近年では「運」を科学の視点から見た研究が進み、良い偶然を引き寄せる方法が分かってきました。研究者によって微妙な違いはあるものの、大方の見解によれば、「運の掴み方」は次のようにまとめられます。
幸運 = (行動 × 多様 + 察知) × 回復
行動 × 多様 の鍵となるもの
何か新しいことを起こそうと思うなら、あなたが住む世界を探索する必要があります。ゲームと同じように、初めて出会う人と会話を重ね、見知らぬ場所へ出向き、新たなプロジェクトに関わり、多彩な経験を積んでいかねば人生の攻略はままなりません。
では、探索に必要なスキルとは何でしょうか。
問題の答えを探すべく、一旦遠回りをして、別の疑問について考えてみましょう。それは、「天才に共通する性格とは何か」というものです。2021年にウィスコンシン大学などが行った、天才に特有のパーソナリティを調べる研究の結果、全ての天才に共通する天才は「開放性の高さ」であることが分かりました。開放性とは、未知の情報にポジティブな興味を持ち、そのモチベーションを行動に移せるかどうかを示す性格を意味します。簡単に言うと、天才たちは皆、「好奇心」に溢れていたということです。
近年では、ビジネスの世界でも好奇心の重要性が叫ばれるようになってきました。アリゾナ州立大学などが約4,500人のCEOを対象に行った調査によると、過去の複数の業界や企業にチャレンジしてきたジェネラリストCEOと、特定の業界や起業だけで経験を積んできたスペシャリストCEOの業績を比較したところ、ジェネラリストCEOの業績の方が19%も高いことが分かりました。その理由は、複数の企業で試行回数を重ねたCEOは、特定の業界にとどまったCEOよりも多彩な経験を積みやすく、それゆえ自然とバラエティに富んだスキルや知識が身につくからです。また自身の得意と不得意への理解が深まり、持ち前の才能を活かしやすくなります。また、南カリフォルニア大学が行った調査でも、内部昇進より外部採用のCEOの方が成績が良いと報告されており、特定の分野だけで試行回数を重ねることのリスクに警鐘を鳴らしています。
生まれつき知能が高かろうが、生まれつき強い精神力を持とうが、好奇心という土台がなければせっかくの能力も発揮できません。自分の得意分野を超えたジャンルに興味を抱き、損得の感情を超えて幅広いチャレンジを重ねなければ、どんな才能も生かされずに終わりかねないでしょう。真の天才とは、死ぬまで人生を探索できる人間なのです。
では、好奇心というスキルを身に付け、人生を探索し続けるにはどうするべきでしょうか。その方法はいくつもありますが、最大のポイントは次の言葉に集約されます。
「うまくいくまで、うまくいっているふりをせよ」
仕事が出来る人間になりたければ、パフォーマンスが高い人の働きぶりを真似れば良いように、人生の探索スキルを身に付けるには、好奇心を備えた人物のふりをし続ければ良いのです。この作業を何度も繰り返すことで、少しずつ脳に新たな神経パターンが刷り込まれ、やがてあなたの内側に異なるパーソナリティが根付きます。好奇心はインストールできるのです。

好奇心を向けるべき対象
あなたが好奇心を向けるべき対象は、いくつも存在します。新しい趣味、新しい仕事、新しい住居、新しいアイデア・・・
ここで最も重要なのは「新しい人」です。旧友から思わぬ情報が手に入ったり、飲み会の出会いが新たな仕事に結びついたりと、予期せぬ幸運の大半は他者からもたらされるからです。
1979年、コロラド大学の社会学者キャサリン・ジュフリーは、ニューヨークで活躍する写真家の成功要因を調査しました。その結果、成功した写真家とそれ以外の写真家の間には、ある1点だけ大きな違いが認められました。
成功者は、特定の人とのつながりは薄いが、多様な社会的ネットワークを持っている。 非成功者は、特定の人とのつながりは深いが、社会的ネットワークに多様性がなかった。
違う世界のアーティストと交流があれば新たなギャラリーを紹介される確率は上がりますし、多ジャンルのビジネスパーソンと関係を持てば仕事の幅が広がる可能性も上がります。多様な人物との付き合いが増えた分だけ、異なるコミュニティとのつながりが生まれ、そのお陰で良い偶然が舞い込む頻度も上がります。
社会的ネットワークが成功をもたらすのは、アートの世界だけではありません。多様な人材の交流は、ビジネスの成功にもつながります。もし現時点で幅広い人間関係がないなら、コミュ力が高い人の行動を真似すればいいのです。
無駄は何もない
「好奇心で行動する」といえば聞こえはいいものの、その実態は、人生の目標とは何の関係もなさそうな知識をため込み、いつ役に立つとも分からない体験の山を積み上げることに他なりません。そんな行為を重ねれば、やがて自らの行動に疑問を感じ始めても不思議ではないでしょう。
しかし、あなたの行動は無駄ではありません。偉大な発見の中には、当初は無駄だと思われた行動の積み重ねから生まれたものも多いからです。また無駄だと思われていた知識や経験が後で役に立つケースは、私たちの身の回りでも良く見られます。趣味のお陰でクライアントとの会話が盛り上がったり、学生の頃に学んだ第二外国語が仕事につかえたりと、最初は役に立たないと感じた物事が、何かのきっかけで思わぬ成果を生むことは珍しくありません。
「僕は子供のころから成長していないんだよ。いつも『どうやって?』『なぜ?』といった質問を人に問い続けている。それで、たまに答えを見つけるんだ」
(by 物理学者 スティーヴン・ホーキング)
有益な答えなど探さなくても構いません。子供のような好奇心を持ち続ける中で、たまに正しい答えば見つかれば良いのです。
参考文献:鈴木 祐著『運の方程式 チャンスを引き寄せ結果に結びつける科学的』(発売日:2023年2月1日)
Amazon
にほんブログ村
投資信託ランキング