Column
経済成長が鈍化しているにもかかわらず、インフレ率はしばらく引き続き5%を超える可能性があります。米連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレ率の低下が最優先課題であることを強調しながら、金融引き締めを進めています。この目標達成への道筋は、国や経済にとってどのようなものなのでしょうか。
セントルイス連邦準備銀行のエコノミスト、ウィリアム・R・エモンズは、1960年代からの経済史に基づき、「許容できないほど」高いインフレ率がどのようにして低下するか、つまり、FRBの目標水準である2%に戻るかについて3つのシナリオを示しました。
一つは迅速で比較的苦痛の少ない方法、もう一つはより長引き苦痛を伴う方法、そして最後は米国が1967年から1982年に経験した、さらに困難な道となる方法です。
エモンズ氏は、連邦準備制度理事会(FRB)が経済の進路を導く上で重要な指導的役割を果たすが、国民も果たすべき重要な役割を持っていると言います。
- 第一の道は、全ての企業や労働者が、物価や賃金の設定要求を2%のインフレ率に合わせるように経済全体で迅速に行動することにより、迅速で比較的痛みの少ない結果が得られるというもの。
- 第二の道は、FRBが金利を引き上げ、徹底的にインフレ退治をするというもの。これは「経済のスラック」、つまり経済の縮小と失業率の上昇を生み出す可能性がある。
- 第三の道は、最初の二つが実現しなかった場合、スタグフレーションとなる。その場合、インフレ率2%達成は、より長くより困難な道となる可能性がある。
第一の道
第一の道は、2023年~2024年までにインフレ率が2%まで急速に低下し、その後はその水準にとどまるというものです。
2020年8月のFOMC声明によると、FRBは2012年以来、インフレ率2%を目標とすることを正式に約束しており、この水準を長期的に平均的に達成することを目指しています。このシナリオは、エモンズ氏が説明した中で最も楽観的なものです。
しかしエモンズ氏は、このシナリオはFRBの信頼性に大きく依存すると言います。
インフレになると従業員がより高い賃金を要求するようになり、その結果企業はより高いコストを負担し、企業がそのコストを価格に転嫁する結果価格が上昇し、更にインフレが進行するというスパイラルに陥る可能性があります。(下図参照)
この悪循環を止めるには、「FRBが2%のインフレ目標を国民に伝え、国民がFRBを信頼し、国民がその目標の達成に協力する」という条件が必要になります。
第二の道
第二の道は「経済のスラック化」による方法です。
故ポール・ボルカーは、1979年から1987年まで連邦準備制度理事会(FRB)の議長を務め、金融政策の急進的な転換に成功し、国を2桁のインフレから1桁前半のインフレへと導いた人物として知られています。しかし、経済的な犠牲もありました。
下図は、ボルカー氏がFRB議長だった期間における消費者物価指数の対前年比上昇率(青)と失業率(赤)を比較したものです。またグレーの網掛け部分は、景気後退期を示します。
これを見ると、インフレ率が下がっていく過程で、失業率の上昇と、景気後退が引き起こされたことが分かります。
この第二のシナリオでは、第一のシナリオと同様インフレ率はFRBの目標である2%まで低下し、そこにとどまります。しかし、インフレ率はより不規則で予測不可能な形で、2026年までという長い期間にわたって低下していくと、エモンズ氏は考えています。
このシナリオをエモンズ氏は、「麻酔なしで根管手術をするようなもの」といいます。1回以上の景気後退と高い失業率を伴う「ハードランディング」となる可能性があります。
このシナリオによるインフレ率の低下は、中央銀行への信頼よりもむしろ「経済のスラック」が長期化したために起こります。「スラック(需給の緩み)」とは、経済全般や労働市場での供給の「余剰」を指します。つまり労働市場の「スラック」とは、働く意思や能力があるにもかかわらず仕事がみつからない人が非常に多い状態、すなわち未活用の労働力が存在する状態(失業率が高い状態)のことをいいます。
第三の道
第三の道は「スタグフレーション」です。
「スタグフレーション」とは、経済の停滞、つまり国内総生産(GDP)の成長の鈍化または低迷と、高インフレの組み合わせです。このシナリオでは、インフレ率はFRBの目標水準に一時的に達するかもしれませんが、負のショックがない場合にしか2%に落ち着かないとエモンズ氏は言います。落ち着くには10年以上かかる可能性があり、「第一の道」「第二の道」が実現しない場合、米国に残されたシナリオはこの「第三の道」になるかもしれません。
米国で最後にスタグフレーションが起こったのは、1967年から82年の間でした。エモンズは、その間の経済状況をいくつか紹介しています。
- 4回のリセッションがあった。
- 年平均のインフレ率は6.5%であった。
- 失業率は平均6%であった。
- インフレ率は過去15年間の平均をすべての年で上回った。
この「第三の道」の場合、企業や家計はFRBを信用せず、2%というインフレ目標達成に協力しません。そのため個々には合理的な行動をとるものの、全体としてはインフレ圧力を高めるような行動をとることになります。その結果、外的ショック(食料品やエネルギー価格に影響を与えるようなもの)や景気の浮き沈みによって、インフレ率は上下することになります。(下図参照)
まとめ
現在のインフレ状況がどうなるかは誰にもわかりませんが、1970年代の歴史は、私たちが直面するであろう課題の規模を考える枠組みを与えてくれる非常に重要なものだと言えるでしょう。
参考:Three Ways That High Inflation Could End | St. Louis Fed (stlouisfed.org)
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