マルチ商法は法律でも認められており、「合法」です。しかし、金銭トラブルに加え、友人や知人、恋人、家族間の人間関係に問題が生じる例も多いことから、特定商取引法(特商法)では厳しい規制が設けられています。行政規制に違反した場合、業務改善の指示や取引停止命令、役員等の業務禁止命令の行政処分の対象となるほか、罰則の対象にもなります。
2022年10月、消費者庁が「日本アムウェイ合同会社」に対し、社名や目的を言わずに勧誘したことなどが特商法違反に当たるとして、6カ月の取引の一部停止命令と、再発防止策を講じることなどを求める「指示処分」を出しました。同社に対する初めての行政処分で、新規会員の登録と勧誘が6か月停止される措置に、業界は衝撃が走りました。
ねずみ講との違い
マルチ商法と類似していて、よく勘違いされるのが「ねずみ講」です。ねずみ講はマルチ商法と同様、会員が組織外の人を勧誘し、次々と会員を増やしていくというスキームに共通点があります。
一方で、マルチ商法はルールを守れば合法ですが、ねずみ講は犯罪行為に当たります。ねずみ講はマルチ商法と異なり、商品を取り扱わず、主に金銭で成り立っているという特徴があります。先順位者が後順位者の金品から、自己の金品の価値又は、数量を上回る価額・数量の金品を受領する配当方式になっているため、「破綻が避けられない商法」だからです。
脱法マルチ
特商法で、マルチ商法には厳しい規制がかけられていますが、規制を免れる「脱法マルチ」は後を絶ちません。最近では、新しい形態のマルチ商法が次々と誕生し、消費者との新たなトラブルや、行政機関とのいたちごっこを生んでいます。
「モノなしマルチ」もその一つです。従来のマルチ商法は、健康食品や食品、美容用品など「モノ」を取り扱っていました。しかし、モノなしマルチは、暗号資産、仮想通貨といったサービスや副業に対し、人を勧誘して報酬が還元されるのが特徴です。モノなしマルチは、事業者の実態や、儲け話の仕組みが不透明です。消費者側が事業者に対し、解約や返金を求めても、交渉が難しいケースも多くみられると言います。
また実際はマルチ商法だが、紹介料の説明などを事前に一切しない「後だしマルチ」も横行しています。例えば、勧誘者と業者から「先物取引で必ず成功する。必勝法が入っている」と説明を受け、消費者は100万円でDVDを購入するものの、DVDの中身は、ただの先物取引の一般的な説明だった等。消費者側が説明を求めたところ「人にDVDを買わせれば、1人30万円もらえる」等と説明し、実際のスキームを明かすと言ったものです。
被害者の実例
消費者被害は20歳を境に、急激に増えることがデータから示されています。国民生活センターによると、全国の消費生活センターなどに寄せられた2020年度の20~24歳からの相談件数は平均9,357件で、18,19歳の約1.6倍でした。成人年齢を18歳に引き下げる改正民法が2022年4月1日から施行されたことから、18,19歳の消費者トラブルが増加する懸念があります。
なぜ、若者はマルチに魅入られるのでしょうか。
30代の元構成員
軽い気持ちだった - 。
足を踏み入れる前、疑う気持ちはあったものの、「おかしいと感じたら、いつでも抜け出せばいい」と思った。
東京都内の30代男性は「事業家集団」の構成員として活動していた2年間をそう振り返ります。
きっかけは、学生時代の友人から経営セミナーに誘われたこと。
セミナーでは自分の夢や年収を定め、一緒に頑張る「仲間」を作ることを勧められます。経営の「師匠」の下、50人の「友達」を作ると自分も店舗オーナーになることが出来、年収が飛躍的に上がると聞かされます。活動に、高額な費用はかからないとの説明もありました。
10回ほどセミナーを受講。
「結果の原因は全て自分にある。自分が源だ」「人生の幸福度を決めるのは4つ。金、時間の自由、仲間、健康だ」などと繰り返し聞くうちに、「そのとおりかも」と意識するようになります。
その後「師匠」に会い、こう言われます。
「成功したいなら、一緒に活動するしかないよ」
「師匠」には1日の行動を毎日報告するように言われます。「友達作り」として街中で声をかけた人の名前や年齢、職業、連絡先を伝えるのです。また「事業家集団」には、師匠の考えを間近で拝聴して学ぶ「つるみ」というしきたりがあります。深夜の居酒屋など、仲間と共に師匠に付き従うのです。
しかし、彼は「友達作り」が上手くいきませんでした。師匠に相談すると、「成功したいのなら、もっと真剣に取り組まなければいけない。シェアハウスに住んだ方が良い。仲間もいるから」と仲間と共同生活するシェアハウスへの入居と転職を進められ、実行します。
シェアハウスに入ってから3か月後、師匠から突然店に呼び出され、ある会社の美容用品を毎月15万円分、現金で購入するように求めれます。
「月収100万円を目指すなら、10~20%分の投資が必要。経営者になれば、数千万~億の投資を即決しなければいけない」
こうして、毎月下旬、現金15万円と引き換えに美容用品を受け取る生活が始まります。しかし商品を購入しても使い道はなく、ダンボール箱がどんどん積み上がっていきます。
また商品購入を初めて「達成」した時から、組織限定のセミナーへの参加が許されるようになりました。しかし、頻繁に開催されるセミナー参加にも費用がかかり、毎月15万円の美容用品購入も必要で、生活はどんどん苦しくなっていきます。
転職で収入が減ったこともあり、数百万円あった貯金は1年半で底をつきます。食費にも窮し、食べられるのは1日1食。安売り時にスーパーで買いこんだパスタをゆで、ソースを買う余裕がないためケチャップなど調味料をかけ、ただ口に押し込んでいました。
また、ほとんどの時間を「事業家集団」の活動に費やすことになります。街中で声をかける「友達作り」は「現場」と称され、週7日間通い、その終了後は毎日、師匠との「つるみ」を経て、シェアハウスで打ち合わせをするという生活・・・。寝るのは深夜3時ごろになり睡眠は常に数時間、栄養不足と睡眠不足で倒れたこともあったが、活動を辞めようとは思いませんでした。
師匠の言葉を信じてついていけば、いつか必ず夢がかなうと信じ切っていた。同じようにがんばっている仲間を裏切ることも出来なかった。
貯金が底をつき、消費者金融で限度額いっぱいの50万円を借りましたが、それもすぐになくなり、セミナーの参加費さえ出せなくなりました。それを仲間に打ち明けると「そんな基準で成功できるはずがない」と罵倒されます。
仲間がみんな、全国会議に参加するために出かけてしまったある日、静まり返ったシェアハウスで一人の時間を過ごします。久しぶりでした。そんなときふとスマートフォンでこれまで活動してきたこと等を検索しました。
「誘いに乗らないで」、「新たなマルチ」、「カルト集団」との注意喚起が次々と目に取り込んできました。「事業家集団」の実態が事細かに明かされていた元構成員のブログも見つけました。
一気に血の気が引きました。親に助けを求め、その日のうちに1年間暮らしたシェアハウスから実家に逃げ帰りました。
シェアハウスから抜け出して1年たった現在、男性は契約社員として働いています。彼は自分が「友達作り」で声をかけたことで「組織の被害者を生んだかもしれない」と今も悩んでいます。
「冷静に考えれば、おかしなことばかりだ。当時は『師匠のいうことは絶対』と信じ込んでいた。成功するために必要なことだと信じるだけで、自分で考えようとはしなかった。」
「同じような後悔をしてほしくない。立ち止まって、よく考えて欲しい。」
皆様、くれぐれもお気を付けて。良いお年を。
参考文献:小鍜冶 孝志著『ルポ 脱法マルチ』(発売日:2022/12/8)
本日のオマケ
私の投資方針
1.投資対象は、主に株式インデックスファンド、又は個別株式とする。 2.世界株式インデックスファンドは、老後まで基本的に売却しない 3.レバレッジ、信用取引等はしない 4.財政状態、経営成績が良く、PER及びPBRが低めの割安株式を買う 5.平時は、預貯金の残高が減らないペースで積み立てる 6.暴落等により含み損が発生した場合、含み損状態を脱するまで、平時より積立額を増額する
投資方針の根拠
1.ジェレミー・シーゲル著『株式投資 第4版』 ・長期の実質トータルリターンは、他の資産に比べ株式が圧勝する 2.山崎元、水瀬ケンイチ著『全面改訂 第3版 ほったらかし投資術』 ・世界株式インデックスファンド、特に(eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)がお勧め 3.厚切りジェイソン著『ジェイソン流お金の増やし方』 ・基本的に売らない 4.ジョン・C・ボーグル著『インデックス投資は勝者のゲーム』 ・インデックスファンドは98%の確率で、アクティブファンドに勝てる 5.チャーリー・マンガー著『マンガーの投資術』 ・素晴らしい会社を適正な価格で買う