「有事の円買い」という言葉がある通り、有事(最近ではロシアのウクライナ侵攻)には円高になるというのが、これまでの経験則でした。しかし、現在円安が続いています。
2022年3月11日(金)のUSD/JPYは、これまで2度上値がおさえられていた116.34円という水準を突破し、一時117.35円をつけました。これは、2017年1月以来の、約5年ぶりの円安水準です。

USD/JPYでの「円安」とは、円が米ドルに対して安くなる、価値が低くなるということです。言い換えると、日本国として、米国と比較した場合の相対的な購買力が下がる、経済力が弱くなるということです。
最近、円の実質実効為替レートが1972年水準まで低下していることも発表されました。(下図参照)これを見ても、円の購買力が著しく低下していることが分かります。
<参考:実質実効為替レート>

そこで次の3つのポイントで、円安について考えていきます。
- 円安が進んでいる3つの理由
- 今後のトレンドはどうなると考えるか
- 私たちがとれる対策
目次
円安が進んでいる3つの理由
1.資源価格高騰による貿易収支の悪化
現在、欧米各国による対ロシアへの経済制裁により、資源価格が急上昇しています。(参考:急騰する資源価格、家計4万4千円増の試算も(産経新聞) – Yahoo!ニュース)
ロシアは資源大国ですので、資源の供給が足りなくなるのではという懸念から、今資源価格が上昇しています。WTI原油先物価格は、直近9日に急落はしていますが、下図の通り一時、120ドル台まで急騰した場面がありました。
<参考:WTI原油先物>

日本は資源を輸入に頼っていますので、資源価格が上昇すると、より貿易収支が悪化します。つまり、多くのドルを支払う必要がありますが、ドルを支払う際「ドル買い円売り」をするため円安となるのです。
<参考:直近2022年1月の貿易収支 △2兆1,911億円>

2.米国でのインフレ加速による米国の利上げ期待
先日発表された2月の米消費者物価指数(CPI)は、前年同月比7.9%増と、1982年1月以来約40年ぶりの高さとなりました。またロシアのウクライナ侵攻を受け、原油や商品価格が高騰する中、物価の伸びは今後さらに加速する見通しです。CPIの上昇率はここ最近ずっと高い水準で推移しており、前年同月比で6%を超えるのは5カ月連続です。(参考:米CPI、2月は前年比7.9%上昇に加速 40年ぶりの高水準継続 | Reuters)
<参考:米消費者物価指数>

このインフレを抑制するため、3月のFOMCでの利上げはほぼ確実と言われています。また今後も何度も利上げを行うだろうとみられています。
米国の金利が上昇するということは、米ドルの金利が高くなるということであり、金利の高い通貨を持っている方が「得」と考える人が増えるので、米ドルが買われ、円は相対的に安くなるということです。
3.日銀の金融緩和継続
日本の金融緩和政策、つまり金融市場へ供給するお金の量を大幅に増やす政策は、2013年4月に開始されました。この政策により、一時125円台まで円安になりました。
2年程度を念頭に2%の物価上昇の実現を目標にして開始されたものですが、現在でもこの目標は達成されておらず、この金融緩和政策は続いています。
<参考:日本の消費者物価指数>

さらに、日本のGDPに対する国債の割合は250%と言われており、世界でも例を見ないほどの高い水準です。これにより、約107兆円の歳出のうち、約9兆円は国債の金利の支払いであるという状況にあります。歳出の約8%が、国債の利息の支払いに消えているということです。
金利が1%に満たない低水準での高水準の金利の支払いですので、金利が上昇することは、日本の国にとってかなり大きなダメージになります。
つまり、日本にはそもそも簡単に金利を上げることも出来ないという事情があり、ますます日米金利差は開くということになります。

今後のトレンドはどうなると考えるか
1.短気トレンドをテクニカルで考える
USD/JPYは、116.34円をレジスタンスとして直近2度反転しているのですが、今回はそこを上に抜けました。
安値が段々と切りあがるという「上昇トレンド」の中での、レジスタンスライン「116.34円」を越えてきたという今回の円安なので、テクニカル分析では、まだまだこれから上昇する(円安になる)と見ることが出来ます。

そして上昇の際、次のターゲットとなるのが、直近の高値、2017年1月につけた118.60円です。118.60円のラインでトレンドが変わり下落に転換するのか、ラインを突破していくのかがポイントになります。

2.長期トレンドをファンダメンタルズで考える
円の相対的価値が落ち込んでいるのであれば、輸出企業にとってプラスの材料になるのではないかとの意見もありますが、近年は必ずしもそうとは言えません。
確かに昔は、円安が製造業の輸出競争力を後押しし、収益改善にもつながりましたので経済成長にも寄与しました。しかし近年は、多くの製造業が海外に拠点を移しているため、「円安」になったからといって輸出数量の押上効果が弱まってきています。
また、日本は生産年齢人口(15歳から64歳までの働く人の数)の落ち込みによって内需が縮小するのは確実ですので、輸出企業は海外で稼いだお金を国内に再投資するインセンティブがほとんどありません。
つまり、製造業は海外で稼いだお金をそのまま海外に再投資するだけですので、円安によるプラス効果は限定的になっています。
その中で円安が加速すると、輸入業者がより多くの円を売る必要があるので、更なる円安圧力につながります。
つまり、円安スパイラルに陥り、円安不況になる可能性があります。
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かつての円高不況であれば、日本人の金融資産の内訳はその大部分が現預金ですので、円高不況でも円の相対的価値が高まることで不況を乗り越えることが出来ました。
一方円安不況に陥れば、「現預金」の価値が相対的に目減りすることで、ものが買えなくなってしまいます。年金生活者や生活保護受給者の生活が一層苦しくなってしまうことで、経済が混乱する可能性もあります。
日本人は、不況により貧しくなるだけでなく、円安によって世界先進国と比べても貧しい国になってしまう可能性が高いということです。
そして日本人の多くが、そのための備えを出来ていません。
私たちがとれる対策
日本円の価値が相対的に低下するということは、円建の預貯金だけをしていてはいないということです。
外貨への投資や金、ビットコイン等への投資も考えられますが、外国の株式等の購入によって間接的に外貨に投資したことになりますので、結局「外国株式インデックスファンド」への投資が良いと、個人的には思います。
「株式インデックスファンド」からあえて1つお勧めを選ぶとすれば、全世界株式に投資するインデックスファンド、eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) | eMAXIS (emaxis.jp)です。
Fund of the year2021でも1位になった投資信託です。(参考:“投信ブロガーが選ぶ!Fund of the Year 2021” 受賞のお知らせ|三菱UFJ国際投信株式会社のプレスリリース (prtimes.jp))

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