ソ連の誕生
近代に入って、帝国主義、資本主義の国々は、繁栄を謳歌する一方で、「貧富の格差」「失業」等といった深刻な矛盾も抱えていました。経済が急速に発展し、巨大な富を手にする資本家たちがいる一方で、過酷な労働条件の下で大勢の労働者が苦しい生活を余儀なくされ、職を失って暮らしに行き詰まる人、低賃金で生活がままならない人も増大しました。
そこに登場してきたのが、共産主義という経済思想です。共産主義は、21世紀となった現代においては過去の遺物のように思われていますが、20世紀前半に登場した共産主義国ソビエト連邦は、実は当時の世界に多大な影響を与えたのです。
共産主義は「資本家から富を取り戻し、労働者をはじめ国民全般に分配する」「搾取されるものも搾取する者もいない平等な社会を実現する」ということを目指していました。この共産主義の思想は、資本主義社会に疲れた当時の人々にとっては救いの福音のように聞こえ、知識人を中心に浸透していきました。
ソ連が誕生したのは、第一次世界大戦中の1917年11月7日のことです。そして、ソ連が世界から注目を浴びるようになったのは、1920年代末から始まった第一次、第二次5か年計画が成功したからです。ソ連はこの2回の5か年計画で、急速な工業発展を成し遂げました。ソ連の5か年計画の成功は、「共産主義は不況や失業とは無縁」というマルクスの予言が成就したかのようにも見え、世界の知識人たちに大きな希望を抱かせました。
共産主義とは、究極の中央集権制度です。税や軍事だけではなく、資源や労働力さえも国が掌握し、集中的に活用するものです。そのため、短期間で特定の目的を達成するには効果的なシステムでしたが、長期間に渡って国が反映できるシステムかというと、そうではなかったのです。
ソ連の崩壊
ソ連が崩壊した最大の原因は、経済の失敗です。「ソ連はすべてが平等で競争のない社会だったので経済が発展しなかった」と言われることがありますが、それは妥当な見方ではありません。むしろ、自由主義国よりも不平等だったから崩壊したのです。
ソ連の国民の収入体系というのは、見事なほど階層社会になっていました。
ソ連の当時の平均月収は労働者で157ルーブル、農民で117ルーブルでした。労働者の平均所得の半額となる75ルーブル以下の最貧困層は3,576万人もおり、貧困層と最貧困層を含めた人数は、国民の35%にも達していたという説もあります。
年金生活者は更に悲惨で、受給者5,600万人のうち、半数は50ルーブル以下の最貧困層でした。その一方で、共産党幹部などの富裕層50万人は、月500ルーブル以上の年金をもらっていたと言います。このような格差は、自由競争の結果起きたものではありません。経済活動に様々な縛りがあり、自由で公正な競争が出来ない中で、コネがある者、不正を働く者が、豊かになっていきました。

世界の基軸通貨という矛盾した存在
戦後40年でソ連と東欧共産圏はあっけなく崩壊しましたが、かといって西側諸国が安定的に繁栄を謳歌してきたわけでもありません。むしろ、西側諸国の経済は何度も大きな危機に見舞われ、度々大混乱をきたしてきました。その最大の要因は、アメリカの凋落です。
アメリカのドルは、第二次世界大戦直後のアメリカの圧倒的な経済力を背景にして、世界の基軸通貨となりました。しかしドルを世界に流通させるには、、アメリカの貿易は常に赤字になっていなければなりません。アメリカの貿易が黒字になると、ドルはアメリカに戻ってくるので、ドルが世界に流通しなくなるからです。
世界の国々は、ドルを必要とするため、アメリカに貿易赤字になることを要求します。しかし貿易赤字が続けば、アメリカの経済基盤が危うくなり、ドルの信用そのものがなくなってしまいます。つまり、一国の通貨が世界の基軸通貨になるということ自体が、初めから矛盾を抱えていたということなのです。そんな中、リーマンショックが起きました。
アメリカ史上最大の倒産
2008年9月15日、アメリカ史上最大の倒産が起きました。リーマン・ブラザーズです。リーマン・ブラザーズは、66兆円の資産を持ち、25,000人の社員を抱える、アメリカ第4位のマンモス投資銀行です。翌9月16日、さらに追い打ちをかけるように、アメリカ最大の保険会社AIGがアメリカ連邦準備委員会(FRB)の短期融資を受けることが発表されました。AIGは100兆円の資産を持ち、10万人の社員を有するアメリカ最大の保険会社です。アメリカ連邦準備制度理事会は、80%以内のAIG株を取得する権利を得ており、事実上、当局の管理下に置かれることになりました。つまり、事実上破綻したのです。
アメリカ経済の巨大な爆弾
リーマンショックは、「リーマンを救わなかったから生じた」等と言われることもあります。しかしこの金融危機は、リーマン・ブラザーズ1社の経営不振で生じたものではありません。もっと根本に、根深い問題があります。それが、アメリカのバブル問題です。
アメリカが住宅関係を中心にバブル状態にあることは、既にかなり前から分かっていたことです。例えばノーベル賞経済学者のジョセフ・E・スティグリッツの『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』は、アメリカ経済の脆弱性を訴え、アメリカ住宅バブルが弾ける可能性があることを明確に論じています。アメリカの住宅は、5年間で50%も価格が上昇しているので、異常事態であり、まぎれもなくバブルです。これがずっと放置されていたことが、リーマンショックの大きな要因です。

なぜ世界はマネーゲーム化したのか
リーマンショックは、アメリカの住宅バブルが原因と言えますが、もっと長期的な目で見ると、世界的なマネーゲーム化が大きな要因となっていると言えます。1990年代から2000年代にかけて、世界中でマネーゲームブームが起きました。これはアメリカや日本西欧各国の金融緩和、世界的な投資優遇政策の影響ですが、実はソ連の崩壊が大きく影響しています。
ソ連や共産主義陣営が健在だった時、西側陣営は資本主義の暴走にそれなりに気を配っていました。19世紀から20世紀初頭にかけて、資本主義経済が過熱し、貧富の格差が拡大したことから共産主義の台頭を招くようになったからです。だから西側陣営は、貧富の格差が生じないような配慮をし続けていました。しかし、ソ連の崩壊により、西側陣営の自重が薄れ、「資本主義こそは正しい経済思想だ」とばかりに、企業や投資家に限りなく自由を与え、便宜を図る政策をとり始めました。相続税は相次いで縮小・廃止され、所得税の累進性が弱められました。また投資に対する減税を行い、投資を促進させようとしました。その結果、90年代後半から現在まで、世界中で投資ブームが起き、マネーゲームが加速していきました。これがリーマンショックを引き起こしたとも言えます。
そして、世界的貧富の格差は拡大し続けています。国際支援団体オックスファムの発表によると、2015年には世界の富の半分は1%の富裕層が握っていると言います。この1%の富裕層のシェアは、2009年時点では44%でしたので、年々拡大しています。
この状態は、フランス革命前のフランス社会に似ています。このまま世界のマネーゲーム化、貧富の拡大が続けば、世界規模でのフランス革命が起きないとも限りません。
参考文献:大村 大次郎著『お金の流れで見る世界史』(発売日: 2023年2月1日)
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