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日本の平成の金融危機と、アメリカに端を発する世界的金融危機には、1つ大きな相違点があります。日本の危機では間接金融が起点になったのに対し、世界的金融危機では直接金融が起点になったことです。
日本の金融危機
金融危機の発生
1997年10月に三洋証券、同年11月に山一証券が破綻し、この連鎖は有力銀行にまで及び、都市銀行の北海道拓殖銀行が破綻しました。さらに翌週には徳陽シティ銀行が破綻します。
この経過の中、銀行同士の相互不信からインターバンク市場が機能不全に陥りました。
また、この空気が預金者にまで広がり、「タンス預金」が増えました。
銀行は自己防衛に走り、預金確保と貸出抑制により資金繰りの安定化を図りました。また、赤字により資本が毀損する中で自己資本比率を維持するため、貸出の回収に走ります。これがいわゆる「貸し渋り」「貸しはがし」です。その結果、「クレジット・クランチ(信用逼迫)」と呼ばれる状態に、日本は立たされました。
これに対し政府は、1998年2月に金融機能安定化緊急措置法を時限立法として成立させ、同年3月に大手銀行など合計21行に、1兆8,156億円の公的資金が注入されました。しかし、金額が小さく、対応も遅いことから「小さすぎて遅すぎる」(Too small Too late)と揶揄されることになります。
1998年央には、金融監督庁が主要銀行への立ち入り検査を実施し、不良債権のあぶり出しと十分な貸し倒引当金の計上を銀行に要請しました。
その後同年10月には金融再生法(破綻後の処理ルール)、金融早期健全化法(破綻前の処理ルール)が成立し、巨額損失に見舞われた大手15行に対し、1999年3月に7兆4,592億円もの公的資金が注入されました。
その後
金融危機対応後、「ゾンビ企業」問題と主要銀行の資本基盤の強化が問題として残りました。
まず「ゾンビ企業」とは、銀行の大口貸出先で経営不振に陥っていた企業のことです。
主に不動産、建設、商社、小売り、ノンバンクなどが対象でした。
こうした企業は、金融検査の中で「破たん懸念先」への格下げを迫られることが多く、ひとたび「破たん懸念先」に区分されると、追加的な貸出の道が実質的に閉ざされることになります。
そのため、法的整理に陥ることを防ぐには、債務者の貸借対照表を改善することが求められます。
そこでメインバンク等は、債権放棄、デットエクイティスワップ等によって貸借対照表を改善させ、「要注意先」に格上げすることによって法的整理を免れるように工夫してきました。
しかし、多くの業績不振企業はこのような小手先の財務立て直しでは十分に経営を再生させることが難しく、一度救済を受けた企業が、再び支援を仰がざるを得ないケースが出てきました。これが、「ゾンビ企業」と言われた背景です。
もう一つの問題は、主要銀行の資本基盤の脆弱さです。具体的には、「税効果会計」への依存が問題視されていました。
例えば100億円の損失処理を行うと、税率40%の場合40億円の「繰延税金資産」が計上されます。その結果、最終的な損失は60億円(=100億円‐40億円)に抑えられます。
しかし、「繰延税金資産」が会計上の資産として認められるには、将来的に多額の利益が計上され、「繰延税金資産」を取り崩すことによって利益が相殺され、税負担が軽減される見通しがある(資産性がある)ことが必要です。
もし、監査法人等によってこの資産性が否定されれば、「繰延税金資産」の計上は認められず、それを取り崩されることによって、資本が毀損されることになります。2003年のりそな銀行の経営危機は、この税効果会計の問題が引き金となりました。
2002年10月には、竹中平蔵氏による「金融再生プログラム」のもと、資産査定の厳格化、自己資本の充実、ガバナンスの強化の3点がフォーカスされ、過去に実施した「ゾンビ企業」への金融支援が適切であったかどうかも厳しくチェックされました。また多くの銀行が公的資金に頼らず自助努力で増資を行いました。税効果会計問題が露呈したりそな銀行の場合は、2兆円近くに及ぶ公的資金が、預金保護法に基づき投入されました。
こうした一連の努力の結果、三菱東京フィナンシャル・グループとUFJホールディングスが合併するなどの大銀行の再編等も経て、金融システムの安定化、銀行財務の健全性の回復が無事成し遂げられることになります。
世界的金融危機
リーマンショック前
1999年、アメリカでグラム・リーチ・ブライリー法(GLB法)が成立し、商業銀行と投資銀行の兼営が認められるようになりました。これにより、巨大な金融グループを形成することが可能になります。
同じ頃、アメリカの中央銀行であるFRBが経済立て直しのため金融緩和を続け、2001年には累計10回以上の利下げを行う等、2004年まで緩和が続けられました。この金融緩和により、株式や不動産価値上昇の下地が出来ます。
一方、年金や投資信託は低金利環境で運用に苦労をしており、新たな投資機会を求め、ヘッジファンドにも資金が流入しました。ヘッジファンドの運用者は、構造的にハイリスク・ハイリターンを好みます。そしてこのリスクマネーの到達先となったのが、「サブプライム住宅ローン」です。
「サブプライム住宅ローン」は、一般的には貧民層向けのローンと解説されていますが、実際は、この住宅ローン増加の主役は中間所得層です。中間所得層が、住むための住宅ではなく、住宅の値上がり益を期待した投機を、ローンを頼りに行ったものが、「サブプライム住宅ローン」です。
銀行は「サブプライム住宅ローン」を貸すとすぐに証券化していました。これを「OTDモデル」(Originate-To-Distribute)と言います。この場合、銀行にとってローンの「金利」ではなく証券化商品の「組成」や「売却手数料」が主な収益源となるため、信用リスクに対する審査が甘くなりやすくなります。
そしてSPCやSPVと呼ばれる特別目的会社を通じて証券化されたABS(Asset Backed Securities:資産担保証券)は、また別の金融機関に買い取られ、集められて再び証券化され、CDO(Collateralized Debt Obligation:債務担保証券)と言われる商品になり、最終的な投資家に販売されました。
こうした商品は、格付け機関から信用力の高い格付けを取得することで、MMF等の安全志向が強い投資家が投資しやすい体裁が整えられていました。
格付け機関が高い格付けを付与していた理由は、住宅ローンを借りていた個別の人達が同時に破綻することはないというロジックです。しかし、フロリダやカリフォルニアなどのローンが多かったため、この地域での住宅価格が下落し始めると、地域分散が働かずにCDOのリスクが急激に高まってしまいました。
そして2006年後半から、サブプライム住宅ローン等の焦げ付きが増え始め、2007年8月にBNPパリバの子会社の資産運用会社が苦境に陥るなどして、この問題が露見します。
リーマンショックとその後
2008年にはベアスターンズが資金繰りの危機を迎え、同年5月にJPモルガン・チェースに救済買収されました。同年9月15日に、アメリカの名門投資銀行で当時業界第5位のリーマン・ブラザーズが破綻しました。
金融危機が発生すると、投資銀行はあっという間に最期を迎えます。この点、銀行等とは破綻のスピードが異次元です。
破綻直前のリーマン・ブラザーズの貸借対照表を見れば、その資金繰りや財務体力がいかに脆弱であったかが分かります。総資産83兆円に対して自己資本はわずか2.4兆円。資産の内大半が長期のCDOやその他金融商品に投資され、安定的なものは14兆円に過ぎませんでした。そのため、一旦金融市場からの資金調達が滞ると、資産を売却して対応することが難しいのです。
リーマン・ブラザーズ倒産後、ゴールドマンサックスやモルガン・スタンレーは銀行持ち株会社へ移行し、メリルリンチはバンクオブアメリカに救済買収されました。また三菱UFJフィナンシャルグループがモルガン・スタンレーへの出資を決定します。
アメリカ政府は、大型の金融機関救済の予算を決定し、7,000億ドル(約100兆円)のTARP(Troubled Asset Relief Program)を制定し、主に大手金融機関への資本注入に使われ、リーマンショックは収束に向かっていきます。
本日のオマケ
私の本日の取引
1.日本株式インデックスファンド 10,000円(自動買付) (ニッセイ-<購入・換金手数料なし>ニッセイ日経平均インデックスファンド) 2.世界株式インデックスファンド 10,000円(自動買付) (SBI-SBI・全世界株式インデックス・ファンド)
私の投資方針
1.投資対象は、株式インデックスファンド、又は個別株式のみ 2.世界株式インデックスファンドは、老後まで基本的に売却しない 3.レバレッジ、信用取引等はしない 4.財政状態、経営成績が良く、PER及びPBRが低めの割安株式を買う 5.平時は、預貯金の残高が減らないペースで積み立てる 6.暴落等により含み損が発生した場合、含み損状態を脱するまで、平時より積立額を増額する
投資方針の根拠
1.ジェレミー・シーゲル著『株式投資 第4版』 ・長期の実質トータルリターンは、他の資産に比べ株式が圧勝する 2.山崎元、水瀬ケンイチ著『全面改訂 第3版 ほったらかし投資術』 ・世界株式インデックスファンド、特に(eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)がお勧め 3.厚切りジェイソン著『ジェイソン流お金の増やし方』 ・基本的に売らない 4.ジョン・C・ボーグル著『インデックス投資は勝者のゲーム』 ・インデックスファンドは98%の確率で、アクティブファンドに勝てる 5.チャーリー・マンガー著『マンガーの投資術』 ・素晴らしい会社を適正な価格で買う