日本は危機的な状況にある
日本の賃金水準が国際的に見て低くなってしまったこと、日本企業の生産性が低下の一途をたどっていることなどはこれまでも問題とされてきましたが、2022年、日本を襲った物価高騰(=インフレ)と円安によって、この問題が極めて明確な形で現れました。
この問題への対象は、一刻の猶予も許されない焦眉の課題です。輸入物価高騰の原因の半分程度は円安によるものであり、円安は日本の金融緩和政策によってもたらされているものだから、現在の状況に対処するためにまず必要なのは、金融緩和政策を見直すことです。それにもかかわらず、日本銀行は、2022年12月まで、金融政策を全く見直そうとしませんでした。
一般にインフレは弱者に対して不利に働くことが多いのですが、今の日本でもそれが明確な形で進行しています。それにもかかわらず、国民や野党から、このような政策に対する反対の声が起こっていません。
物価高騰の半分は円安による
物価が高騰したのは、まず第一には、資源価格や農産物価格が世界的に高騰したからです。日本の場合、急速な円安がそれに拍車をかけました。
2022年8月のデータで見ると、契約通貨ベースの輸入価格の対前年比は22.0%ですが、円ベースでは42.8%です。この差は円安によるものであり、つまり、物価高騰の半分は円安によるということです。
大企業は補助金を受けているのと同じ
円安により、大企業を中心として、企業の利益は増えました。とりわけ、エネルギー、資源関連の上場大企業はそうです。法人企業統計調査のデータで、2022年4月~6月期の係数を21年同期と比較すると、営業利益と経常利益は、それぞれ13.1%と17.6%という非常に高い伸びになりました。
一方で、零細企業は惨憺たる有様です。資本金2,000万円以上5,000万円未満の企業では、営業利益や経常利益が減少し、従業員数も減少しました。資本金1,000万円以上2,000万円未満の企業では、売上も原価も、そして粗利益、営業利益、従業員数も減少しました。
インフレ税をかけたのと同じ
物価が2%上昇するのは、消費税の税率を2%上げるのと同じこと、そしてその税収を大企業に補助金と配っているのと同じことです。
物価が上昇すること(=インフレ税)は、最も過酷な税だとされています。それは、所得の低い人々に対しても負担を課すからです。
日本では、第二次世界大戦後にインフレが起き、戦時国債が紙切れになりました。今日本で、インフレ税が課されています。歴史上のハイパーインフレに比べればインフレ率はずっと低いですが、問題の本質は同じです。
NTTはGAFA予備校に
日本の賃金水準が国際的に見て低くなってしまったことから、日本の高度人材の海外流出も目立つようになりました。
NTTでは若手の優秀な技術者が、基礎知識を学んだ後に「GAFA」等の海外大手ITに転職していく動きが加速しているといいます。そのため、「NTTはGAFAの予備校」と言われることがあります。
NTTはこうした状況に対処するため、転勤や単身赴任をなくし、また、主要会社の従業員の約半分にあたる3万人を対象に、居住地を自由にする等の措置を取りました。さらに、20代でも課長級の役職に抜擢したり、初任給アップなどを検討すると言います。しかしGAFAの賃金水準はとてつもなく、高度な技術者の場合には1億円を超えることもあります。これに対抗するのは容易なことではありません。
これでは、日本でいくらデジタル人材を養成しても、海外に流出してしまいます。だからデジタル化を進めようとしても、なかなか出来ないというジレンマがあります。
参考文献:野口 悠紀雄著 『日銀の責任 低金利日本からの脱却』(発売日:2023年4月27日)
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