チャーリー・ティエン著『とびきり良い会社をほどよい価格で買う方法』は、バリュー投資に関する本です。著者のチャーリー・ティエン氏は、バリュー投資のウェブサイトである、グルフォーカス・ドットコムの創設者であり、CEOです。
本書の主なメッセージは「そこそこの会社の株」を「割安」で買うのではなく、「優良株」を「適切な価格」で買うということです。優良株であれば、本来の価値がどんどん成長していくので、適切な価格で買うことさえ出来れば、長期で保有することによって大きなリターンが得られます。
割高な価格でつかんでしまうと、優良株であっても、長期でもリターンが出ない場合があります。また優良株は、割安になることもほとんどありません。ですので、あくまで「適切な価格」で買うべきと言っています。投資の神様であるウォーレン・バフェット氏も同じことを言っています。
本書より、次の3つのポイントでご紹介します。
優良株の条件
優良株は、次の4つの条件を備えている株を言います。
1.好景気でも不景気でも利益率が高いこと
世の中には、景気に左右されやすい株と左右されにくい株がありますが、景気変動の影響を受けやすい株は、本書でいう優良株ではありません。過去10年で黒字だった期間(会計期間)が何回あったかという回数と、株価の平均リターンには相関性があることが分かっています。その相関性とは、黒字回数が多ければ多いほど、株価の平均リターンは高いということです。
つまり優良株を見極めるには、
「一にも二にも利益」
ピーター・リンチ
ということです。
また、過去10年一貫して黒字だった優良企業の中でも、営業利益率が一貫している企業の株式の方がリターンが良かったということが分かっています。
つまり、①毎年大体営業利益率が15%で安定している企業と、②営業利益率が20%のこともあれば10%のこともあるけれど、平均16%くらいだという企業を比較すると、①の方がリターンが良いということが分かっています。利益率は高いに越したことはないけれど、一貫していることの方がより大事であるということです。
2.ROIC(投下資本利益率)が高く、固定資産が少なくても良いこと
ROICとは、投下資本に対して、どれだけの税引後営業利益を出したかという指標です。
ROIC = 税引後営業利益(NOPAT)÷ 投下資本(株主資本 + 有利子負債)
本書ではROEの高さも同様に重要視されてはいますが、ROEの分母が株主資本だけなのに対し、ROICは有利子負債も含めた投下資本が分母なので、より操作性がない公平な指標として紹介されています。また固定資産が少なくても良いことの利点は、資本集約的な事業にならないということです。
資本集約的な事業は次のようなデメリットがあります。
- 競争力を維持するための設備投資が多い
- 在庫が積み増しされやすい
逆に、資本集約的な事業は参入障壁が高い、つまり他社が容易には市場に参加できないというメリットがあります。しかしそうであっても、資本以外の強みで参入障壁がある方が良いというのが、本書の主張です。
3.売上と利益が常に伸びていること
EPS(一株当たり利益)の成長率と、株価の上昇率には相関性があることが分かっています。ですので、EPSが成長している株に投資しましょう。
4.過去に行ったことを拡大するだけで成長出来るか
過去5年、10年はうまくいったけれど、何かしらの市場の変化があり、これからの5年、10年は全く状況が違うということが分かっている場合には、たとえ先に紹介した1、2、3の条件を満たしている場合であっても、将来性の観点から、投資は控えた方が良いということです。
優良株は安くなるのか
割安度を評価する方法は色々とあります。DCF法により求められる時価と比較して割安かどうか、PERが割安かどうか等。このうち著者の会社、グルフォーカス・ドットコム社には、DCF法による時価を算出できるツールがあります。
例えば、下図はApple社の時価をDCF法により計算した場合はいくらなのかということが分かるページの画面です。現在の株価は$151なのに対し、時価は$163.28と算出されているので、7.52%割安(=買って良い)と判断しているということです。この$163.28という時価は、成長期(Growth Stage)10年の成長率を14.7%とし、その後10年(Terminal Stage)の成長率を4%とし、その20年間の割引率を8%と仮定する場合の計算結果です。そして図の右側で「14.7%という成長率は、達成可能」、つまり$163.28という時価は妥当と判断しているということが分かります。
米国株に投資されている方等、特に参考になると思います。ただし、全ての状況で使えるわけではなく、割安度を評価する方法にも限界がある点注意の上、ご使用ください。
そして「そもそも優良株が割安になることはあるのか」ですが、ほぼほぼないと考えた方が良く、優良株を割安で買うことを考えるよりも、適切な価格で買うことを考えた方が良いです。ただし一時的に、次のような場合は優良株でも割安になることがあります。
- 市場全体に動揺が広がった時(2001年のITバブル崩壊、2008年リーマンショック)
- ある業界全体が苦境に陥っている時
- 市場が落ち着いており投資のチャンスはなかなかないが、仕手筋や投資会社の動きによって、多少の機会が生ずる時
チェックリスト
本書では、全ての投資家は、自分のチェックリストを作るべきだということが書かれています。チェックリストにより、複雑な手続きを単純化できます。
以下が、本書で紹介されている20のチェックリストです。
- この事業を理解しているか
- 企業を守る経営上の堀のお陰で、今後5~10年、同じか類似した製品を売り続けられるか
- この業界は変化が激しいか
- この企業は多様な顧客基盤があるか
- 固定資産が少ない事業か
- 景気循環に大きく影響される業界か
- この企業はまだ成長の余地があるか
- 過去10年間、好景気も不景気も利益を出し続けたか
- 営業利益率を安定して二桁を維持しているか
- 利益率は競合他社より高いか
- 15%以上のROICを過去10年維持しているか
- 一貫して二桁成長で、売上と利益を伸ばしてきたか
- 財務基盤がしっかりしているか
- 経営陣は自社株をかなり保有しているか
- 経営陣の収入は似た規模の会社と比べてどうか
- インサイダーはこの企業の株式を買っているか
- 内在価値やPERでは買った株価は妥当か
- 歴史的に見て、現在のバリュエーションはどうか
- これまでの不況期に株価はどうだったか
- 自分の調査にどれくらいの自信があるか
これは米国株が前提なので、利益率等は日本株の場合はかなり水準が違うと思いますが、上記のチェックリストを参考に、マイチェックリストを作ってみると良いと思います。
本書の詳細は 『とびきり良い会社をほどよい価格で買う方法』 をご参照ください。
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