『孤独になると結果が出せる』の著者、茂木健一郎さんは脳科学者であり、理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャーを務めていらっしゃいます。
本書は、脳科学の視点から、なぜ脳にとって孤独が重要なのかについて書かれています。作曲家のグスタフ・マーラーや、哲学者のルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは、いずれも、創作の拠点として、都会の喧騒から離れた小さな小屋にしていました。偉大な創作者二人が、いずれも孤独の環境を好んでいたというのは、決して偶然の一致ではないと茂木さんは言います。
本書を次の5つのポイントでご紹介します。
- 同調圧力を跳ね返す
- 孤独と孤立は違う
- 自分の本当の欲望に気づく
- 脳は孤独を求めている!
- 孤独を楽しむレッスン
目次
同調圧力を跳ね返す
今の日本は、治安が良く物価も安定しており、人々は優しく、住むには便利で安全な国です。
しかし、国連による「世界幸福度報告2022」では、日本は146か国中54位でした。G7に参加している国(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)の中では最下位です。

この大きな要因は、日本を覆う「同調圧力」による生きづらさがあると考えられます。
同調圧力とは、集団において、少数意見を持つ人に対して周囲の多くの人と同じように行動するよう、暗黙のうちに強制することです。こうした同調圧力は、日本中のいたるところにあります。
例えば、定時退社をする人に向けられる冷ややかな視線、旧来のやり方を変えようという提案への遠回しな嫌味など、貴方の身の周りでも思い当たることがあるかもしれません。
この同調圧力が密かに、一人一人のアウトプットを生む力をじわじわと削ぎ、その結果、国全体のアウトプットを低下させています。その解決策として茂木さんが提案しているのが、「孤独を恐れないこと」です。

孤独と孤立は違う
日本では、同調圧力に従い、波風を立てずに周りに合わせた方が結果を出せると考えられがちですが、実際はそうとは限りません。
同調圧力と結果の関係を表したマトリクスが以下の図です。

同調圧力に屈せず結果を出せる人は「孤独な人」、同調圧力に屈して結果を出せる人は「面従腹背する人」、同調圧力に屈して結果を出せない人は「孤独になれない人」、そして同調圧力に屈せず結果を出せない人は「孤立する人」です。
孤独と孤立は、似ているようで異なります。
「孤立している」というのは、周りの意見やアドバイスに耳を貸そうとせず、そのために周りの人とのつながりが断ち切られて、一人になってしまった状態です。これに対し「孤独」というのは、自ら望んで一人になるもので、周りの人とのつながりまで断ち切るものではありません。また、異なる意見を取り入れることも、スルーすることも、あえて反論することもあります。一人になることにためらいがないので、無理をして周りに合わせる必要がないのです。
結果を最大化する上で欠かせないのは、このような孤独の状態です。

自分の本当の欲望に気づく
人間の心の働きの中で、意識できている部分は氷山の一角に過ぎません。無意識は、脳内の、いわばビックデータです。なぜ何かを好きになるのか、なぜある選択をするのかなど、自分でもなぜなのか不思議に感じることもしばしばありますが、それらは無意識によって左右されています。そして、この自分でも把握できない無意識が、創造性の源泉です。
普段は、無意識が勝手なことをしないように、意識が無意識を管理、抑制しています。しかし、創造性を発揮する上では、この意識のコントロールが邪魔になることがあります。そこで、意識によるコントロールを上手に緩めることが必要になりますが、それが、「脱抑制」です。
無意識には、自分が隠していた本当の欲望、出来るかどうかわからないけれど本当にやってみたいことが隠れていることがあります。脱抑制によって自分の本当の欲望に気づくことが出来ますが、その脱抑制を可能にしやすい環境が、「孤独」なのです。
脳は孤独を求めている!
人と会話をしていると、脳が処理できる情報量のうちのかなりの部分が使われてしまうことが分かっています。
仕事でもプライベートでも、人とのコミュニケーションが一日中続くとどっと疲れが出てしまった経験はないでしょうか。このような時、実はかなりめいいっぱい、脳の容量が使われており、それ以外のことに割くリソースが無くなっています。つまりコミュニケーションは、意外にも脳を酷使することなのです。
人とたくさん会うのであれば、その分脳を休ませる必要があります。情報処理でパンク寸前になった脳を手入れしなければなりません。脳にとっては1人になれる時間は必要で、脳は本来的に孤独を求めています。

孤独を楽しむレッスン
これまでの話から、孤独についてポジティブなイメージを持てるようになってきたのではないでしょうか。そこで、実際に孤独を楽しむレッスンを3つご紹介します。
1.自然に還る
茂木さんは、1週間かけてカナダの湖をカヌーでまわった経験があるそうです。それは、極上な孤独の体験でした。自分自身が自然と一体化したような気分に浸ったのです。まさに、「自然に還る」体験でした。
自然の中を一人で歩くのも、否応なしに一人の世界に入れるので、孤独を楽しむ素晴らしいエクササイズです。ただ雄大な自然をぼーっと眺めるだけでも良いでしょう。マイナスイオンを浴びながら、ふと自分自身を見つめるのは、孤独との素敵な向き合い方です。
発想や行動のヒントを得て結果を出したいと思ったら、ぼーっとする時間が必要です。そしてそのぼーっとする環境にふさわしいのが、自然の中なのです。自然に還るのは、脳にとってこれ以上ないご馳走です。
2.即断即決する
人生はいつでも選択の連続です。人は1日のうちに何度も選択を重ねており、一生を通じて何十万、何百万回もの選択をすることになります。その全てが上手くいくということは絶対にありません。選択の失敗は、日常茶飯事です。
しかし、失敗することは悪いことではありません。その経験をもとにより良い選択が出来るようにしていけばいいだけのことだからです。
茂木さんは、即断即決すると決めているそうです。そう決めているので、迷いませんし、後悔もしません。大抵のことは、直感で判断できます。
悩むのは、うまくいくかどうかわからないという不安があるからですが、どんなことをするのにも、100%うまくいく保証などありません。だからまずやってみて、少しずつ改善していって、うまくいく確率を上げていけばいいのです。
脳は、直感によると2秒ほどで意思決定できます。この直感の精度は、生物として合理的なほどには高いので、即断即決しない理由はありません。迷っていると同調圧力にもかけられやすいので、直感で物事を選択するようにしましょう。
3.アウェーに飛び込む
茂木さんは、東京大学理学部卒業後、法学部に学士入学されたのですが、その場所で過ごした2年間が茂木さんにとってはアウェーだったそうです。しかし、法律を学んだことで、世の中の仕組みやマネジメントについての理解が深まり、講義や執筆をするにあたってもとても役立っていると言います。
アウェーが自分にとってのマイナスの環境であるとは限りません。飛び込んだ時は不安でも、そこで自分なりの課題を見つけクリアできれば、自分自身を成長させる足掛かりになります。
世の中には、何一つ無駄はありません。どんな経験も無駄にはなりません。あえてアウェーな環境に飛び込み、苦手なことにチャレンジしてみましょう。

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本書が勧める「孤独な人」とは、「孤高の人」ともいうべきカッコいい生き方だと思います。
本書に興味を持っていただいた方、詳細は 『孤独になると結果が出せる』 をご参照ください。
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