Column
2023年、日本の株式相場は、円安が追い風となり、好調な海外の消費意欲を支えに外需で稼ぐ製造業の業績が底堅く推移する結果、堅調な展開になりそうです。
非製造業は長く厳しい時期が続きましたが、日本でもウィズコロナ政策が浸透して個人消費が回復し、さらに10月11日より日本帰国者だけではなく訪日外国人観光客も、これまで以上に入国しやすくなったことから業績に底入れ感が出てきました。
この結果、世界の機関投資家の間で、欧米株との比較から消去法的に日本株が選別される可能性があると考えられています。
グローバル・オンリーワン企業が強い
現在企業の四半期決算が発表されている最中ですが、過去最高益を更新する企業が相次いでいます。中でも信越化学工業、ローム、アドバンテスト、コマツ等は純利益の水準が過去最高となりました。これらの企業に共通するのは、「グローバル・オンリーワン企業」であることです。
信越化学工業は、半導体シリコンウエハーと住宅配管用塩化ビニール樹脂という得意分野を持ち、ロームは自動車向けの絶縁ゲートドライバが強みで、電気自動車の増加という世界の潮流に乗っています。アドバンテストは先端半導体の試験装置という得意分野を持ち、コマツは資源開発現場での建設機械で高い世界シェアを持ちます。
こうした世界に通用する得意分野を持つ「グローバル・オンリーワン企業」は、取引先がこれらの企業の製品を使わざるを得ないため値上げしやすく、企業業績が伸びるという好循環が生じます。
2022年3月期の決算発表時、有力企業の多くは今期2023年3月期の想定為替レートを1ドル115円~120円に設定していましたが、その後の急激な円安の進行により、海外で稼いだドルを円換算する時に利益水準が膨れ上がる構図が出来ました。
円安により増収減益となる
一方で、減益となった有力企業も少なくありません。既に第二四半期決算を発表したパナソニック、三菱電機、トヨタ自動車など、日本を代表する外需型の製造業が減益を余儀なくされています。
これらの企業に共通しているのが、円安により「増収」したものの、製造過程での原材料高等によって利益が圧迫され、「減益」となったという構図です。
ただし価格転嫁、原価改善の努力等により、三菱電機、トヨタ自動車は2023年3月期通期では、最終利益(当期純利益)の見通しについて当初見通しを据え置いています。
非製造業の復活
コロナ禍で大きな打撃を受けた小売り、概則、レジャー、電鉄、空運などの非製造業の復活が始まりました。
JR東日本は2023年3月期の第1四半期より、最終損益が3年ぶりに黒字になりました。鉄道収益がコロナ前の約7割の水準まで回復し、エキナカ店舗、ホテル、ショッピングセンター事業も持ち直しています。
ANAホールディングスも、2023年3月期の第1四半期に最終損益が10四半期ぶりに黒字になりました。国際線での旅客需要が想定以上に回復するほか貨物も堅調に推移しており、2023年3月期通期の業績予想を上方修正しています。
三越伊勢丹、高島屋などの百貨店も、富裕層マネーが流入し、2022年5月以降、既存店売上高が急回復しています。
前期に引き続き、総合商社や海運も好調です。
資源高の恩恵を受ける商社は2023年第1四半期から大幅増益となりました。海運では、中国と北米を結ぶコンテナ船の需要が根強く、日本郵船、商船三井、川崎汽船いずれも2023年3月期通期の業績予想を上方修正しています。配当利回りも高く、海運セクターへの注目は続いています。
こうした好調な企業業績を受けて日経平均ベースの1株当たり利益(EPS)は順調に伸びており、株価収益率(PER)は12倍~13倍で推移し、過熱感や割高感は薄いと言えます。
米国と日本では、自社株買いレベルが違う
日本企業は、好調な業績を受け内部留保を増やしており、現預金だけで350兆円と言われるキャッシュリッチな状態で、海外投資家から還元の強化を求められています。こうした流れもあり、日本企業は自社株買いを積極化しています。
2022年度に日本企業が行った自社株買いは8兆1,200億円と過去最高になりました。2023年度もこの傾向は続いており、年度ベースで過去最高を更新するのは確実です。事業法人による自社株買いは、買った株式を消却するため、将来的に売りに出る可能性は極めて小さいと言えます。そのため、自社株買いほど株式相場の需給関係に好影響を与えることはありません。
米国株相場がここ数年大きく上昇してきた最大の要因も自社株買いです。
利益のうちどの程度を株主に還元したのかを示す指標に配当性向があり、日本企業の配当性向は平均35%、米国39%であり、それほどそん色はありません。しかし、自社株買いも加味した総還元性向で見ると、日本企業の46%に対し、米国企業は100%を超えています。つまり米国企業は利益の全てに加えて借入金までして株主のために使う構図が続いており、これが米国株式相場の上昇を支えてきました。
しかし、米国ではFRBが利上げを続けており金利の水準が上がっているため、借入をしてまで自社株買いを行う企業は今後減少すると考えられます。
海外株主の投資行動
グローバルな視点で株式投資をする海外の機関投資家は、ここ数年、上昇が続く米国株、欧州株を中心に保有してきました。そのため、2021年まで米国の3指数と、欧州主要国の株価指数はいずれも過去最高値を更新していました。アジアでは、潜在成長力のある中国株に注目が集まっていました。
しかし、この流れが変わりつつあります。
2022年3月以降、米国の利上げ開始、ロシアによるウクライナ戦争を受け、欧米の株式市場は大きく調整しました。海外投資家は、まず欧州株の売却を進め、4月以降は米国株も売却し始めました。債券相場も下落していたので、株式から債券への資金移動も出来ず、手元のポートフォリオは現金比率が高まっていました。ヘッジファンド等短期間で運用成果を求められる機関投資家は、いつまでも現金ポジションを多くしている訳にもいかず、7月以降消去法的に日本株に注目し始めています。
日本は企業業績が安定しており、主要国の中では唯一低金利政策が続けられています。また外需型の製造業のウエートが高い中で円安メリットが続きそうなこと等も、日本株の保有を増やす要因になっています。
参考文献(日本経済新聞社『これからの日本の論点2023 日経大予測』)
本日のオマケ
私の投資方針
1.投資対象は、株式インデックスファンド、又は個別株式のみ 2.世界株式インデックスファンドは、老後まで基本的に売却しない 3.レバレッジ、信用取引等はしない 4.財政状態、経営成績が良く、PER及びPBRが低めの割安株式を買う 5.平時は、預貯金の残高が減らないペースで積み立てる 6.暴落等により含み損が発生した場合、含み損状態を脱するまで、平時より積立額を増額する
投資方針の根拠
1.ジェレミー・シーゲル著『株式投資 第4版』 ・長期の実質トータルリターンは、他の資産に比べ株式が圧勝する 2.山崎元、水瀬ケンイチ著『全面改訂 第3版 ほったらかし投資術』 ・世界株式インデックスファンド、特に(eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)がお勧め 3.厚切りジェイソン著『ジェイソン流お金の増やし方』 ・基本的に売らない 4.ジョン・C・ボーグル著『インデックス投資は勝者のゲーム』 ・インデックスファンドは98%の確率で、アクティブファンドに勝てる 5.チャーリー・マンガー著『マンガーの投資術』 ・素晴らしい会社を適正な価格で買う