2023年1月に東京都狛江市で高齢女性が暴行されて死亡する強奪殺人事件、5月には銀座ロレックス強盗事件が起きました。狛江市の事件では21歳の土木作業員、19歳の大学生を含む4人の実行犯が逮捕され、銀座の事件は犯人全員が19歳以下の未成年でした。
女性や若者を直撃する日本の貧困問題、世代間格差は行きつくところまで到達し、男子は闇バイトで強盗、女子は買収という異常な事態を生んでしまっています。戦後の混乱期に頻発した強盗は重罪であり、女性の街娼行為は売春防止法で厳しく禁止されます。にもかかわらず、一線を越えてしまう若者たちが後を絶ちません。
現在の日本の貧困化の分岐点となったのは2004年です。2004年に何があったのでしょうか。
日本の貧困を本格化させた年
2004年4月、独立行政法人日本学生支援機構が発足して大学奨学金の有利子融資を開始しました。学費を続々と値上げしながら、受益者負担の名のもとに世帯年収が低いと認められた家庭の学生と貸借契約し、借金を抱えさせるというものです。雇用の非正規化で学生の親世帯が貧しくなり、学生は多額の借金を背負うことが常識になりました。
また、政府は1990年代半ばから雇用の自由化を目指して、労働者派遣法の改正を繰り返していました。そして2004年3月、製造業の派遣を認めたことで非正規雇用が本格化しました。これにより、特に女性が次々と非正規雇用に移され、労働者の低賃金が常態化しました。
もう一つ、2003年に開始され、2004年に激化した歌舞伎町浄化作戦があります。当時の石原慎太郎都知事が警察官僚竹花豊氏を招聘し、歌舞伎町の店舗型風俗店を立て続けに叩き潰しました。店舗型風俗店は昭和時代から貧困女性の最後のセーフティネットとして機能しましたが、女性の貧困が本格化する分岐点となった2004年に潰してしまったのです。
良質な雇用を奪い、未成年の大学に有利子負債を抱えさせ、女性たちのセーフティネットまで奪ったことで深刻な貧困の時代が幕を開けました。この副作用として起こったのが、単身女性の3人に1人が該当する女性の貧困、7人に1人の子供の貧困、そして深刻な学生の貧困であり、大切に育てた子供たちを最終的に売春婦にさせてしまっているという状況です。
奨学金返済のためにパパ活
茶飯(セックスなし)のみのパパ活をする藤井さん(仮名、21歳)は、都内の最難関私立大学3年生。誰が見ても美人で、彼女は戦略的にパパ活をします。自ら男性を検索し、自己紹介や職業、収入をチェック、自分から「お会いしたい」とメッセージを送ります。お茶1万円、食事2万円の要求と肉体関係になることはしないことを徹し、月10万円程度を稼いでいます。同じようにパパ活をする友人も多いと言います。
十数年前から入試難易度に関わらず、大学は貧困の巣窟となっています。理由は学費の高騰、親からの援助減少、授業優先のアルバイト収入減少で、大学昼間部の奨学金受給率は49.6%、平均借入金額は3,243,000円と深刻な状況になっています。
一方現在70代の団塊世代の国立大学授業料は当時12,000円で、消費税も携帯代も光熱費の上昇もありませんでした。壮絶な世代間格差の側面が、安価な大学学費と税制だけで説明できます。このように貧困状態を強制するとパパ活、水商売は常識となり、性風俗や売春する女子学生も膨大になります。
学費のためにカラダを売る
松本さん(仮名、20歳)は、地方にある中堅私立大学3年生です。ほとんど休むことなくソープランドに出勤します。清楚な優等生風で、大学では体育会系の部活に所属し、グローバルビジネスの研究をしています。大学の授業期間中は土日を中心に、休み期間中はほぼすべての時間を店の個室で過ごしています。
彼女は国立大学に落ちたことで、母親に「奨学金で大学に行け」と言い渡されました。両親は正規雇用の県庁勤務で、世帯収入は1,200万円を超えます。しかし、両親が学費の援助を拒否したので、私立に進学先が決まった高校3年3学期に、高校の教室で風俗嬢になる決意をしました。
彼女のような厳しい境遇は、大学生では珍しくありません。両親は平均以上の所得があるのであらゆる奨学金は給付対象外であり、学生生活にかかるお金を肉体で稼がなければなりません。団塊ジュニアの両親、団塊の世代の祖父母は、彼女に自分の学生時代の価値観で語ります。彼女の苦境を理解せず、高額な学費がのしかかり、悲惨な状況に陥っています。
性行為が辛いホスト
過酷な状況に陥るのは、女子学生だけではありません。MARCH4年制の大橋さん(仮名、22歳)は、大学3年の夏休みから歌舞伎町でホストをしています。
大学入学当初、両親は貯金を切り崩して学費を払ってくれていましたが、コロナになって学費を捻出できなくなり、ホストを始めることになりました。
新人ホストはマッチングアプリで女性客を探し、客になる女性を口説いて売上をあげます。膨大な「いいね」を押して、膨大な人数の女性とつながっています。ほとんどの女性は大橋さんがホストであることは知らずに、恋愛するつもりでコミュニケーションをとっています。女性客はホストに恋愛感情があるケースが一般的で、肉体関係に発展することもあります。大橋さんは、好きでもない知らない女性との肉体関係が本当に辛いと言います。
卒業まであと1年、ホスト部で働くしか手段がありません。女生徒の肉体関係が嫌でも、学費のためにやめるわけにはいかないのです。
2004年を分岐点にして始まった日本の貧困は、ずっと見えないところで国民を蝕んできましたが、Z世代の登場によって強盗、街娼と見える事象として社会に現れるようになりました。世代格差が限界を超え、持つものから奪うという局面に突入しているのです。
参考文献:山田 昌弘著『「今どきの若者」のリアル』(発売日:2023年11月16日)
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