いきなりですが、質問です。
人生の中で幸福度が最も低い「幸せのどん底」は、何歳でやってくるでしょうか。
研究の結果、平均的に見て、48.3歳の時に人生のどん底に直面することが分かっています。人生のどん底は国によってやや差が出るのですが、大体50歳前後に集中しているようです。
もう一つ質問です。
男性と女性では、どちらの方が幸福度が高いでしょうか。
答えは、女性です。男女を比較すると、日本では平均的に見て、女性の幸せの水準の方が男性よりも高くなっています。実は、日本は世界的に見ても男女間の幸せの格差が大きい国です。幸せに関して言えば女性優位だと言えるのでしょう。
最後にもう一つ質問です。
子供のいる既婚女性と、子供のいない既婚女性では、どちらの方が幸せの水準が高いでしょうか。
答えは、子供のいない既婚女性です。研究の結果、日本では子供を持つことによって幸せの水準が下がることが分かりました。
『残酷すぎる 幸せとお金の経済学』の著者、佐藤一磨氏が日本の女性について幸福度を用いて分析した結果、現時点では次のような結論を得ています。
日本における幸せな女性の特徴は、「未婚」よりも「既婚」、「共働き」よりも「専業主婦」、そして「子あり」よりも「子なし」である。
ところで、「幸せ」をどうやって測るのでしょうか。
経済学における幸福度の測定には、主にアンケート調査により行われており、次のような質問文が使われています。「全体として、最近の生活はどんな感じですか。とても幸福ですか、かなり幸福ですか、あまり幸福ではありませんか。」
なお、この質問文を使用するにあたって様々な検証が行われており、幸福度の計測に信頼のおけるものだと確認されています。また、幸せの感じ方が個人で違うという課題に対処するためにも、出来るだけ多くの人からデータが収集され、そこから規則性を見出そうとされています。
幸せはお金で買えるのか
年収と幸福度に関して、プリンストン大学のダニエル・カーネマン名誉教授とアンガス・ディートン教授の2人の研究者によって2010年に公表された、非常に有名な論文があります。
彼らは、アメリカ居住者1,000人を対象とし、年収と幸福度の関係を分析した結果、「年収が6万~9万ドル(約840万円~1,260万円)になるまで幸福は上がり続けるが、それ以上になると幸福度が上昇しなくなる」ことを明らかにしました。しかし、この研究結果は、後に覆されることになります。
2023年、カーネマン名誉教授がマシュー・キリングスワース上級研究員とバーバラ・メラーズ教授と共に、33,391人の働くアメリカ居住者を対象とした調査によると、「年収が7.5万ドル以上になっても、幸福度は伸び続ける」ということでした。
より正確には、幸福度が低いグループと幸福度が高いグループに分けて分析した結果、幸福度が低いグループでは年収と幸福度の関係がある一定で頭打ちになる一方、幸福度が高いグループでは、年収の増加とともに幸福度の上昇傾向がさらに強まるという結果でした。幸福度が高いグループでは、年収が10万ドル(約1,400万円)以上になると幸福度の伸びが加速しており、非常に興味深い結果となっています。
お金持ちほど幸せになれるということは、社会の一部の富裕層が高い幸福度を実感し、それ以外の人々は相対的に低い幸福度となることを意味します。もし、社会全体の所得格差が大きい場合、幸福度の格差も大きくなる可能性があります。
ちなみに、所得格差の現状を見ると、アメリカでは2000年代以降、所得格差が拡大し続けています。アメリカの2004年のジニ係数(所得格差を示す指標。0~1の値をとり、0に近いほど格差が小さく1に近いほど格差が大きいことを意味する)は0.360であり、2010年では0.380、2018年は0.393となっており、ジリジリと上がっています。対して日本の2018年のジニ係数は0.334です。
国レベルでのお金と幸せの関係
経済成長と幸福度の関係について、これまで様々な研究が行われてきました。その中でも特に注目を集めたのが、南カリフォルニア大学のリチャード・イースターリン教授が1974年に発表した論文です。彼はこの論文の中で「一国の経済が成長しても、人々の幸福度の向上につながっていない」ことを明らかにしました。
なぜ経済成長しても幸福度は上昇しなかったのでしょうか。これには様々な仮説が提示されていますが、その一つに「自分だけでなく、皆が一緒に豊かになると幸せを実感できないのではないか」という指摘があります。つまり、「周りのみんなと比較して、自分がどのポジションにいるのか」という点が幸福度に大きく影響すると考えらているということです。「他の人より稼いでいる」「他の人より良い生活をしている」といった他者と比較した際の相対的な地位が、幸せに無視できない影響を及ぼしているということです。
さらに、韓国の高麗大学校のロバート・ランドルフ教授らが行った研究によると、「経済成長によって子供の幸福度は低下する」ことも分かっています。その背景には、経済成長が子供にもたらすプラスの影響とマイナスの影響のうち、マイナスの影響の方が強くなっているというメカニズムがあります。
経済成長が子供にもたらすプラスの影響は、衣食住の質の改善、健康状態の向上、高い教育を受ける機会の増加、犯罪に巻き込まれる割合の低下等があります。一方で経済成長のマイナスの影響は、幼年期からの勉学に割く時間の増大です。近年、「数理・データサイエンス・AI」の重要性が高まっているように、明らかに以前よりも求められる技能が高くなっています。これらの技能は簡単に身につくわけではなく、幼少期からの継続的な学習が重要となり、勉学に割かれる時間が増大していき、子供のメンタルヘルスの悪化や幸福度の低下傾向が観察されています。
参考文献:佐藤一磨著『残酷すぎる 幸せとお金の経済学』(発売日:2023年11月15日)
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