努力をしていますが、西欧諸国が牛耳る時代はもう終ろうとしています。
欧米企業や日本企業というだけで、アジア人やアフリカ人が就職したがる時代はもう終わっています。外国人労働者が喜んで日本に来るという考え方も既に古いのかもしれません。

ネガティブ本能
世界はどんどん悪くなっているという思い込みを、ネガティブ本能といいます。
世界は本当はどんどん良くなっていますが、それはニュースにはなりません。悪い話はニュースになりやすいのですが、明るい話はニュースになりにくいのです。
例えば、「今年もペストの死亡者はいませんでした!」とか、「今年も作物は順調に収穫出来ました!」等はニュースになりません。
貧困状態の人が減り続けていることも知られていません。
1800年頃は人類の85%が極度の貧困状態でした。世界中で食料が足りず、ほとんどの人がおなかをすかせた状態で眠りについていました。当時の先進国イギリスでさえ、児童労働が当たり前で、10歳からみんな働いていました。
つい最近1966年まで、大半の人が貧困状態でした。それがここ20年で急激に、極度の貧困状態がなくなりました。
1997年は、中国もインドも42%が貧困状態でした。それが2017年には、インドが12%、中国が0.7%!まで減りました。年々世界は暮らしやすくなり、楽しめるようになってきています。
確かに格差はまだ存在しますが、過去に比べて減っており、現状まだ悪いが、だんだん良くなっていることを知ると、ネガティブ本能から解放されます。

恐怖本能
冷静にデータを見て確率を考えれば危険ではないことを、恐ろしいと考えてしまうことを、恐怖本能といいます。
ニュースは、恐怖本能に訴えかける出来事を報道します。視聴率が取れるのは、感染症や災害やテロなど、いかにも恐ろしそうなことだからです。
例えば、テロ。2016年の全死亡原因のうち、テロによる死亡はわずか0.05%です。しかも先進国では減っています。増えているのはイラク、アフガニスタン、パキスタン、シリア等です。
アメリカで見ると、平均1年あたり159人ほどがテロにより亡くなっているのに対し、飲酒で亡くなるのは7万人です。
他にも、飛行機事故での死亡やクマに襲われる被害よりも、下痢で亡くなる子供や夫のDVで亡くなる妻の方が多いにも関わらず、下痢やDVでの死亡はあまりニュースになっていないという例があります。
このように、めったに起きないショッキングな出来事がニュースでは報道され、頻繁に起きる本当に気を付けなければいけない出来事は報道されません。私たちは、それを正しく認識し、リスクを正しく計算し、恐怖本能を抑えることが大切です。

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世界はハイスピードで変化しているので、私たちは昔習ったことを前提として考えるのではなく、日々情報をアップデートしていく必要があります。
また報道にはバイアスがあることを理解し、努めて生のデータを見て、物事を判断するようにしたいですね。
本書には、残り7つの本能が紹介されています。
本書に興味を持っていただいた方、詳細は 『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』 をご参照ください。
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