Column
前回記事で、1970年代に始まったオイル・ショックというエネルギー価格急騰から、世界の過剰流動性が始まったという話を取り上げました。
つまり、世界の大半を占める石油消費国(非産油国)の富が、産油国へ一方的に吸い上げられてしまったので、非産油国で通常の経済活動を取り戻していくためにマネー供給をしたことから、世界の過剰流動性が生まれたということです。今回はその続きです。
2000年コンピューター誤作動問題
1997年頃から、2000年のコンピューター誤作動問題がささやかれ始めました。2000年という世紀の大台が切り替わるときに、果たして「0.00」を刻んでくれるかどうか、各国で警戒感が高まりました。
コンピューターの誤作動があちこちで発生したら、列車の衝突、飛行機の墜落、経済の混乱等大変なことになるということで、各国は98年に入ってからは過剰流動性の削減方針を一旦停止し、逆にマネーの供給を大幅に増加させました。当時、情報通信関連ビジネスが急伸していたことと相まって、ITバブルにつながっていきました。
結局、懸念されていたコンピューター誤作動問題は発生せず、今度こそは本格的に金融引き締めをしなければと各国が動き始めた結果、ITバブルの崩壊へとつながります。
同時多発テロが金融のタガを外した
ITバブルの崩壊の中でも、各国は断固として金融引き締めを続けていたのですが、その流れが一気に変わる事件がありました。2001年9月11日に発生した、米国の同時多発テロです。
9月11日、株式取引は休場を余儀なくされ、債券市場は機能不全に陥りました。世界同時不況を警戒しなければということで、各国は再び大量の資金供給を開始します。これが、オイル・ショック、コンピューター誤作動問題に続く、第3回目の世界的なマネーの大量供給です。そしてこの頃から、実体経済とかけ離れた「金融のひとり歩き」が顕著になっていきました。
テロ撲滅を掲げた対テロ、イラク戦争が開始され、マンハッタン地区再建に伴い不動産投資が過熱し、さらに数式や金融工学を駆使した証券化商品等が次々と編み出され、株価も債券価格も強烈な上昇軌道を描きました。
「根拠なき熱狂」
(アラン・グリーンスパン、元FRB議長)
もはや、「過剰流動性は危険」とする声は聞かれなくなり、必要であればいくらでも金融緩和すればいいという考えが、米国を中心に広がっていきました。
グローバル化がインフレなき経済発展をもたらした
1991年にソ連が崩壊して冷戦が終わり、世界経済のグローバル化が加速しました。これにより、新興国などの安い労働力が世界経済にどんどん組み込まれるようになります。
先進国は新興国への工場進出を活発化させ、そこで生産された安い製品を世界中に次々と送り出していきました。また世界中から低賃金労働力そのものが、先進国や産油国などへと大量供給されました。そういった流れの中で、新興国(特に中国)は経済発展し、世界経済も大いに潤いました。
この世界経済のグローバル化現象が、世界全体の低価格化、つまり「インフレなき経済発展」をもたらしました。「より大きな利益を上げるには、より低コストの生産体制を構築する必要があり、より高い株価を期待するのであれば、より徹底した利益収奪体制を築くべし」という考え方です。いわば新興国の植民地主義といってもいいでしょう。
しかしこれが、最近よく言われる「中進国のワナ」を生み、その反動として強権国家の台頭をもたらしています。
中進国のワナと強権国家の台頭
「中進国のワナ」とは、新興国はどこもある程度までは経済発展するが、そこから先は停滞に陥る現象を言います。つまり、先進国企業の資本進出等により新興国はしばらく急速な経済発展をするものの、先進国企業が常に利益最大化を求めるため、現地労働力等への分配はさほど進まず、その国の消費力も期待するほどには伸びていかないというジレンマです。
このジレンマから、新興国の間では強権政治への傾斜が強くなっていきます。
労働者がどんなに頑張っても報われない横で、政治家や官僚の間で腐敗や賄賂、横領等がはびこるので、そんな腐敗した民主政治より強権政治の方が、まだマシだからです。しかしこれが、世界で地政学的なリスクを高めています。
最近では中国も、「中進国のワナ」にハマりつつあります。
中国ではこれまで、地方政府が競って不動産会社への融資に走ってきていました。その結果、不動産関連企業の債務と地方政府の融資残高は天文学的な金額にまで膨れ上がっています。その状況下で、世界的な金利上昇によるデフォルトに巻き込まれると、中国全土に債務危機が連鎖しかねません。住宅ローンを抱えた人々の多くが窮地に陥り、個人消費が大きく減退し、地方政府は巨額の不良債権を抱え込むことになります。
中国14億人の民を満足させるには、年6%の成長が欠かせないと言われてきました。しかし、IMFの世界経済予測によると、中国が2022年以降6%の成長を維持することは難しいとみられています。
サブプライムローン問題
2007年8月、米国でサブプライム・ローン問題が発生しました。
サブプライム・ローンとは、中間所得層が、住むための住宅ではなく住宅の値上がり益を期待した投機を、ローンを頼りに行ったものです。つまり住宅の値上がりが前提となったローンなので、住宅価格が下落し始めるとサブプライム・ローンの焦げ付きが増え始めます。
2007年8月、BNPパリバの子会社の資産運用会社が苦境に陥るなどして、この問題が露見します。
つづく
参考文献(澤上篤人著『暴落相場とインフレ 本番はこれからだ』)
本日のオマケ
私の投資方針
1.投資対象は、株式インデックスファンド、又は個別株式のみ 2.世界株式インデックスファンドは、老後まで基本的に売却しない 3.レバレッジ、信用取引等はしない 4.財政状態、経営成績が良く、PER及びPBRが低めの割安株式を買う 5.平時は、預貯金の残高が減らないペースで積み立てる 6.暴落等により含み損が発生した場合、含み損状態を脱するまで、平時より積立額を増額する
投資方針の根拠
1.ジェレミー・シーゲル著『株式投資 第4版』 ・長期の実質トータルリターンは、他の資産に比べ株式が圧勝する 2.山崎元、水瀬ケンイチ著『全面改訂 第3版 ほったらかし投資術』 ・世界株式インデックスファンド、特に(eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)がお勧め 3.厚切りジェイソン著『ジェイソン流お金の増やし方』 ・基本的に売らない 4.ジョン・C・ボーグル著『インデックス投資は勝者のゲーム』 ・インデックスファンドは98%の確率で、アクティブファンドに勝てる 5.チャーリー・マンガー著『マンガーの投資術』 ・素晴らしい会社を適正な価格で買う