貯金だけをしていることがいかに損なのか、長期投資の本質を、藤野英人著『投資バカの思考法』を読むと理解できると思います。
アベノミクスの本当の狙い
国の経済全体を考える時、「政府」、「企業」、「家計」という3つの主体があります。
家計部門の現預金は約1,100兆円、企業部門の現預金は約300兆円なのに対し、政府部門では約1,400兆円の借金を抱えています。政府部門だけにマイナスが偏っている状況です。(注:本書記載の数値とは異なりますが、最新数値に端数調整したものです。)
このような状況について、政府はこの2つの巨大なお金(家計と企業)を動かして借金を減らしたいと考えました。
お金を動かすための方法は、次の2つです。
- 増税
- インフレ
増税は、多くの国民が過敏に反応するため実行が難しいのですが、インフレは、増税ほどは国民は大騒ぎしません。なぜなら、インフレの本質を理解している国民が、増税を嫌がる国民より少ないからです。
そこで、政府はインフレ(物価が上がり、貨幣価値が下がる現象)をさせた方が良いと考えました。お金の(供給)量が増えれば、お金の希少性が下がって、お金の価値が下がります。すると相対的に物の価値が上がるので、インフレになります。
例えば、金は希少性が高いから値段が高いのです。
日銀の黒田総裁による「黒田バズーカ」で、円の価値は実質3割は下がったといわれています。なかなか普通の生活をしているとそのような実感はわきにくいかもしれませんが、円をたくさん刷ると、円の価値は下がっていきます。
そして、円の価値が下がるということは、家計や企業が貯めている現預金の価値も下がりますし、政府の借金の価値も下がります。円の価値が下がって喜ぶのは、政府です。
つまり、ただ現金を持っていても価値が下がるだけなのです。これにより、今のうちに消費か投資をさせるインセンティブを働かせようとしました。
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世の中には、お金持ちと言われる人たちがいます。下図は2021年の長者番付です。
この方々は「お金=現金」持ちなのではなく、「株持ち」ですね。
なお、下図は2020年の長者番付です。両者を比較すると、孫氏、柳井氏の2名は、2021年の1年間で2兆円以上増えていることが分かると思います。
株の力なくして、1年間で2兆円も資産は増えません。つまり、お金持ちの実態は、「株持ち」です。このような「株持ち」の方々は、アベノミクス、コロナバブルを通じ、資産を更に巨大化させました。
現預金だけを持っていた方々は、給付金や補助金で少し増えた等はあるかもしれませんが、おそらくほとんど資産額は変わっていないはずです。
現金だけを持っていることは損なのです。
「『投資しなければ損もしない』という考えは、短絡的です。円の価値が下がっていけば、投資や消費をしないことこそ損になるのに、そのことに気づいていないからです。」
マーケット感覚を養う
投資のプロである著者藤野氏は、マーケット感覚を養うために、次の3つのことを習慣にしているそうです。
1.他人の目になりきる
経済学者ケインズ氏の唱えていた、株の世界で有名な「美人投票理論」をご存じでしょうか。
「美人投票」とは、どの女性が一番美人票を獲得するかを予想して当てるゲームです。一番票を獲得する女性を当てるゲームなので、本当に自分の好みの女性を選ぶのではなく、「皆が好きそうな女性を選び合う」ことになります。そういった行動を全員がすることになります。つまり全員が、「周りの人が好きそうな女性を選び合う」ことになります。
株式投資の世界もこれと同じだと、ケインズ氏は言います。
あの人だったらどう思うか、〇〇さんならどう思うか、色々な立場の色々な考え方を持つ「他人の目」になりきって、物事(どの株式に投資するか等)を考えることが重要だということです。
2.関心事を増やす
藤野氏は、以下の情報源から情報を得ているそうです。
- 日経新聞
- SNS
- 街歩き
誰でも得られる情報ですよね。藤野氏は、プロの「専門知識」より「実践力」が大事だといいます。特別な情報よりも、日常なリアルな情報が、マーケット感覚を養うことにつながります。
情報に敏感になるためにも、関心事を増やすことが大切です。
3.物事を複合的かつ立体的に見る
人は皆、今までの経験に基づいた考え方をします。自分自身の経験というフィルターを通して物事を見ます。
そのため同じ物事を見たとしても、誰が見るかによってそれぞれ捉え方が異なります。人それぞれ、バックグラウンドが異なるからです。
そのため、「経験」というインプットを変えて、より多くの視点を持てるようにすることが大切です。新たなことに挑戦する、新たな場所に行ってみる、新しい人にかかわってみる、新たな趣味を持つ等、「経験」を変えれば、自分のフィルターの幅が広がるので、多くの考え方、視点を持てるようになります。
それが、物事を複合的かつ立体的に見るということです。
株価は過去ではなく「今」を見る
JINSという眼鏡のお店、ご存じの方も多いと思います。私も良く利用するのですが、藤野氏はJINSに投資し、5年で株価が60倍になったという経験をされました。
JINSの田中社長が経営に行き詰っていた時、ユニクロの柳井社長に相談されたそうです。
その時柳井社長に、「眼鏡を通じて何がしたいのか」、「何のために眼鏡の会社をしているのか」といった根本的な質問をされ、田中社長は明確に答えが出せなかったのだそうです。
その後、「意義」を突き詰め、JINSという会社は生まれ変わりました。
「アイウエアを通して、未来の景色を変えていく。」
これが、JINSのミッションです。
藤野氏は、このミッションに共感して投資を決めました。その結果、5年で60倍というリターンが実現しました。
「田中社長率いる会社の『価値』の変動への投資であって、『株価』への変動に投資したわけではない。」
本書の詳細は『投資バカの思考法』 をご参照ください。
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