総務省が行った「平成30年 住宅・土地統計調査」によると、1年以上誰も居住しておらず、使用もされていない空き家は8,489,000戸。総住宅数に占める割合は13.6%にのぼり、10戸に1戸以上が空き家という計算になります。この数は右肩上がりに増加中で、1988年から2018年までの30年間で452万戸が新たに空き家になりました。2023年現在、同調査が再び行われていますが、空き家の総数は1,000万戸近くになるとみられています。
中でも特に増えているのが売却や賃貸、別荘用などの使用目的が特になく、そのまま放置された空き家です。こうした「なんとなく空き家」は、1998年から2018年の20年間で182万戸から1.9倍の349万戸にまで増加しました。2040年には、これが712万戸に達すると予想されています。
前出の「住宅・土地統計調査」によると、都道府県別で空き家率が最も高いのは山梨県の21.3%で、第2位は和歌山県の20.3%、以降は長野県が19.5%、徳島県が19.4%と続きます。一方最も低いのは埼玉県と沖縄県で10.2%、次いで東京都で10.6%、神奈川県が10.7%、愛知県が11.2%と続きます。数字を見ると首都圏近郊や大都市圏はまだ大丈夫なように見えますが、「率」は低くても「数」は多い。「大都市だから大丈夫」「自分たちの街は売ろうとすれば売れているから大丈夫」というこれまでの感覚が通用しなくなるエリアがかなり増えると予想されています。
所有者の約半数が「活用予定なし」
人が住まなくなった家は瞬く間に荒れます。国土交通省が行った「令和元年 空き家所有者実態調査」によると、屋根の変形や傾き、外回りの腐朽・汚損といったトラブルを抱える空き家は54.8%に上ります。既に空き家の半数に危険な兆候が表れています。また、人目が行き届かない空き家は治安悪化の温床にもなります。
空き家が放置されるのは望ましくありません。しかし、前出の国交省の調査によると、「なんとなく空き家」の所有者のうち」44.6%が売却や賃貸として活用、あるいは解体して更地にするといった意向を持っていません。そしてこうした空き家の24%は、居住者がいなくなって20年以上が経過しています。
空き家に関するコンサルティングを行う空き家活用株式会社の和田貴充代表は「なんとなく空き家」の所有者たちの心理を「放置するというよりも、相談できるところがないので致し方なくそのままにしている方が多い」と分析します。どうにかしなければとは思いつつもどうしていいか分からない・・・ということでしょう。
「住みたい街」上位の世田谷区が抱える5万戸
世田谷区は「住みたい街ランキング」上位常連の人気エリアですが、実は全国の市区町村で最も多くの空き家を抱えているというもう一つの顔があります。その数は5万戸にのぼり、うち約12,500戸が「なんとなく空き家」です。1988年から比べて約7割増加しており、前出の試算でも2040年に2万戸を超える自治体の1つに上がっています。空き家が都市部にも広がっていることを象徴する場所です。
世田谷区の空き家がこれほど増えている大きな理由は、持ち主の高齢化です。1990年から2015年までの25年間で、区内の高齢夫婦世帯数と高齢単身世帯数は前者が約2.0倍、後者が約2.8倍に増加しました。区が空き家の所有者を対象に行ったアンケートによると、建物を使用しなくなった原因・きっかけの第1位は「住んでいた人が死亡し相続したが、他に居住している住宅がある」で23%を占めます。次いで「住んでいた人が介護施設等に入所又は入院」と「借家人が退去」が21.7%となっています。
問題の長期化を招く相続の混乱
この状況は世田谷区以外も同じで、全国でも空き家の取得経緯で最も多いのは「相続」で54.6%を占めます。
空き家に関する数多くの相談を受けてきたNPO法人 空き家・空地管理センターの上田真一理事は「相続人同士で意見の対立が起きてしまうと、空き家期間が長期化する傾向がある」と言います。相続に関して誤った認識や思い込みを抱いている人が多いことも手伝って、停滞したりもめごとに発展したりしがちです。
相続の混乱は自治体にも甚大な影響をもたらします。前提として日本ではこれまで不動産登記が義務化されていませんでした。このため空き家の所有者探しは難航します。
自治体の空き家担当部署へのアンケートでは、回答した自治体のうち77%で所有者不明の空き家が存在します。「相続登記されていない空き家が多く、相続権者が多数であるために所有者の探索に手間も時間もかかる」のです。
相続放棄
どうにもならない空き家を相続した時、取りうる最終手段として相続放棄という道があります。最高裁判所が発表する司法統計年報によると、相続放棄の申述の受理件数は増加傾向にあり、2008~2018年の10年間で約1.5倍になっています。
本来の相続人が相続放棄をすると別の人間が相続人となります。例えば両親が亡くなった後、子どもたちが全員相続を放棄し、両親の親つまり祖父母も既に他界していた場合、相続権は親の兄弟姉妹に移ります。彼らもすでに亡くなっていた時にはその子供、相続放棄をした人間にとってのいとこが相続することになります。実の子供たちが「いらない」と断った空き家を親族が喜んで受け取ることは稀でしょう。押し付け合いの果てに、残された者たちの人間関係に大きなひびが入りかねません。
「いずれ誰かが解決してくれる」「いったんおいておこう」と空き家所有者あるいはこれから空き家になりうる家の所有者たちが先送りにした付けが、次世代に大きな重荷を背負わせます。子供が泣き親を恨みがましく思うようなことすらあり得てしまうのです。
参考文献:NHKスペシャル取材班『老いる日本の住まい 急増する空き家と老朽マンションの脅威』(発売日:2024年1月25日)
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