『2030年ジャック・アタリの未来予測―不確実な世の中をサバイブせよ!』の著者、ジャック・アタリは、1981年フランソワ・ミッテラン仏大統領特別補佐官、1991年欧州復興開発銀行の初代総裁など要職を歴任された方であり、政治・経済・文化に精通し、ソ連の崩壊、金融危機、テロの脅威、ドナルド・トランプ米大統領の誕生などを的中させた方です。
2030年までに、自己の運命を自身で選択できない、つまり自己実現出来ないような地球規模の地政学的な危機が発生する恐れがあり、そうなれば社会に蔓延する憤懣は激怒に変わります。激怒が支配する社会では、全てが不可逆的に破壊されます。
そのような状況下で、私たちに出来ることはあるのでしょうか。
本書を、次の3つのポイントでご紹介します。
- このままでは世界は大混乱へと向かう
- 世界中で怒りが爆発
- 明るい未来
このままでは世界は大混乱へと向かう
世界経済が、審判のいない市場に支配され続ける限り、技術進歩等の様々なポジティブな要素は権力者たちに横取りされ、現在の不均衡(富の偏在)を悪化させるだけになります。
まず、技術進歩がどれほど魅力的でも、技術進歩によって雇用は破壊され、富のさらなる集中が加速します。次に、中産階級は自分たちの所有権が尊重されないことや、不法行為や犯罪が野放しにされることに不満を募らせます。中産階級は、自分たちの子供の暮らしぶりが自分たちよりも悪くなり、民主主義が捨て去られるのではないかと心配します。
そのような世界では、株主と消費者は、従業員と選挙民よりも大きな影響力を持ち続け、こうした力関係が、消費と賃金、つまり物価と雇用に関する条件を決定します。つまり、力のある株主と消費者にとって、有利に物事が進むので、デフレが蔓延し、不安定な雇用や裏切りが当たり前になります。
消費を喚起するためには、政府や中央銀行の行動だけでは不十分です。なぜなら、国民は未来に大きな不安を抱いているため、余ったお金は消費するよりもすべて貯金しようとするからです。今より長生きするだろう国民は、民営化の対象になる、年金、医療、安全に関するシステムを頼りにすることが出来なくなるだけに、国民の貯蓄性向は高まります。
さらに、地球規模の法整備がないため、自由というイデオロギーが暗黙裡に引き起こす、利己主義、自分勝手、人生の意義の崩壊が激化します。
最後に、地球規模の法整備がなければテロ活動は活発化し、集団と国家との紛争解決は困難を極めるでしょう。
つまり、技術進歩等の様々なポジティブな要素があったとしても、2030年には、この世を耐えがたく思う人々が今よりも圧倒的に増え、ほとんどの人々がそのように感じると予測できます。世界各地で激しい怒りが渦巻き、フラストレーションが蔓延し、暴力がまかり通るようになります。相互依存を強める世界では、それらすべてのことは、金融や軍事など様々な方面において、破壊的な危機を引き起こします。
世界が、地球規模の法整備のない状態で、マネー崇拝と利己主義というイデオロギーに支配され続け、私たちが自分たちの精神と「歴史」の方向性を軌道修正するために迅速に行動しなければ、つまり、地球規模で「利他主義」が根付くことがなければ、調和のない世界になり、危機が次々と訪れるでしょう。

世界中で怒りが爆発
複雑化した現代では、経済と政治の当事者は相互依存を強めるため、法の支配は脆弱になります。すなわち、経済の利己主義と政治の無分別により、全ての長期的な課題は顧みられず、他者の幸福を願うという利他主義の効用は理解されません。そのため、些細なことであっても怒りが爆発します。
またちょっとした経済危機や軍事的な小競り合いであっても、重大な事態に陥る恐れがあります。あらゆることが経済や軍事システムに深刻な影響を及ぼします。
具体的には、地域的な危機が同盟関係とその波及効果により、経済又は軍事の面で、あるいはその両面において、世界全体を危機に陥れます。
1.経済と金融の世界的危機を引き起こす6つの火種
① 中国
不動産部門、公営企業、規制対象外の金融業者の借金バブルがはじけ、株式市場は暴落、人民元は大幅に切り下げられること等に伴い、世界経済が危機に陥る。
② 保守主義の激化
EUとアメリカによる、アジア地域からの輸入品や、メキシコ等からの移民が大量に押し寄る恐怖心から保守主義が激化する。
③ ヨーロッパの危機
イタリアやドイツの銀行システムが崩壊する等により、ヨーロッパで危機が発現する。
④ 国の巨額債務バブルの崩壊:
特に日本が抱えるリスクは著しく高い。その理由は、日本は既にマネタイゼーション(日銀の国債買い入れ)を積極に行っているからであり、また今後財政収支は赤字で推移する。日本の危機により、日本円の価値は大幅に下落する。円暴落は、全ての政府の資産クラスに影響を及ぼし、現金やゴールドへの逃避が加速する。
⑤ アメリカの金融危機
シャドー・バンキング・システムの主要プレーヤーの破綻によって引き起こされる。
⑥ 原油価格に絡む危機
原油価格を1バレル100ドル以上で推移させようと企む国等が、ホルムズ海峡やマラッカ海峡を閉鎖することによって勃発する。
2.世界大戦を勃発させる6つの起爆剤
① 東・南シナ海の危機
北朝鮮が日本、韓国を攻撃することからアメリカを巻き込んだ戦争となる可能性がある。また中国と日本の尖閣諸島問題、中国とインドの水資源問題がある。
② 旧ソビエト連邦における危機
潜在的な敵に囲まれるロシアは、率先して、あるいは脅威を感じる反応として、孤立状態を打ち破り、包囲網を突破しようとする。まずロシアは、シベリアの管理をめぐって中国と衝突する。
ロシアはクリミアとウクライナ東部の独立派の拠点地域を結ぶ細長い一帯を、またしても占領するだろう。アメリカとヨーロッパは、ロシアのこうした侵略を思いとどまらせるためにウクライナへの支援を強化する。ウクライナに武器を供与し、北大西洋条約機構(NATO)にウクライナを加盟させることを検討する。アメリカとヨーロッパのこうした動きを開戦事由と解釈するロシア政府は、アメリカに向けて先制攻撃を仕掛ける。
ロシアはカリーニングラードの飛び地状態も解消しようとする。特に少数派のロシア語を話す人々と、ラトビア、リトアニア、エストニア(これら3国をまとめて「バルト三国」という)の人々との間で、民族的な緊張が高まる場合であればなおさら。ロシアがバルト三国に侵攻すれば、エストニアはサイバーアタックを仕掛け、バルト三国全体が反撃に出る。そうなればおそらくNATOが介入し、世界大戦へと至る。
<参考>

ベラルーシが西側ヨーロッパ陣営につくなら、ロシアはベラルーシを奪回しなければならないし、それは可能だと考えるに違いない。これもNATO加盟国との戦争になる。西側ヨーロッパとロシアの二大勢力圏は軍事力で拮抗する。そのため、特にポーランドをめぐる緊張が高まる。この一触即発の状態は容易に暴発する。こうして二大勢力圏は戦火を交えることになる。
③ パキスタンの核戦略
パキスタン出身のテロ集団がインドに攻撃を仕掛ける可能性がある。
④ 中東の危機
シリア政権崩壊によるシリア発の危機、イスラーム原理主義者たちにより引き起こされるサウジアラビア発の危機及び、エジプト発の危機が考えられる。

⑤ サヘル地域とアフリカの角における危機
コートジボワールからケニア、ニジェールからエチオピアと、アフリカ全土でテロ組織の活動が活発化する。

⑥ イスラーム国
自分たちの影響力を拡大するため、イラクとシリアの領土の一部を再び占領しようとする。また、イスラーム教徒と、非イスラーム教徒を敵対させる目的で、ヨーロッパとアメリカで深刻な内戦が勃発する環境を作り出す。

明るい未来
これまでに上げたような最悪な事態が起きる可能性は極めて高く、その場合、2030年までに大きな危機や壊滅的な戦争が起きます。そして、世界的な危機や戦争は、人類に不可逆的な被害をもたらします。
このように考える理由は、地球規模の複合的な課題を自覚している人々の数が極めて少ないからです。またそれらの課題を理解したところで、今日、全世界に作用する巨大な力を捻じ曲げられるとは思えないからです。しかし、滅亡寸前の私たち人類に出来るのは、残された短い時間をせいぜい楽しく過ごすことだけなのでしょうか。
そうではなく、私たちはこの世界で生き生き過ごせるようになると期待するべきです。そのためには、私たちにとって他者の幸福は、他者の悲しみよりも有用であることを理解しなけれなりません。そして自分たちの憤懣を怒りではなく、利他主義へと誘導しなければなりません。
そのため、私たちはまず、自分自身に働きかけながら活動するのです。そのためにやるべきことは、以下の10個です。
自分の死は不可避だと自覚せよ
それにより、次のようなことを自覚するようになります。自分は唯一無二の存在であり、この世は諸行無常であること。自分の人生をより良くするのは大切なことであり、今現在を最期だと思って生きること。堕落、侮辱、束縛、阻害などに対して、健全な怒りをぶつけ、誰もが暮らしやすい世の中になるための最良の道筋を残しておくために全力を尽くすこと。
自己を尊重しろ、自分自身のことを真剣に考えろ
心身共に健やかでありながら充実した人生を送る手段を身に付けましょう。意義のないことや凡庸なことはするべきではありません。非常に高度な野心が必要であり、自分でなくても出来るようなことは、仕事でもプライベートでもなすべきではありません。なぜなら、全ての人生はその本質において唯一無二であり、その成就においても同様だからです。
変わらない自分を見つけろ
不変的な価値観を自己の奥底に見出し、それを明らかにし、自分がそれらに固執する理由を他者に分かってもらうことは、極めて重要です。
他者が行おうとすること、そして世界の行方について、絶えず熟考しながら自分自身の意見をまとめろ
世界を様々な側面から絶えず分析し、今後の出来事に対し甘受するのではなく健全に怒るのです。そしてこの憤懣を行動の原動力にするのです。
自分の幸福は他者の幸福に依存していることを自覚せよ
自分が不幸になる原因は、ほとんどの場合、他者の不幸に対する私たちの無分別や諦めからです。他者を喜ばせることが出来ないなら、それは自身の成功とは程遠い。そして特に、次世代に対して利他的になることは、自分自身の利益なのです。
複数の人生を同時かつ継続的に送る準備をせよ
野心と勇気をもって堂々と大胆に、複数の生涯プロジェクトを構想するのです。これらのプロジェクトは出来る限り、独創的かつ誠実なものであることが望ましい。その目的は、自己実現の様々な形式をたえず発見するためであり、自己開花の道筋でたえず新たな人々と出会うためです。
危機、脅威、落胆、批判、失敗に対する抵抗力をつけろ
それらに対する抵抗力を身に付ければ、へこたれない精神と勇気が得られます。他者に責任を押し付けることなく、自身の失敗から教訓を導き出すことが出来るのです。
不可能なことはないと思え
思いもよらないことを望み、ありそうもないことを考えましょう。待つのではなく行動するのです。
実行に移す
これまでの8つの段階をマスターしたなら、自分自身で、自己のために、自分にとって意義のある複数のプロジェクトを、理性を働かせ、他者の意見に耳を傾け、謙虚な姿勢で実行に移すのです。
最後に、世界の為にも行動する準備をせよ
「諦めた評論家」のような投げやりな態度になってはいけません。世界が地獄に向かって転がり落ちるなら、いかなる私的プロジェクトも実現できません。従ってあらゆる手段を動員して世界を救うために行動するのです。

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