多様化する結婚の形
高度経済成長期は、人々のライフコースには一定のロールモデルがありました。男性なら「大学進学して、大企業に就職し、数年後に結婚」、女性なら「高卒か短大卒で入社して、2年くらいで寿退社」、結婚後は「夫は主に仕事、妻は主に家事育児、子どもを2~3人つくり、郊外に戸建て住宅を建て、マイカーを持ち、生活する」。男女ともにロールモデル的家庭像を夢見て、実際、それをかなえた人も多かったはずです。
しかし令和の今、そうしたステレオタイプの「結婚生活」「家庭生活」を送る人は少数派になりました。そこに浮かび上がってくるのは、「個人化の時代」というキーワードです。
かつて圧倒的多数だった「夫が働き、妻が専業主婦」の家庭は、1999年あたりで逆転し、2021年時点では、「専業主婦家庭」が458万組なのに対して「夫婦共働き家庭」は1,177万組(正規雇用同士が486万組、夫が正規雇用で妻が非正規雇用者は691万組)となっています。
そんな中、家事育児を専業とする存在は妻ばかりではなく、夫となるケースも登場しています。男女による「役割分業形態」も、その内実は多様化しているということです。
また法律で認められた「結婚」以外の選択をするカップルも誕生しています。事実婚として生活している「夫婦」、「パートナー」という結びつきを選ぶカップル、「別居婚」を選ぶ夫婦もいます。さらには、互いの高速性を解消し、それぞれガールフレンドやボーイフレンドと恋愛しても構わないという形での「卒婚」もあります。
このように、「結婚」の内実は多様化してきており、夫婦が選べる「選択肢」が増えているのが今の時代です。言い換えれば、個々人が、きわめて多様な人生の選択肢から、「自分の人生」を選び取らなくてはならなくなった時代だとも言えるのです。
「個人化」されるあらゆる決断
「個人化」とは、人々の個人主義が極まった、わがままな状態とは異なります。社会学でいうところの「個人化」とは、あらゆるもの事について、「選択が個人に委ねられた状態」の事です。結婚しようが、未婚だろうが、離婚しようが、社会的サンクションが下りるわけではない。あらゆることが「個人の意思」に委ねられた結果、人々は「自分で選ばなくてはならない」状態に恒常的にさらされるようになったのです。それは一見、喜ばしいことのように思えますが、実はかなりの心的ストレスを生じさせることも明らかになっています。
「愛情」がない結婚生活は可能か
日本では、「結婚生活」=「愛情が続いている状態」とは断言できません。1週間1度も会話をしていなくても、1カ月1度も食事を一緒にしていなくても、寝室が完全に別でも、相手のことを好きだと思わなくても、日本において「結婚」は可能です。
「結婚」=「愛情」+「経済」
ならば「結婚」と何でしょうか。
多様な選択肢から人生を選べる時代、むしろ選ばなくてはならない時代に、何を決め手に結婚を決めれば良いのでしょうか。基本的に、自分の人生を決めてしまうかもしれない大切な決断に、「好きに選んでいいよ」と言われた人間は、喜びや自由よりも、不安を感じるのではないでしょうか。「本当にこの人と結婚して、正解なのだろうか」と。
男性は、結婚で人生のコースが変わるとは思っていません。実際に結婚した結果、男性が人生のコースを大きく外れることはほとんどないのです。しかし女性は、誰と結婚するかによって自分の人生が大きく変わります。相手の職業、収入によって暮らしぶりは大きく変わり、どこに住むか、仕事を続けるか、子供を産むかによって、その後の人生が大きく変わってしまうからです。だからこそ、日本人(特に女性)は、「結婚」に「愛情」と「経済的安定性」の2つを求めざるを得ないのです。
バブル崩壊後の日本社会は、経済的に成長せず、非正規雇用者を大量に生み、社会格差を生み出してきました。特に女性の非正規雇用率は高く、男女の収入格差は欧米先進諸国に比べて段違いです。2020年時点で、日本女性の非正規雇用率は54.4%と半分以上を占めています。しかも結婚前の世代における25~34歳までは34.3%ですが、出産・育児を経た35~44歳までは49.6%、45~54歳までは56.6%、55~64歳までは66.7%、65歳以上は82%と上昇していくのです。
日本がジェンダーギャップ指数が高いのは周知の事実ですが、一部の高学歴キャリア層の女性を除けば、一般女性の多くは、低い時給のサービス業や事務員、派遣社員として働くことを余儀なくされています。
要するに多くの女性にとって「結婚」は、令和になった今でも生活を安定させるための主要素の一つです。好き・嫌いだけで、結婚生活を解消できない事情が、日本社会にはいまだに潜んでいるということです。
日本における「結婚」とは
近代日本における「結婚」は、他の多くの候補の中から特別に自分が選ばれたという「特別性」と、他者から人生の伴侶として選ばれたという「承認性」を意味しています。単に自分が選んだだけではなく、相手からも「特別な相手」として選ばれたという実感が欲しい。要するに「結婚」=「経済的安定性」だけでなく「愛情」、正確に言えば「自分が相手にとって特別な存在であることの実感」の要素もしっかり入っていないと、自分自身の存在意義が揺らぐのです。
かくして婚活市場では「イケメン・高学歴・高収入」という、なかなか並立しがたい異なるベクトルをクリアしたごく少数の男性ばかりを求める女性が多くなります。これは現代日本女性がわがままなのではなく、「結婚」に、「愛情」と「経済」の両方が求められるようになってしまった背景が大きいのです。
参考文献:山田 昌弘著『パラサイト難婚社会 』(発売日:2024年2月13日)
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