インフレ、つまり物価が上がり、経済活動や私たちの生活にダメージを与えてしまうことは、局所的に各地で起こることはあったものの、米欧の主要な先進国で軒並み8~9%もの高い水準の物価上昇が起こることは近年あまりなかった事態です。
むしろ、2000年代後半から最近までは、インフレ率が低すぎることが各国で問題視されており、とりわけ日本では、「デフレ」(=物価が下がること⇔インフレ)に見舞われ、その脱却が課題となっていました。そのきっかけとなったのはリーマンショックでした。
低インフレの要因は主に3つだと言われています。
- 「グローバリゼーション」による、生産コストの下落
- 「少子高齢化」による将来所得の減少見通しから、貯蓄しようとすることによる現在の消費の減少
- 「技術革新の頭打ち」による、生産性の伸びの停滞
こうした構造的問題は一朝一夕に克服できるものではないので、2000年代後半からの低インフレはこれからも長く続くという考えが、広がっていました。
しかし、世界的なインフレは再来したのです。それと同時に、それまでの経済学者や中央銀行の専門家の常識を覆す、大きな謎が示されました。
インフレの原因は戦争ではない
世界がインフレに見舞われた2022年初頭に起こったことといえば、ロシアによるウクライナ侵攻が思い浮かびます。しかし専門家は、現在の世界的なインフレの主たる原因は戦争ではないと考えています。なぜなら、米国や英国、そして欧州のインフレは、実は2021年春からすでに始まっていたからです。戦争が起こる前にインフレが始まっていたのだとしたら、それはすなわち、戦争が原因ではないことの明確な証拠になります。
下図は、各国のインフレ率についての専門家によるインフレ率予測を示したものです。これをみると、2021年1月ごろはインフレ率は2%前後となっていたものが、2021年春ごろから徐々に水準が上がっていっていっていることが分かると思います。
こうした最中、2022年2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、専門家たちがインフレの先行きが一段と厳しくなると判断したことから、インフレ予測値がジャンプアップしました。
インフレの原因はコロナ禍か
2020年初頭、世界はコロナ禍に直面し、私たちの生活は一変しました。社会活動は急速に停滞し、急速な景気後退を迎えました。その当時、中央銀行の政策担当者たちは、景気後退が続くことによって低インフレの傾向がさらにひどくなることを懸念していました。しかしコロナ禍がもたらしたものは、それとは全く異なるものでした。
コロナ禍がもたらしたものは、グローバリゼーションによって構築された世界の物流ネットワークが、寸断されるということです。それにより各地で様々な商品が品薄状態(=供給過小)となり、価格の高騰(=インフレ)が起こりました。
ここで疑問が生じます。
・コロナ禍がインフレの主犯であるとするならば、コロナ禍の影響がより厳しかった時期にこそインフレが起こるはずです。しかし実際にインフレが始まったのは、コロナ禍パンデミックが一旦落ち着いてきた頃の事でした。なぜでしょうか。
・また、コロナ禍パンデミック前後で資本・労働・技術という、経済の生産を支える基本的な条件は大きく変わっていません。そのため、経済学者たちは巣ごもりの終了とともに世界経済は元の状態に速やかに戻る(=インフレは沈静化する)と考えていました。しかし、実際そうはなっていません。なぜでしょうか。(答えは別記事にて)
失業率とインフレ率の関係に異変が
失業率とインフレ率の関係を示したチャートをフィリップス曲線と言い、世界の中央銀行が金融政策を検討・立案する際に最も頼りにしてます。
失業率が高い時はインフレ率は低く、逆に失業率が低い時はインフレ率は高くなるという傾向が読み取れます。米国Fedはその政策目標として、物価の安定と雇用の最大化を共に実現することを掲げています。これはまさに、フィリップス曲線に描かれる世界において、最も良い結果を追求するということを意味しています。
上図の2020年までのデータ(●)は、概ね破線の直線状にインフレ率と失業率の関係が分布していました。つまり、失業率が大きく改善したとしてもインフレ率の上昇幅は小さいという関係が成り立っていたということです。
しかし上図2021年以降のデータ(■)は、失業率が6%から4%へ、約2%改善する間に、インフレ率が2%から5%へ、約3%高まったことを示しています。これは明らかに過去の破線の直線状から外れており、これまで頼りにしていたフィリップス曲線が使えなくなったこと、さらには根拠をもってインフレ見通しを立てることが出来なくなったことを意味します。
中央銀行ができることとは
今回のインフレは供給が少なすぎることが原因で生じていますが、中央銀行はこれに直接的に対処する手段を持っていません。例えば原油生産では、普段から投資をしていないと、生産量は徐々に落ちていきますので、いきなり原油生産を増やせと言われても、急遽対応できるようなものではありません。供給不足に起因するインフレに対処するには、経済の大きな仕組みを変えるという意味での構造改革が必要であり、そこに中央銀行の出番はありません。
中央銀行が出来ることは、金利を上下させることでしかないのです。現在中央銀行は、金利を上げて需要を縮小させることで、「少ない供給」に合わせる形で、需要と供給を均衡させようとしています。
日本特有の問題
1990年代半ば以降、日本は四半世紀にわたって、物価が上がらないどころか下がっていくという「慢性デフレ」に苦しめ続けてきました。企業はこの間、自分の売る商品の価格をあげられなかったので、労働者の賃金を上げることも出来ませんでした。つまり日本は、「賃金も物価も共に据え置き」という状態を選択して、これまでバランスを保ってきたということです。
しかし、海外からインフレの波が日本にも及び、物価が上昇を始め、このバランスが崩れつつあります。物価は上昇するのに賃金は据え置きという不幸な状態に突入するのか、物価も賃金も安定的なペースで毎年上昇する健全な経済へと移行するのか、日本は今分かれ道に立っています。
参考文献:渡辺 努 著『世界インフレの謎』(発売日:2022年10月20日)
本日のオマケ
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今週は、27,700円から100円下がるごとに1口ずつ買うように指値注文を入れていました。
結果、今週は合計13口追加購入ができました。現在評価額は1,502,200円(56口)、含み損は36,736円(△2.39%)です。平均取得価格は200円以上下がり、27,481円/口になりました。
引き続き、株価が下がる場合はどんどん追加購入していきます。
私の投資方針
1.投資対象は、主に株式インデックスファンド、又は個別株式とする。 2.世界株式インデックスファンドは、老後まで基本的に売却しない 3.レバレッジ、信用取引等はしない 4.財政状態、経営成績が良く、PER及びPBRが低めの割安株式を買う 5.平時は、預貯金の残高が減らないペースで積み立てる 6.暴落等により含み損が発生した場合、含み損状態を脱するまで、平時より積立額を増額する
投資方針の根拠
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