「この世界のどこにも、自分がつながっているという感覚がない。足元は雲のようにふわふわで実体はなく、手を伸ばしてもむなしく空を掴むだけ。虚空にたった一人、苦しさで胸をかきむしりながら、のたうち回る。
- このような経験を、あなたはしたことがあるだろうか。」
子育ての後に、待っていたもの
子供の貧困が叫ばれて久しい。2020年7月に発表された「2019年国民生活基礎調査」によると、2018の子供(17歳以下)の貧困率は13.5%。前回の2015年調査より0.4ポイントほど改善したものの、約7人に1人の子供が貧困状態にあります。
この「子供の貧困」はすなわち、「親の貧困」を意味します。先ほどの調査によると、相対的貧困にある世帯の割合は全体の15.4%となっています。子育て世代に注目すると、「子供がいる現役世帯で大人が2人以上」の貧困率は10.7%ですが、「子供がいる現役世帯で大人が1人=ひとり親世帯」は全体の48.1%と極端に高くなっています。
ひとり親世帯の貧困が際立っているわけですが、ひとり親世帯の約86%が母子世帯であることを考えれば、シングルマザーの貧困が極めて深刻な状態にあることが分かります。2人に1人のシングルマザーが、貧困状態に陥っているのです。先の調査によると、母子世帯の返金所得額は306万円で、86.7%が「生活が苦しい」と回答しています。
日本の子供の約8人に1人がひとり親世帯で生活していることは、OECD諸国との比較でも平均的な数値です。しかしひとり親世帯の就労率を見ると、日本はOECDの中でもトップクラスの80%強となっています。母子世帯だけ見ても、81.8%が就労しているという、異例の高さです。その一方、「相対的貧困率」を見ると、日本のひとり親世帯の貧困率は50.8%とトップです。(⇔最も低いデンマークは9.3%、格差の拡大が深刻なアメリカでも45.0%)
日本のシングルマザーは、甘えているのでも怠けているのでもなく、世界で一番働いているにもかかわらず、世界で最も貧困にあえいでいるのです。
次に紹介するのは、そんなシングルマザーの一例です。子育てがようやく終わったかという年代にあたる彼女の現実はどのようなものでしょうか。
水野敦子さん ~なぜ、私が多重債務者に~
「原因は、教育ローンです。結局、自己破産するしかなくなりました。」
きっかけ
水野敦子さん(仮名、56歳)は今から18年前、夫の浮気に振り回され、離婚を決意しました。このとき、長女は小学2年生、長男は4歳でした。
元々夫は子煩悩で、休みの日は家族でよくドライブに出かけるような、笑いの絶えない仲良し家族でした。夫婦2人で外食をする時間も作ってくれていました。敦子さんは何の疑いもなく、このままの生活がずっと続くものだと思っていました。しかし、ある日夫から突然「好きな人が出来た」と言われるのです。
敦子さんはまず、離婚が成立するまで「婚姻費用分担」として生活費を入れてもらうことを約束させ、仕事と住居を探しました。不動産屋に行くと、「母子家庭」と聞くと、途端に顔をしかめます。パート労働であったことも、不利に働きました。敦子さんは、子供が小さいこともあり、コンビニで短時間のアルバイトをしていただけでした。正社員の職を探そうとしても、離職期間が長く子供が小さいこともあり、正規雇用につくことは叶いませんでした。履歴書を見た採用係は決まって「お子さんがね~」と顔を曇らせます。
やっとありついたデザイン会社での時給1,200円のアルバイト職でも、「18時退社」(敦子さんの両親は地方に住んでおり、子育ての援助は難しく、全て1人でやりくりしなければならなかったため)という条件が他の社員から非難され、「終電まで仕事をしろ」と迫られ、辞めることになります。その後、シングルマザーのママ友が働いているゴルフ場でキャディーとして働きました。給料は安定せず、多い時は手取り20万円、子供の病気で休みが続けば10万円しか稼げない月もありました。その状態でも、この時はまだ生活は成り立っていました。
毎月4万円程の児童扶助手当、1万円程の児童手当、無料の医療費、水道代の基本料金免除、有料のごみ袋支給、都営交通の無料券、家賃2万円の都営住宅といった福祉のネットワーク、そして月6万円の養育費があったからです。
また義務教育期間には、児童扶養手当の受給者や生活保護受給者、所得の低い家庭などが適用となる「就学援助制度」があり、学用品代や給食費、校外活動費、修学旅行費などが支給されます。小学校と中学校の入学時には、新入学児童生徒学用品日も別途、支給になります。
暗転
しかし、子供たちの進学とともに生活が暗転します。
成績が良かった長女は、塾にも通わず高校に進学し、1浪したものの私立大学にも進み、奨学金を借りてアルバイトで賄って4年で卒業することが出来ました。その後一部上場企業に正社員として就職します。問題は長男でした。
長男は小学校でいじめにあい、中学から70万円のカードローンを組んで個別塾に入れました。そのかいあって成績は上がったものの、都立高校には合格できず私立高校へ進学することに。この頃から、滞りがちだった養育費の支払いも完全に止まります。元夫に電話をしても、スルーされるか、「はあ、それで?」の一言。私立高校の学費は、自治体の「母子父子寡婦福祉資金貸付金制度」から150万円を借りて賄いました。
高校卒業後長男は2浪しますが、1浪目は長男の願いで予備校に通い、2浪目は宅浪で受験勉強漬けの生活を送りました。予備校費用は、「国の教育ローン」から100万円借りて支払いました。
長男は結局、第1志望であった国立の獣医学部には合格できず、私立の応用生物学科に進学することになります。入学金と学費は、再び「国の教育ローン」を利用して更に200万円借り、更に奨学金の利用と塾講師のアルバイト代で賄います。
家計崩壊
敦子さんが毎月の返済に事欠くようになったのは、月4万円の児童扶養手当の支給がなくなった頃からです。いくら頼んでも、元夫からの学費の援助もありませんでした。加えて、不況がゴルフ場を直撃し、同じコースを回っても思ったほど稼げず、収入は減る一方になりました。50代になれば身体が悲鳴を上げるようになり、休む日も増えていきました。
その一方で、教育ローンの返済額は、月15万円にも及びました。やがて生活費をキャッシングで補填するようになり、買い物はクレジットカードに頼ることに。現金でのローン返済が困難になっていくのに、それほど時間はかかりませんでした。
(敦子さんに)「水野さん、自己破産しましょう。もう、それしかないです。」
(借用書を見た弁護士)
(長女と長男に)「キミたちのために、お母さんは破産するんです。全ては、教育ローンが原因ですから」
参考文献:黒川 祥子著『シングルマザー、その後』(発売日:2021年12月17日)
本日のオマケ
私の取引
以下のファンドを毎営業日自動買付しています。
1.日本株式インデックスファンド 5,000円(自動買付) (ニッセイ-<購入・換金手数料なし>ニッセイ日経平均インデックスファンド) 2.世界株式インデックスファンド 5,000円(自動買付) (SBI-SBI・全世界株式インデックス・ファンド)
また以下のファンドを、月1回三井住友VISAカードで積立しています。
1.世界株式インデックスファンド 50,000円(自動買付) (eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー))
私の投資方針
1.投資対象は、主に株式インデックスファンド、又は個別株式とする。 2.世界株式インデックスファンドは、老後まで基本的に売却しない 3.レバレッジ、信用取引等はしない 4.財政状態、経営成績が良く、PER及びPBRが低めの割安株式を買う 5.平時は、預貯金の残高が減らないペースで積み立てる 6.暴落等により含み損が発生した場合、含み損状態を脱するまで、平時より積立額を増額する
投資方針の根拠
1.ジェレミー・シーゲル著『株式投資 第4版』 ・長期の実質トータルリターンは、他の資産に比べ株式が圧勝する 2.山崎元、水瀬ケンイチ著『全面改訂 第3版 ほったらかし投資術』 ・世界株式インデックスファンド、特に(eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)がお勧め 3.厚切りジェイソン著『ジェイソン流お金の増やし方』 ・基本的に売らない 4.ジョン・C・ボーグル著『インデックス投資は勝者のゲーム』 ・インデックスファンドは98%の確率で、アクティブファンドに勝てる 5.チャーリー・マンガー著『マンガーの投資術』 ・素晴らしい会社を適正な価格で買う