様々な投資のガイドブックに「長期投資はリスクを減らす」という主張があります。「単年度ではいい時も悪い時もあるが、長期的には打ち消し合って、中庸のところに落ち着く」ということです。これは、サイコロを何回もふっていれば、偶数の目が出る回数と奇数の目が出る回数が限りなく半々に近づいていくという理屈と同じです。
理論は確かにその通りではありますが、「長期投資をすれば元本割れしない」というわけではありません。「長期投資」を妄信するのは危険です。
シミュレーション
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が公的年金の運用の前提としている日本株の想定リスクは23.14%、期待リターンは5.6%です。このリスクリターンを前提として、こういうリスク商品に10~50年間投資して運用した場合に、リターンがどのような分布になるのかを示したのが、下図です。
乱数を使ったシミュレーションを1万回実施し、運用期間(10年から50年まで)を横軸にとって、ベストだった時とワーストだった時の年率利回りの変化を示したものです。
この図を見て分かることは、
1.元本割れ確率は経過年数が長期化するにつれ右肩下がりに低下していくものの、このシミュレーションにおいては、50年間運用したとしても15%以上の元本割れ確率があったということ、
2.運用期間が長期化するにつれ、最高利回りと最低利回りの差が縮まっていき、年率リターンが中央値、又は平均値に集中する傾向があること、です。
しかし、長期に運用すれば年率リターンの幅は小さくなるとしても、実額の差はどんどん大きくなります。下図は、先ほどと同じシミュレーションの結果を、実額で示したものです。
最高利回りの時は、元本1万円が1,400万円を超えるのに対し、最低利回りでは0に張り付いており(元本1万円を割っている)、50年後の運用結果は1,400万円以上の差が生じたことが分かります。
過去と未来は別
積立投資を続ければ、当然同じ金融資産(インデックス投信等)を大量に保有するようになります。それが十分なリターンを生むかどうかは、換金、あるいは評価する時の相場次第です。
「過去の積立投資の実績を見ると、平均値はこんなに高く、長期に取り組むと元本割れを起こしていなかった」というストーリーは、リスク商品への投資をためらっている人に、金融商品を買わせる「鉄板用語」です。しかし、間違いなく元本は確保できそうだと顧客に信じ込ませて投資商品を販売し、元本割れになったケースはいくらでもあります。
過去の実績において元本を起こしていなかったとしても、「将来も元本割れはしないという意味ではない」ということを、私たちは認識しておく必要があります。
「過去」がプラスリターンでも、「未来」が元本割れだったケースはいくらでもあるのです。
参考文献(前田昌孝著『株式投資2023 不安な時代を読み解く新知識 』)
本日のオマケ
私の投資方針
1.投資対象は、主に株式インデックスファンド、又は個別株式とする。 2.世界株式インデックスファンドは、老後まで基本的に売却しない 3.レバレッジ、信用取引等はしない 4.財政状態、経営成績が良く、PER及びPBRが低めの割安株式を買う 5.平時は、預貯金の残高が減らないペースで積み立てる 6.暴落等により含み損が発生した場合、含み損状態を脱するまで、平時より積立額を増額する
投資方針の根拠
1.ジェレミー・シーゲル著『株式投資 第4版』 ・長期の実質トータルリターンは、他の資産に比べ株式が圧勝する 2.山崎元、水瀬ケンイチ著『全面改訂 第3版 ほったらかし投資術』 ・世界株式インデックスファンド、特に(eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)がお勧め 3.厚切りジェイソン著『ジェイソン流お金の増やし方』 ・基本的に売らない 4.ジョン・C・ボーグル著『インデックス投資は勝者のゲーム』 ・インデックスファンドは98%の確率で、アクティブファンドに勝てる 5.チャーリー・マンガー著『マンガーの投資術』 ・素晴らしい会社を適正な価格で買う