とりわけ子育て世帯では、目先の家計収支にはゆとりがあっても、長い人生を見据えると子供の教育費と自身の老後資金を両立するのは思いのほか難しいというケースが珍しくありません。
家計の赤字期間が長かったり、赤字による貯蓄残高の減少があまりにも大きい場合には、一つの手段だけでは十分な効果が見込めないことがあります。どのように対策出来るでしょうか。
失敗しない教育資金計画
子供の教育費は、大学まですべて国公立に進学しても1人1,000万円以上かかりますが、特に高額なのは大学に進学した場合に在学中の4年間でかかる費用です。大学進学を見据える場合、子供が生まれてから高校を卒業するまでの約18年間は、月々の家計収支の中で生活費とその時々に必要な教育費を賄いながら、同時進行で大学などへの進学資金を貯めていくのが一般的な資金計画です。
例えば高校まで公立校に通う場合、高校卒業までに子供1人にかかる教育費は総額574万円です。18年間で均すと、1カ月あたり約27,000円になります。これに加え、その後国公立大学に進学すると想定して、大学4年間でかかる平均費用481万円を18年間かけて貯めるとすると、月々に22,000円貯蓄する必要があります。つまり子供が生まれたら、学費と貯蓄のために1カ月あたり平均49,000円(=27,000+22,000)、年間で約59万円を18年間用意し続ける必要があるという計算になります。
これを預金で準備する場合、既に利用している銀行で積立定期預金などを開設すると、毎月決まった日に決まった金額が普通預金から振り返られるので、自動で貯めることが出来ますし、生活資金などと混同する心配もありません。子供のために子供名義の預金口座を作ることも出来ます。ただ、親名義の口座から子供名義の口座へお金を移し替えるには振り込みの手間や手数料がかかること、金額が大きければ贈与とみなされる恐れがあることは注意する必要があります。いずれにしても預金は入出金がしやすいので、必要になればすぐに引き出すことも出来ます。
学資保険 vs NISA
子供の進学時まではお金を引き出さないことを前提に考えるなら、学資保険も手段の一つです。受け取り時期を子供の大学入学時期に合わせて設定し、保険料を払い込みます。保険ですので、契約中に契約者が死亡した場合などにはその後の保険料払い込みが免除され、受け取り時期が来たら当初の予定通りの額資金を受け取ることが出来ます。親が万が一の時にも、まとまった教育資金を子供に残すことが出来るということです。
ただしプランによっては、満期前に引き出すには保険契約を解約しなければならず、払い戻される金額が払い込み済みの保険料を大幅に下回る可能性があります。また前提条件によってはたとえ満期まで継続しても、払い込んだ保険料総額に対して、満期金が下回ることもあり得ます。加えて学資保険は加入できる子供や親に年齢制限があり、多くは子供が3歳や6歳といった幼い時期までしか申し込めません。
出来るだけお金を増やすことを優先的に考えるなら、多少リスクがあっても、資産運用にチャレンジしてみるのも一案です。最近はNISAなど国の税制優遇制度が充実してきており、これを活用して運用効率を高める期待も出来ます。NISAは毎年所定の金額まで株式や投資信託に投資をした時に、値上がり益や配当金・分配金による収益に対して通常かかる20.315%の税金がかからない制度です。課税がないので利益の全額が手取りになります。株式や投資信託には値動きがあり元本保証がないので、値下がりなどで損失が出るリスクには留意が必要ですが、子供の幼少期から長期にわたった教育資金作りが可能な場合には、活用できるかもしれません。
NISA制度は2024年に新しくなり、従来の制度よりも非課税で投資できる上限額が拡大しました。(ジュニアNISAは2023年末に廃止)新制度では、積立用の「つみたて投資枠」として年間120万円、主に株式や投資信託などの一括投資向けに「成長投資枠」として年間240万円、合計で年間360万円まで非課税で投資できます。また、生涯を通して1,800万円の投資枠を利用でき、一度利用した非課税枠は、株式や投資信託を売却すれば再利用が出来ます。
老後資金の育て方
子育て期間は、住居費に教育費に生活費にと、あらゆるお金の負担に追われる時期なので、日々家計をやりくりするだけで精いっぱいで、自分の老後のお金までほとんど手が回らないというのはよくあることです。しかし、公的年金の給付水準の低下、「サラリーマン増税」による退職金への課税強化の検討など、現在の現役世代の老後はリスクにあふれています。
前述のNISAと合わせて老後資金を準備する方法として近年注目されているのが、個人型確定拠出年金(iDeCo)です。確定拠出年金は老後資金を準備するための制度で、企業で退職金制度の1つとして導入されている「企業型確定拠出年金」のほかに、個人で任意加入する制度としてiDeCoがあります。企業型は制度を導入している企業の会社員しか加入できませんが、個人型のiDeCoは20歳以上65歳未満なら原則、誰でも加入できます。
iDeCoは、自分で選んだ金融機関に口座を開設して、毎月一定額を積み立てて利用します。積立てたお金で、各金融機関が揃えている預金や積立型の保険、投資信託の中から選んだ金融商品を買い付けます。これを老後まで繰り返し、原則60歳以降に受け取ります。NISAと同様に、iDeCoでも値上がり益や配当などで得た利益は非課税になります。このほかiDeCoで特徴的なのは、つみたてた掛け金や老後の受け取り時にも税制優遇措置があることです。
例えば年収1,000万円で月1万円積み立てた場合は年間約36,000円、これを25年間続けると総額90万円の税額軽減効果があります。また積立・運用したお金を老後に受け取る時にも、課税対象にはなるものの所得控除の対象になるため、税負担が少なくなる仕組みになっています。
所得制限からお金を守る
家計の改善やお金の貯蓄・運用とともに、年収1,000万円前後の世帯で意識したい対策に、「所得」を把握することもあげられます。児童手当など所と制限のある各種補助制度の利用可否は子育て世帯のお金の負担を大きく左右します。我が家が所得制限の対象となるのかどうかを自分で判断できれば、家計の防衛策になるかもしれません。
意外と知られていないのが、「収入」と「所得」の違いです。「所得制限」という時に用いられる「所得」は、厳密には「収入」と意味が異なります。所得は所得税や住民税の計算上で使われる言葉で、収入から「必要経費」を差し引いた金額の事を指します。ゆえに、所得1,000万円は、年収ベースにすると1,200~1,300万円程度になることが多くなります。
会社員の場合、「働くためにスーツや靴、文房具などのための必要経費」として、給与に応じた所定の金額が「給与所得控除」として税の計算上で収入から引かれます。他にも厚生年金の保険料や健康保険料などによる「社会保険料控除」等もあります。これらの控除を年収から差し引いた所得がいくらなのか、会社員は源泉徴収票で確認することが出来ます。源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」が給与所得の金額、その横にある「所得控除の額の合計額」を引いた金額が、課税される所得金額です。
児童手当の場合、所得をもとに、「総所得 – 控除額 – 8万円」という基準で所得制限の対象となるか否かが判定されます。ここでいう総所得の金額は、収入が給与のみの会社員の場合は、源泉徴収票の「給与所得額」から若干の追加控除を差し引いた金額です。
高校の授業料無償化も、住民税をベースに所得制限が設けられています。厳密には住民税額そのものではなく、「市町村印税の課税標準額×6% – 市町村民税の調整控除の額」という所定の計算式が基準です。文部科学省では年収換算した目安表を公表しており、高校生の子供一人の会社員家庭の場合は、年収約1,030万円以下となっています。
お金に関する知識をつけて工夫する力は誰にとっても重要です。あらゆる面において先を見通すことが困難なこれからの時代は、それが人生を左右すると言っても過言ではないと思います。
参考文献:加藤 梨里著『世帯年収1000万円:「勝ち組」家庭の残酷な真実』(発売日:2023年11月17日)
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