私たちは1人ひとり異なる複雑で陰影に富む性格(パーソナリティ)を持っています。「外交的か内向的か」というのは、パーソナリティ心理学でいう「ビッグファイブ(パーソナリティの5因子)」の1つです。
外向的な鈍感、内向的な敏感
1970年代、大脳皮質の活動を脳電図で計測した心理学者のアンソニー・ゲイルは、外向的な人の脳波は興奮が足りない傾向があり、内向的な人の脳波は興奮しすぎる傾向があることに気づきました。ここからゲイルは、外向的な人は刺激を求めることで興奮を「最適なレベル」の範囲に押し上げようとし、内向的な人は過剰に興奮している神経系の活動を押し下げようとして刺激を避けると考えました。それから半世紀近くたち、この先駆的な研究が「外向的/内向的」の本質だということが心理学者の共通理解になっていきます。
激辛ラーメンか図書館か
「外向的/内向的」にばらつきがある理由は、身体のエネルギーは有限であるという制約から説明できます。
外向的な個体は覚醒度を上げようとして刺激に向かって進んでいくから、食べ物や生殖の相手を獲得する等目的を実現する可能性が高まる一方で、エネルギーの消耗が激しい。これに対して内向的な個体は、強い刺激を避けようとするからエネルギーを保存できる一方で、目的を実現する機会は少なくなります。
身体のエネルギーが無限にあるのなら外向的な戦略が最強ですが、動かなくても良い食べ物がいくらでも手に入るなら内向的な戦略でこと足ります。自然界の環境は多様で不安定なので、どのような環境でも一定数の個体が生存・生殖できるように、「外向的/内向的」にばらつきが生じました。
外向的な人は「強い刺激」を求め、激辛ラーメンを食べたり、大人数のパーティで知らない人と知り合い、時に逢瀬を楽しんだり、バンジージャンプやスカイダイビングに挑戦したりします。一方内向的な人は、「強い刺激」を避けようとして、図書館を好み、初めての人との会話でもすぐに疲れてしまいます。
内向的な人はネガティブな刺激に対しても強く反応しますが、外向的な人は、ポジティブな刺激には強く反応するものの、不快な刺激に対してはあまり反応しません。内向性は「敏感」、外向性は「鈍感」なのです。
心拍数が低いと犯罪者になる?
犯罪心理学者の間では以前から、「反社会的な人間は心拍数が低い」ことが知られています。これは動物も同じで、攻撃的で支配的なウサギは、おとなしく従属的なウサギに比べて安静時心拍数が低い。これと同じ関係はサルからマウスまで動物界で広く見られます。心拍数が低いと、なぜ攻撃的になったり、反社会的な行動をするようになるのでしょうか。
有力な説明は、「人(動物)には最適な心拍数のレベルがある」です。心拍数が生得的に低いと、常に何らかの不快感を抱えていて、それを(無意識に)引き上げようとする。犯罪にはリスクが伴うからドキドキするが、この時の心拍数の上昇が「快感」になるというのです。
モーリシャス行われた研究で、3歳時点で最も心拍数が低く、最高レベルの刺激追求度を示した男の子は、成人すると盗み、暴行、強盗などの罪状で複数の有罪判決を受けました。一方で同じように3歳時点で心拍数が低く、刺激追求度が高かった女の子は、「何でも試してみよう、みんなの前に積極的に出よう」と考え、ミス・モーリシャスになりました。ここから分かるのは、覚醒度や心拍数の低い外向性は「リスク志向的」であり、良い方に転ぶと大きな成功に結び付く一方、悪い方に転ぶと犯罪者として一生刑務所の中で過ごすことになりかねないということです。
「外向的だと成功する」はサバイバルバイアス
世間一般では、外向的だと「明るい」、内向的だと「暗い」と言われ、子供を外向的に育てる子育てや教育が重視されています。その理由は、政治家や起業家、芸能人など社会的・経済的な成功者の多くが外向的なパーソナリティだからでしょう。こうした職業は、大衆の注目を一身に浴びるような強烈な刺激をもたらす半面、大きなリスクにさらされたり、激しい緊張を強いられたりします。このような選択をするのは外向的なタイプで、その中から一定の割合で成功者が現れるのは当たり前です。
これに対し内向的な人は、強い刺激やリスクを避けるので、誰もが知っているような成功者になるのは難しいかもしれません。
「サバイバルバイアス」というのは、集団の中から成功したわずかな人だけに注目し、それを一般化する認知のゆがみです。「外向的な性格は成功できる」というのも、同じサバイバルバイアスです。現代社会の成功者を見ればほとんどが外向的なパーソナリティかもしれませんが、その背後には過剰なリスクを取って失敗した人たちや、犯罪に手を染めて刑務所に放り込まれた膨大な人たちがいるはずです。
内向的な人は、首相や大臣、ベンチャー企業の経営者、芸能人などにはなれないかもしれませんが、近年になって、「実は内向的パーソナリティの方が有利なのではないか」と言われるようになりました。それは専門職の収入が上がったからです。研究者やエンジニアは明らかに内向型の方が向いているし、医師やカウンセラー、弁護士やコンサルタントも、クライアントの表情を敏感に察することで高い評価を得られるでしょう。
生得的なものか文化的に作られたものかは別として、「外向的/内向的」には人種間の違いがあるようです。アメリカの大学では、白人の学生が積極的に質問して議論に参加する一方で、アジア系の学生の授業態度が消極的でおとなしいことが問題になったこともあります。
しかし、アメリカの人種別世帯年収分布(2021年)を見ると、「内向的」とされるアジア系が10万ドル(約1,400万円)で、全米平均はもちろん、白人の7万5,000ドル(約1,000万円)を3割も上回っています。このことは、「現代社会では内向的な方が経済的に成功できる」傾向を示しているのかもしれません。
仙人やフィクサーは内向的?
政治家や大企業の経営者は外向的な人に多いですが、内向的な人が権力とは無縁というわけでもありません。
内向的だとあまり欲望に影響されないため、周囲から「超然としている」と思われ、そのことによって集団の中で大きな力を持つこともあります。こういう「世捨て人タイプ」は古来、仙人や聖人として崇められました。表舞台には出ないものの大きな権力を持つフィクサーも、内向性パーソナリティの持ち主かもしれません。
現代社会では外向的なパーソナリティの方が有利に思えますが、極端に外向的だと依存症になります。ドーパミン濃度の低い内向的なパーソナリティは依存症になりにくいが、極端に内向的だと無感覚症と診断されます。これは「通常は快である事項に快を感じない状態」の事です。そう考えると、平均より少し外向的だったり、少し内向的だったりするくらいがちょうどいいのかもしれません。
参考文献:橘玲著『スピリチュアルズ』(発売日:2023年8月4日)
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