あなたは友達5人の平均
「あなたは友達5人の平均である」というのは、ネットワークの科学ではすでに常識になっています。成功した大富豪と友達なら、あなたは成功者で大富豪に違いありません。しかし、因果関係を逆にして、大富豪になるために大富豪5人と友達になることは出来ません。友達はあなたが一方的に選ぶのではなく、あなたが友達として選ばれなくてはならないからです。自分と似た相手と友達になるのは、人には「同類性」という強固な本性があるからです。「類は友を呼ぶ」ことで、ごく自然に似た者同士が集まり、似ていない者は集団から排除されます。
ロビン・ダンバーはイギリスの進化人類学者で、「人間の認知的上限は150人」というダンバー数で知られています。この人数を超えると、顔を見ても名前が分からず、相手が増えて集団としての一体感を作るのが難しくなります。
ダンバーの「友達の同心円」によると、友達世界の最も中心にあるのは1.5人のグループ(性愛のパートナーであり、恋人や夫婦)、その外側には5人(=1.5人+3.5人)のサポート・クリーク(親子関係、親友等)、15人(=5人+10人)のシンパシー・グループ(友達)という中核層があります。サポート・クリークは、困った時に助けてくれる関係、シンパシー・グループは共感を分かち合える関係と考えれば良いでしょう。この中核層の外側には50人(=15人+35人)のグループがあり、更に外側にあるのが150人(=50人+100人)の層で、顔と名前が一致するものの、ひととなりまでは知らない関係(知り合い)です。そしてその外側は、感情的なつながりを持たない貨幣空間(お金のやり取りだけでつながる関係)です。
なお、「親しい関係ほど、維持するのに必要な時間資源が大きくなる」という厳然たる法則があります。恋人のために費やす時間が、他の友達のために使う時間よりずっと少なければ、もはや恋人とは言いません。同様に、子供たちと家族旅行をしたり、親の介護で実家に通ったりしていると、その分だけ他の社交を減らすことになります。「親しい関係ほど多くの時間資源を費やす」というこの法則は、全ての人間関係に貫徹します。
シリコンバレーのネットワーク効果
地球上には80億人の人間がいますが、私たちにとって重要なのはその中の5人、あるいは多くても15人との関係です。そして、同類性の原則によって、この友達はあなたによく似ています。
私たちが同類に惹かれる理由は、同じ境遇を経験した人の方が役に立つから。そして、同類と一緒の方が安心できるからです。
同類を好むのは保守的な人たちだけではありません。シリコンバレーのパロアルト(ハイテク企業の本拠地)では、住人の13%が博士号を持っています。地元のカフェでテクノロジーについての会話が聞こえてこれば刺激を受けるし、それが自分の専門分野なら、会話に参加して新しい知り合いが出来るかもしれません。こうした知的ネットワークがあると、つてをたどって会社から会社へと転職できるかもしれません。
シリコンバレーは家賃がとてつもなく高いわりに歓楽街もなく、決して住みやすいとは言えませんが、それでも世界中から天才たちを惹きつけるのは、このネットワーク効果があるからです。
同類婚が格差を拡大する
恋愛関係では、ビックファイブ(パーソナリティの5大要素)の「経験への開放性」が同じもの同士を引きつけます。経験への開放性が高いと、現代美術やミニシアターの映画等、新奇なものに興味を惹かれます。それとは逆に経験への開放性が低いと、子供の頃に慣れ親しんだものに固執します。経験への開放性は趣味に反映されるので、これが恋愛や結婚の指標になる理由でしょう。何十年と一つの家で暮らし、ともに子育てすることを考えれば、話も合わなければ好みも違う相手ではやっていけません。
「同じ学歴同士の者同士が惹かれあう」という同類婚の傾向も顕著です。アメリカでは、白人男性のエリートは、白人で高卒の元チアガールよりも、自分と同程度のレベルの大学(大学院)を出た有色人種の女性と結婚します。
日本でも同類婚は進んでおり、高学歴で共働きの場合、世帯収入の多い「パワーカップル」になります。その一方で、低学歴で妻が専業主婦という「ウィークカップル」も増えており、これが経済格差が広がる要因の一つになっています。
引き寄せの法則とネットワーク科学
恋愛ほどではないものの、友達作りにもやはり競争は派生します。サポート・クリークの席は5つ、シンパシー・グループの席はそれに加えて10(=15-5)しかなく、誰かがそこに座れば、誰かが出ていかなければなりません。友達選びが重要な理由は、あなたは友達に似てくるからです。
肥満は伝染するとしたら、そして幸福な人と友達になれば自分も幸福になれるとしたら、成功した人と友達になれば自分も成功できるはずです。
何かを強く願うと、そのことに引き寄せられて願いが実現するという法則は自己啓発本の定番で、ポジティブなことを考えれば人生は上向きになり、ネガティブなことにこだわると不幸が訪れるとされています。同様に、自分がこうなりたいと思う相手と同じように振舞えば、同類性の法則によって、自分に引き寄せられてくるはずです。「引き寄せの法則」は類似科学とされていますが、それなりに筋は通っています。
参考文献:橘 玲著 『シンプルで合理的な人生設計』(発売日:2023年3月7日)
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