屈指のビジネスパーソンや経営者等は皆、情熱と粘り強さ、つまり GRIT(やり抜く力)を持っています。
アンジェラ・ダックワース著『やり抜く力』を次の3つのポイントでご紹介します。
- 努力は才能よりはるかに重要
- 達成の方程式
- やり抜く力を持っている人の特徴
目次
努力は才能よりはるかに重要
物事を達成するにあたっては、才能よりもやり抜く力がはるかに重要です。
それが分かる実験を2つご紹介します。
1.アメリカの士官学校の実験
アメリカの陸軍士官学校では、入学直後にBEASTという7週間の厳しい基礎訓練があります。
- 毎朝5時に起床
- 食事以外休みなし
- 週末休みなし
- 外部との接触なし
この条件で、ずっと訓練をし続けます。7週間で終わることが分かっているにもかかわらず、5人中1人がそこでやめていくそうです。
辞めずにやり抜くことが出来た人は、入学試験の結果が良かった人、つまり才能があった人ではなく、情熱と粘り強さがあった人でした。
ここで分かるのは、物事の達成には、才能よりも「やり抜く力」、つまり努力的側面の方が重要であるということです。
2.ハーバード大学の実験
ハーバード大学では、130名の大学生に対してランニングマシンで5分間走ってもらうという実験を行いました。その際、学生たちに対して極度の肉体的精神的苦痛を与えることで、やり抜く力の強さを測定しました。
そしてその数十年後、この参加者が60歳になった時の年収、昇進、社会的活動、仕事や結婚に対する満足度等、人生に対する満足度を総合評価しました。
その結果、学生時代にランニングマシンの上でどれだけ走ったか(=やり抜く力)を見れば、その後の人生における成果を正確に予測できるということが分かりました。
つまり、やり抜く力が強ければ強いほど、人生における成果が出るということです。
人生全体においても、圧倒的に「やり抜く力」が重要であることが分かりました。

達成の方程式
物事を達成するには、才能よりも努力の方がはるかに重要だということは、誰でも努力次第で大きな成果を上げることが出来る、つまり達成できるということです。
本書には、以下のような「達成の方程式」が紹介されています。
1.才能があって、努力をすれば、スキルが身につく
才能 × 努力 = スキル
2.スキルがあって、さらに努力をすれば達成する
スキル × 努力 = 達成
つまり、
3.才能があって、努力を2回積み重ねて、ようやく達成できる
才能 × 努力 × 努力 = 達成
本書では、92歳の有名な陶芸家の言葉が紹介されています。
「私は自分が出来る限り、最高に心が躍る壺を作りたいと思っていた。それぞれの方の部屋に良く似合うものを作りたいと思っていた。作った壺をいくつも覚えているけれど、今思えば最初1万個は本当に下手だった。最初は難しい。1万個を超えると少しずつ分かってくる。」
つまり彼は、壺を1万個作って初めてスキルが身についてきたと思えました。1万個作り続けるのは並大抵のことではありません。一流の人は、これぐらいの基準でやっています。ひたすら努力をしています。(「1万時間の法則」)
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私たちは、成功者は「才能があるから」と神格化することで、裏にある努力について考えなくて済みます。自分の努力不足に目を伏せていられます。「自分はある程度努力している、成功できないのは才能がないから」と、自分を肯定できます。
でも成功者は本当は、血のにじむような努力をしているのです。
『「天才というのは神がかった存在だ」と思えば、それに比べて引け目を感じる必要がなくなる。「あの人は超人だ」というのは、「張りあっても仕方がない」という意味なのだ』(by ニーチェ)

やり抜く力の伸ばし方
やり抜く力を伸ばすには4つのポイントがあります。
1.興味
自分の興味に合った仕事を見つけるということです。
やり抜く力が高い成功者は、自分がやっていることを心から楽しんで、情熱を持って仕事をしています。
ある研究者が10年間研究し続けた結果、①好きなことをした方が満足度がはるかに高いということ、②好きなことをした方が結果が出る、ということが分かりました。
何かで結果を出したければ、とりあえず楽しむこと、好きになること。それにより満足度が上がり、結果が出ます。
2.練習
時間の長さよりも、どう練習するかが成長の決め手になります。(「意図的な練習」)
やり抜く力が高い人は、次の4つの要素のある「意図的な練習」を行っています。
- 明確なストレッチ目標(少し背伸び(=ストレッチ)しないと届かない目標)をもつこと
- 完全な集中と努力をすること
- 速やかで有益なフィードバックがあること
- たゆまぬ反省と改善を行うこと
「練習時間の7割はテクニックを磨くために一人で練習する。一つ一つのテクニックをしっかり調整したいからだ」(by ケビン・ドゥラント)
3.目標
目的を見出すということ、今の仕事をもっと意義あるものに感じられるようにするということです。
やり抜く力の高い人は、意義のある生き方がしたい、他の人の役に立つ生き方がしたいというモチベーションが、著しく高いことが分かっています。
「意義」について、有名なレンガ職人の寓話を例に考えてみましょう。
ある人が3人のレンガ職人に「何をしているのですか?」と尋ねました。
1人目は、「レンガを積んでいるんだよ」と答えました。
2人目は、「教会を作っているんだよ」と答えました。
3人目は、「歴史に残る大聖堂を作っているんだよ」と答えました。
1人目の職人にとって、レンガを積むことは単なる仕事です。2人目の職人にとってはキャリア、そして3人目の職人にとっては天職であることを意味しています。
私たちが今の仕事を天職だと考えられるようになるためには、3つの方法があります。
- 自分の仕事が社会にどのように役に立つか考える
- ジョブクラフティング(自分の裁量の範囲内で仕事の内容、やり方を変えることで、自分の興味や価値観に合うようにする)
- ロールモデルを見つける
4.成長マインドセット
マインドセットを、「成長思考」にすることです。
マインドセットとは、人が無意識に持っている、「世の中はこういうものだ」という考え方で、「固定思考」と「成長思考」に分けられます。
固定思考は、「知的能力はうまれつきのもので変えられない」と考えます。一方成長思考は、「知的能力は、努力によって伸ばすことが出来る」と考えます。
実際は、知的能力は鍛えれば鍛えるほど、神経細胞を増やし、向上させることが出来ます。
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なお、子供のGRIT(やり抜く力)の伸ばし方として有効な方法は、厳しい要求をしながらも支援を惜しまない育て方です。温かくも厳しく子供を尊重する親の子供は、他の子供たちよりも、成績が良く、自主性が高く、不安症や鬱病になる率が低く、非行になる率が低いということが分かっています。
また、習い事やスポーツクラブなど、学校以外の課外活動をさせることも有効です。課外活動を2年以上続けた生徒は、就職率も収入も高いことが分かっています。

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本書に興味を持っていただいた方、詳細は 『やり抜く力』 をご参照ください。
また本書の英語版は 、『Grit: The Power of Passion and Perseverance』です。
本は読むのも良いですし、Audible (オーディブル) で聴くのも良いと思います。
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