結婚によって確かに幸せになるかもしれませんが、その幸せはどの程度続くものなのでしょうか。20代の結婚したての夫婦ならまだしも、50代の夫婦でも同じように結婚によって幸福度は高まっているのでしょうか。また、結婚相手がどのような人なのかによって、結婚による幸せの度合いは違うのでしょうか。
20~89歳の男女を対象に、幸福度を1~5の5段階で計測したところ、最も幸福度が高いのは既婚女性であり、次いで幸福度が高いのは既婚男性でした。これに対して、最も幸福度が低いのは独身男性であり、その低さが目立つ形になっています。つまり結婚している男女ほど幸福度が高くなっており、「結婚=幸せ」という関係が成立していると言えるでしょう。
独身男性の幸福度が最も低いわけ
独身男性の幸福度が最も低い理由には様々な原因が考えられますが、独身男性の不安定な雇用形態が大きな原因の1つとして考えられます。
既婚男性の場合、88.1%が正規雇用者ですが、独身男性の場合、62.7%が正規雇用者です。また独身男性では非正規雇用者が17.9%、自営等が9.1%、無職が10.3%となっており、不安定な雇用形態の割合が多くなっています。
失業や低い所得水準は、女性よりも男性の幸福度へのマイナスの影響が大きいため、不安定な雇用形態の比率が相対的に高い独身男性の幸福度が低くなると考えられます。とくに日本のような男性がお金を稼ぐことを求められる社会の場合、マイナスの影響はより強くなるでしょう。非正規雇用で働く男性の場合、「稼ぐ力」が相対的に弱く、交際や結婚へのハードルになっているのではないでしょうか。
どんな結婚相手だと幸福度が高いのか
結婚相手によって幸福度がどのように異なるのかを、3つの視点から見ていきたいと思います。
1つは、夫婦それぞれの学歴によって幸福度がどう変化するのかという視点です。日本では、「夫の学歴の方が妻よりも高いか、同じ場合が多い」というイメージを持たれている人が多いと思いますが、実は近年、この傾向に興味深い変化が見られています。
2つ目は、夫婦の年齢差によって幸福度がどう変化するのかという視点です。年の差夫婦の幸福度は、年の近い夫婦と比較して高いのでしょうか、それとも低いのでしょうか。
3つ目は、夫が長男だと幸福度がどう変化するのかという視点です。長男と結婚すると、義理の実家との関係が大変と言われることもありますが、本当に「長男の嫁は大変」なのでしょうか。
学歴と幸福度
実は近年、世界的に夫婦の学歴の組み合わせに変化が生じており、新たなトレンドが生まれています。
OECD諸国のほとんどの国において、女性の大学卒業率が男性よりも高いことを受け、現在、「妻の方が夫よりも学歴の高い夫婦」がOECD諸国で増加しています。その代わりに「夫の方が妻よりも学歴の高い夫婦」が減少傾向にあります。これは、日本にも当てはまります。
日本における「妻の方が夫よりも学歴の高い夫婦」の割合は1980年で全体の12%程度でしたが、1990年には16.1%、2000年には16.2%、そして2010年には21%にまで至っています。ただしその内訳をみると、「妻が専門・短大卒&夫が高卒」という組み合わせが過半数を占めます。
次に、夫婦の学歴の組み合わせと幸福度の関係を見ていきます。分析結果を見ると、いずれの指標(妻の幸福度、生活満足度、夫婦関係満足度)でも「妻の方が夫よりも学歴の高い夫婦」の幸福度が最も低くなっています。この背景にあるのは、「お金」です。
学歴と平均年収は連動するため、「妻の方が夫よりも学歴の高い夫婦」「妻の方が夫よりも学歴の高い夫婦」では夫の年収が低めになります。したがって、「妻の方が夫よりも学歴の高い夫婦」は、世帯所得が相対的に低くなるのです。一方で、妻の家事育児負担はどの場合でもほとんど差がありません。
低い世帯所得と、他と変わらない家事育児負担が、「妻の方が夫よりも学歴の高い夫婦」の妻の幸福度を押し下げているということです。
年齢差と幸福度
夫婦の年齢差と結婚生活の満足度の関係を検証したのは、モナシュ大学のワンシェン・リー准教授とコロラド大学ボルダー校のテラ・マッキニッシュ教授の研究です。合計約18,000組の20~50歳のオーストラリア人夫婦を対象に、夫婦間の年齢差によって結婚相手に対する満足度がどのように変化するのかを検証しました。
男女別に分析した結果、驚くべきことに男性でも女性でも、若いパートナーと結婚した方が夫婦関係満足度が高くなり、逆に自分よりも年上のパートナーと結婚すると、夫婦関係満足度が低くなることが明らかになりました。
なお、自分よりも年下と結婚した方が夫婦関係満足度が高くなるわけですが、これは結婚期間が長くなっても維持できるかというと、そうではありません。男女とも、年下との結婚によって得られる満足度のメリットが徐々に消失することが分かっています。結婚から10年も過ぎると、初期の高い夫婦関係満足度のメリットはほぼなくなってしまいます。
長男との結婚と幸福度
長男との結婚が幸せにつながるのか、実態はどうなっているのでしょうか。
調査によると、長男の夫と結婚しても幸福度はそれほど低下しないものの、長男の夫との結婚により義両親との同居割合が上昇することにより、妻の幸福度が低下することが分かりました。
では、長男ほど自分の両親と同居する割合が高い背景にはどのような要因が存在しているのでしょうか。これは、長男ほど「自分が親の面倒を見なければならない」と考える傾向が高いことです。長男ほど、「兄弟全員で親の面倒を見る必要はなく、自分が見るべき」という考えを持っている割合が高くなっています。このような意識の差が、親との同居に踏み切る背景にあると考えられます。
夫婦仲が悪い結婚でも幸せになれるのか
これまで結婚と幸福度の関係について、大前提として「結婚している人の方が未婚者よりも幸せ」と考えて、様々な視点から見てきました。しかしこれは本当でしょうか。本当に結婚している人の方が幸せなのでしょうか。
世の中を見渡すと、夫婦関係に不満を抱え、幸せではない結婚生活を送る人たちの姿を見かけることが少なからずあります。「家庭内別居」という言葉があるように、結婚していても必要最低限の会話しかせず、同じ家に住んでいるのにまるで別居しているような場合もあります。「夫婦関係の良し悪し」によって、結婚による幸福はどのように変化するのでしょうか。
調査結果から分かったのは、次の2つです。
1つは、夫婦関係に満足している女性ほど幸福度が高く、夫婦関係に不満を抱える女性ほど幸福度が低くなるということです。2つ目は、夫婦関係に不満のある女性の幸福度は、未婚女性や離婚した女性の幸福度よりも低くなっているということです。
以上の結果をまとめると、「結婚によって全ての女性が幸せになっているわけではなく、夫婦関係に満足する一部のみが大きな幸せを享受する」ということです。結婚から得られる幸福度には格差が存在しているわけです。
更に結婚期間別の夫婦関係満足度をみると、結婚直後は大半の女性が夫婦関係に「満足」しているものの、結婚期間が長くなるにつれて、夫婦関係が「普通」や「不満」の割合が大きく増加します。結婚10年目以降になると、夫婦関係に「満足」している割合よりも、夫婦関係が「普通」や「不満」の合計値の方が大きくなっています。
この結果を一言でいえば「夫婦関係は経年劣化する」ということでしょう。
結婚は、幸せを保証するものではありません。もし幸せな結婚生活を送りたいのであれば、結婚後もパートナーとうまくやっていく「マネジメント力」が求められることになるでしょう。食事、運動、余暇の過ごし方と言った生活習慣から、子供に対する考え方や金銭感覚に至るまで幅広い範囲がマネジメント対象です。この努力をし続けることが「幸せな結婚」へと続く道になっていると言えるのではないでしょうか。
参考文献:佐藤一磨著『残酷すぎる 幸せとお金の経済学』(発売日:2023年11月15日)
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