知力を駆使するほど投資の見返りが多くなるので、投資家という職業は多くの優秀な人を惹きつけてきました。しかし、教授や政治家、評論家などとは違い、間違った判断をすれば壊滅的な損を被る職業でもあります。優秀な投資家が先入観を持たず、実用主義者であり、自身の思考を研ぎ澄ませる道を熱心に探し続けるのは、このようなリスクがあるからなのでしょう。
投資界の本物の巨人たちは、成功の確率を最大限に高める方法を様々に見つけ、市場でも人生でも勝ちにつなげています。彼らの話には、「確率」「勝ち目」が良く登場します。行動を決めるのに効果的な判断材料であり、時間管理にしろ、思考するのに適した落ち着いた環境の構築にしろ、その他、付き合う人と避けたい人の線引き、先入観や見落としを防ぐ工夫、失敗から学んでそれを繰り返さない習慣、ストレスや困難の乗り越え方、正直さと誠実さの捉え方、金の使い方と手放し方、金を超えた意味のある人生を築くための試みなど、彼らの行動の全てにいきわたっています。
ウォーレン・バフェットの模倣者 ~モニッシュ・パブライ~
モニッシュ・パブライ 1950年代のバフェットパートナーシップの原型をモデルにしたパブライ・インベストメント・ファンドのマネージングパートナー。1999年の創設以来、パブライファンドは、28%超の年率リターンを上げてきた。また、同氏はフォーブス誌やバロンズ紙から高い評価を得ており、CNBCやブルームバーグなどのテレビ番組やラジオにもゲスト出演している。
パブライは一旦何かに興味を持つと、猛烈な勢いで取り組みます。バークシャーの株主に宛てた数十年分の手紙、本・・・パブライはそれら全てを読み、バークシャーの株主総会へも20年以上、毎年欠かさず出席し、最終的に彼はバフェットと個人的な関係を築くに至ります。
バフェットの投資の流儀は「きわめてシンプル」かつ「きわめて骨太」なので、これ以外の投資法は考えられないとパブライは感じました。しかし、他のファンド・マネージャーの手法を調べると、バフェットの法則をまるで守っていません。パブライの目には、ファンド・マネージャーのほとんどが株を多く持ちすぎ、金をかけすぎ、頻繁に売買しすぎていました。
「彼らの投資信託は200やら1,000やらのポジションを抱え込んでいる。200社すべての株価が2倍になるわけないのに。抱えている銘柄を見ると、利益の30倍で売買していたりする。つまり、ぼられてるんだ」
(by モニッシュ・パブライ)
パブライは、ウォートンやコロンビアなどの名だたるビジネススクールのMBAも、証券アナリストの認定資格も持っておらず、ウォール街で働いたこともありません。しかし、バフェットが唱える方法を正確になぞれば、人生というゲームに勝てると考えていました。
パブライが見たところ、バフェットの銘柄選びは、「割安株投資の父」ベンジャミン・グレアムから学んだ3つの理念が土台となっていました。3つの理念とは、第一に、株を買う時には投機のための単なる株券ではなく、成長の可能性のある企業の一部を買う意識を持つこと。第二に、株価が企業の本質的な価値を反映しないことは良くあるということ。第三に、自分が控えめに見積もった価値よりも、更にずっと低い価格で取引されている株を買うこと。
バフェットやマンガーのような投資の達人にとって、駆け引きの要は、市場の狂気からは一歩引き、冷めた目で市場を観察し、マンガーがよぶ「オッズのずれた賭け」が見つかるまで待つことです。あれこれと動いても良いことはない。投資とは大抵、損をするよりも受ける確率がはるかに高くなるレアな瞬間まで待てるかどうかがものをいうのです。
「成功する人と大成功する人の違いは、大成功する人はほぼ全てに対してしない決断が出来る」
(by ウォーレン・バフェット)
パブライはバフェットから、株を効率的に選別するためのシンプルで分かりやすい基準をいくつか学びました。第一に、バフェットの「主要な掟」のひとつ、事業内容が「自分が理解できる範囲」に収まる企業に絞って投資すること。第二に、「安全域」を十分に確保できるほど、実際の価値よりずっと安く買える企業かどうか。第三に、単に安い企業ではなく、良質な企業に投資すること。企業は何よりも、長期的に競争力を維持し、正直で有能なCEOによって経営されなければなりません。第四に、企業の財務諸表は単純明快でなければならないということ。
パブライにとって投資で成功する秘訣の1つは、難しすぎるものは何でも避けることです。株主の権利を尊重しないロシアやジンバブエのような国での投資は迷わず見送り、スタートアップや新規公開株も、過剰な宣伝や期待感に市場が支配されて安い買い物が出来ないので避け、空売りもしません。これらは全て、バフェット(あるいはマンガー)から模倣したものです。
生活と信条
パブライはまた、日々の生活もバフェットやマンガーを手本にしています。
彼の典型的な一日は、まず朝遅くに起きて、特に予定を決めずに午前10時を過ぎてから事務所に現れます。11時ごろに助手がメールを印刷した紙の束を持ってくるので、簡単な返事を紙に直接走り書きしていく。そして、読書に時間をたっぷり費やす。午後は大体堂々と昼寝をして、それから読書に戻って夜遅くまで過ごす。このようにパブライは、出来るだけ巣ごもりして過ごそうとします。
「マンガーは金持ちでいたいなんて思っていない。彼が本当に大事にしているのは、自由な立場でいられることだ。私も全面的に同意する。金があるということは、自分のやりたいことをやりたいように出来る力を持つということ。これが何より大事なんだ」
(by モニッシュ・パブライ)
さらに人間関係についても、パブライはバフェットの「自分より優れている人と付き合いなさい。自分を高めるしかなくなるから。」というアドバイスに忠実に従います。自分がどう評価されるかに頓着せず、社交や人付き合いにも関心を示しません。
パブライが信じるのは、デヴィッド・R・ホーキンズ著の『パワーか、フォースか』。『パワーか、フォースか』には、「本当のパワー」とは正直さ、思いやり、そして他者の人生を良くしようとする献身などの特性からもたらされること、こうした良い特性は無意識のうちに人に影響を与え、その人を「強く」すること、逆に不正直さや恐れ、恥は人を「弱く」することが書かれています。
パブライは中でも特に、「人に嘘をついたまま逃げ切ることは出来ない」という教訓を指針として刻んでいます。
莫大な資産を築いた後
2017年11月30日時点のパブライの純資産は1億5,400万ドル。資産が膨らむにつれ、嬉しい悩みが生まれます。これだけの金をどうすればいいか。
バフェットは、「自分の幸せは自分が築いた富とはほとんど関係がない」と、長い間繰り返し口にしています。パブライは、何千ドルもするオーダーメイドの靴を買ったり、普段から青いコンバーチブルのフェラーリを乗り回してはいますが、快楽を追い求めた先に幸せがあるとは思っていません。巨万の富を娘たちに残すことにも慎重です。
莫大な資産の大部分を社会に還元すると宣言したバフェットを見て、パブライもまた、社会還元することを決めました。現在、インドの貧困層で才能のある子どもたちに教育の機会を提供するダラクシャナ財団を設立し、精力的に活動しています。
参考文献:ウィリアム・グリーン著『一流投資家が人生で一番大切にしていること』(発売日:2023年6月20日)
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