無収入寿命を延ばし、利益至上主義で経営する。『売上最小化、利益最大化の法則』

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売上最小化、利益最大化の法則――利益率29%経営の秘密』の著者である木下勝寿氏は、東証一部上場の「北の達人コーポレーション」(2930)の代表取締役社長です。同社はEC企業であり、健康食品や化粧品の通信販売をしています。

本書のタイトルは「売上最小化」と書かれていますが、実際は、ここ5年間の売上は3.5倍に増えており、2021年2月期の売上高は約93億円。

(出所:北の達人コーポレーション

ここ5年間の経常利益は約3.8倍に増えており、2021年2月期の経常利益は約20億円です。

(出所:北の達人コーポレーション

つまり売上高経常利益率22%(=20億÷93億)ですが、このレベルの売上高経常利益率の会社はなかなかありません。下図は「主要産業の売上高営業利益率と売上高経常利益率」ですが、全主要産業の平均売上高経常利益率は2019年度、4.8%、小売業では2.8%です。22%というのが、いかに驚異的な数字かが分かると思います。

これらの実績を受け、2017年株価上昇率は日本一、1164%を記録しました。

(出所:経済産業省企業活動基本調査

売上を上げ続けている会社の社長の本のタイトルが、なぜ「売上最小化」なのでしょうか。

著者の経営哲学(財務面)は、

  • 会社永続のため、「無収入寿命」という指標を使い、無理な投資はしないということ
  • 売上至上主義ではなく利益至上主義にして商品の選択と集中を徹底すること

の2点であると思います。

経営者の方、起業したい方、良質な投資先を探す投資家の方等に、本書の内容は興味深いと思います。以下3つのポイントでご紹介します。

  • 無収入寿命
  • 利益至上主義
  • 5段階利益管理で商品の選択と集中を徹底する

無収入寿命

1.無収入寿命とは

無収入寿命とは、売上がゼロになっても経営の現状維持が出来る期間のことです。(著者の造語)経営者の最大の使命は、会社を存続させること。(=継続企業の前提=going concern)

経営の現状維持とは、減給なしで全従業員の雇用を維持し、家賃の支払いが出来ることです。収入が0になったとしても、会社は家賃、給与等の月額固定費が発生します。その時、会社の元手資金が何か月でなくなるか、というのが無収入寿命です。

景気は約10年単位で好況、不況を繰り返します。コロナ、地震等のアクシデントもあるでしょう。不景気になることを前提に会社経営をする必要があります。お金を借りないとまわらない事業は行わないことです。

著者は、無収入寿命を延ばす戦略をとってきました。無収入寿命が長い会社は既に勝ち組だと著者は言います。なぜなら、不況時は購買意欲が低下しているだけで、いつかは必ずそれらは復活するからです。不況に耐えた企業は、好況時に勝つことが出来ます。

2.無収入寿命を延ばす4つのステップ

(1)無収入寿命を何か月にするか目標を決める

不況の時は、事業改革や新規事業の立ち上げなどを行うことになります。会社を何か月で立て直せるかを考え、無収入寿命の目標を決めます。著者の場合、無収入寿命目標は2年だそうです。

(2)月次決算時に、無収入寿命を計算する

例えば月額固定費100万円の会社があるとします。無収入寿命の目標設定が2年の場合、2,400万円(=100万円×24か月)の純手元資金が必要になります。足りない場合は、幹部社員と共有し、純手元資金を増やす方法を考えます。

(3)無理な投資はしない

純手元資金が少ないにもかかわらず、多くの経営者は次の投資に踏み切ってしまうと著者は言います。売上を上げようとして、利益につながらない投資をしてしまうと、純手元資金が貯まりません。

(4)無収入寿命の目標値を達成できたら、安心してチャレンジする

無収入寿命が一定以上あると、精神状態も安定します。お金を借りるために何度も銀行に行き、お金集めに奔走することに時間を取られている社長も多いでしょう。ですが、将来を考える時間や、心に余裕がある社長の方が成功できるのではないでしょうか。

家計を預かる人なら、無収入寿命を考えるのは当たり前ですよね。大黒柱が何らかの理由で失業した、会社が倒産した等のアクシデントに備え、貯金をするはずです。普通は、貯金がないのに借金して車等を買いません。

多くの経営者は、売上をあげるには投資が必要だと思い込んでいます。手元資金がないのに銀行等から借金をし、投資してしまいます。家計ではやらないお金の使い方を、経営ではしてしまいます。

3.無収入寿命の算出方法

無収入寿命 = 純手元資金 ÷ 月額固定費(家賃、人件費等)

純手元資金とは、短期借入金を含まない手元資金です。短期借入金はすぐに返す必要があるので、手元資金として加算しません。この純手元資金を大きくすることが、無収入寿命を延ばすことになります。

純手元資金  = 総資産 - 固定資産 - 棚卸資産 - 流動負債

会社の貸借対照表を見れば、計算することが出来ます。

例えば北の達人コーポレーションの、2021年8月末時点の純手元資金は約40億円(=①7,030,062千円 – ②884,956千円 – ③943,795 – ④1,187,583)ですかね。(下図参照。流動資産の「その他」は内容不明であり、保守的に計算するため控除しました。)

北の達人コーポレーションの場合、無収入寿命24か月を目標値としているとのことなので、月額固定費は1億6千万円前後(=40億円÷24か月)なのではないかと思います。

(出所:北の達人コーポレーション 決算短信

なお、長期借入(固定負債)をすると、純手元資金を増やすことが出来ます。(裏技)ただし、長期的には返済が必要であることはお忘れなく。北の達人コーポレーションの場合、長期借入金も0ですね。

危機に陥った時、最後に会社を救うのは現預金です。どんなトラブル、アクシデントでも対処できるようにしましょう。

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Photo by Negative Space on Pexels.com

利益至上主義

1.売上至上主義 vs 利益至上主義

一般的に売上は多い方が良いと言われます。(売上至上主義)しかし、利益を上げている会社こそ、より多くの人の役に立っていると著者は言います。

お客さんの役に立つかどうか、価値があるかどうか、それはお金を渡す側、つまりお客さんが決めています。利益が出るということは、お客さんが価値を認めているということです。利益は、その会社が本当に役に立っているかどうかのバロメーターです。(利益至上主義)お客さんは、価値があると思うからお金を払うのであり、その結果利益が出ると納税という形で社会に還元されます。

まず売上を最大化してからコストダウンして利益を出すのではなく、先に利益目標を掲げ、目標を達成する最小の売上目標を決めます。経営における最大の目標は、利益を上げることです。

2.売上最小化

売上最小化とは、無駄な売上を上げないということです。無駄な売上を上げるということは、人件費、手間暇等が増えます。売上が大きい方がリスクも大きいです。売上が多いということは、商品数、顧客数、従業員数が多いからです。売上が10倍あるということは、リスクも10倍あるということです。ですので、利益が同じであれば、売上は少ない方が良いのです。

3.利益至上主義になる方法

会社を利益体質にするためには、社員を利益志向にすることです。高い利益率は、社長一人で成し遂げられるものではありません。会社の利益が高いのは、社員が利益について正しく理解し、行動してくれた結果です。北の達人コーポレーションでは、そのための社員研修が行われています。

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5段階利益管理で商品の選択と集中を徹底する

1.5段階利益管理

5段階利益とは、(1)粗利益、(2)純利益、(3)販売利益、(4)ABC利益、(5)商品ごとの営業利益という5段階です。

これにより、本当に儲かっているのか、売上につながらないコストはないか、業務ごと、商品ごとに採算が合っているかを見ることが出来ます。無駄なコストがどこで発生しているかが分かります。特定された無駄なコストを低減することで、利益率を高くしていきます。利益につながらない仕事はやめます。これにより、利益につながる仕事だけが残っていきます。

2.上限CPOを設定する

広告費を評価する指標にCPO(Cost Per Order)があります。つまり、1件の受注に対してかかるコストです。広告費をかけても無尽蔵に顧客が増えるわけではなく、収穫逓減の法則があります。

新商品が発売されたら積極的に買う人に対するCPOは低いですが、流行りだすと買う人に対するCPOは高い。また、保守的な人は広告を見てもなかなか買いません。絶対買わない人もいます。

商品販売からある程度時間が経つとCPOは上がっていきます。広告により、まず購買意欲が高い人 (CPOは低い)から獲得でき、時間の経過とともに購買意欲が低い人(CPOは高い)も獲得できますので、広告費をかければかけるほど、CPOは上がっていきます。したがって、最も全体利益が多くなる最適なCPOを見つけることが大切です。 著者の会社では、上限CPOを決めています。これにより、利益率が下がることを防いでいます。

3.定期購入のサブスクリプションビジネスモデル

広告費をおさえる方法として、サブスクリプションビジネスモデルがあります。

新規顧客を獲得するコストは、既存顧客の5倍と言われています。そして、定期的に新規顧客を獲得し続けるのは難しい。さらに、新規顧客の利益率も低いです。

定期購入してもらえると、新規開拓にかかるコストはないので広告費をおさえられますし、利益の源になります。新規顧客獲得以上に、既存顧客の維持が必要になります。

なお、既存顧客維持のために最重要なのは、品質です。企業がサブスクリプションに成功するということは、企業側にとっても、消費者側にとってもメリットがあるということです。

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Photo by Somben Chea on Pexels.com

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今回の本を読んで改めて北の達人コーポレーションの財務諸表を見てみたのですが、素晴らしいですね。本書の内容も、著者の考え方も素晴らしいと思いました。

なお、当企業に対する投資については、本日時点でPER約45倍だったので、私の感覚的には株価は少し高めです。ただし、こちらで紹介した通り、PER50倍までを指標とすれば、まだまだ買いかもしれません。(投資判断は、ご自身でお願いいたします。)

無収入寿命、利益至上主義等々、本書の考え方、参考にしてみてください。最後に、著者の言葉を本書から引用して、結びとします。

「経営者はたとえ売上ゼロになっても、全社員に給料を払い、家賃を払い、毎日安心して働く環境をつくる。身の丈を超えた大きな投資をする前に、何があっても社員を守る財務状況を作るべきだ」(by 著者)

この記事を面白いと思っていただいた方、カスタマーレビューも面白く参考になりますので、 『 売上最小化、利益最大化の法則――利益率29%経営の秘密 』 をご参照ください。

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