女性には、男性とは異なる所属階級の持つ意味があります。
第一に、フルタイムで就業することがデフォルトとなっている男性と異なり、女性には有業者と無業者がいるということです。男性にも無業者はいますが、人生の大部分を無業者として過ごす人々はごく少数ですので、有業者と無業者の間の格差というのは、かなり特殊です。
第二に、女性の場合、所属階級の持つ意味が男性とは異なっています。夫とともに家業に従事する女性たちが所属しているのは、資本家階級や旧中間階級の「従属的な部分」であり、新中間階級や労働者階級の下層部分です。だから女性は、同じ階級に所属していても、男性より収入が少ないのです。
第三に、女性の場合、生活水準や生活の在り方は、夫の所属階級によって大きく左右されます。従って、女性の間の格差を見る場合には、本人の所属階級に加えて、夫の有無とその所属階級も考慮しなければなりません。とりわけ本人が無職又は非正規労働者の場合は、これが決定的に重要になります。夫がいる場合、無職の妻は専業主婦と呼ばれ、非正規労働者の妻はパート主婦と呼ばれます。多くの場合、彼女らには正規雇用の新中間階級や労働者階級として働く夫がおり、生活の多くを夫の収入によっています。しかし夫のいない無職や非正規労働者の女性は、極めて大きな貧困リスクを負うことになります。
以上のことを考慮して、女性たちを30のグループに分けたものが、下図です。
もっとも人数が多いのは、労働者階級の夫を持つパート主婦で10.1%、これに同労者階級の夫を持つ専業主婦10.1%、アンダークラス8.4%、配偶者のいない正規労働者階級8.0%、新中間階級の夫を持つ専業主婦7.9%、新中間階級の夫を持つパート主婦6.8%等が続きます。
なお夫のいない無配偶の有職女性の場合、シングルマザーとそれ以外とでは生活水準や生活実態に大きな違いが生まれるので、これらは区別する必要があります。さらに上図灰色の区分は非常に数が少なく、事実上分析は困難です。結果、最終的に分析対象となるのは、以下の20区分になります。
女たちの経済格差
個人年収
下図は、各グループの平均個人年収を示したものです。無職のグループにも個人収入はありますが、これは生活保護などの社会保障給付と年金収入が中心です。
平均個人年収が最も多いのは、⑦II 新中間階級・シングルマザーで、373万円となっています。平均年齢がやや高いことに加え、子育て費用を得るために多くの仕事を引き受けるということもあるのかもしれません。これに続くのは、③新中間階級 – 新中間階級の359万円、⑦I 新中間階級・シングルの357万円という新中間階級の2つのグループです。新中間階級に続くのは、正規労働者階級の4つのグループで、250万円から330万円程度となっています。
夫の年収
下図は、各グループの夫の平均個人年収を示したものです。夫のいない7つのグループについては、グラフを示していません。
夫の平均個人年収が最も多いのは、②専業主婦 – 資本家階級の1,136万円であり、次いで多いのは、①資本家階級 – 資本家階級の805万円です。これに続くのは、夫が新中間階級の4つのグループで572万円から646万円、夫が労働者階級の4つのグループと夫が旧中間階級の3つのグループで、いずれも360万円から460万円前後です。
世帯年収
下図は、各グループの平均世帯年収を示したものです。一見して、グループ間に非常に大きな格差があることが分かります。
平均世帯年収が最も多いのは、②専業主婦 – 資本家階級の1,226万円です。次いで多いのは、①資本家階級 – 資本家階級の1,173万円です。これに続くのは夫が新中間階級の4つのグループですが、妻がフルタイムで働いている③新中間階級 – 新中間階級997万円と、⑧正規労働者階級 – 新中間階級933万円が、⑤パート主婦 – 新中間階級772万円と④専業主婦 – 新中間階級691万円にかなりの差をつけています。
夫が労働者階級の4つのグループのうち、平均世帯年収が最も多いのは⑥新中間階級 – 労働者階級728万円です。これに続くのが、④正規労働者階級 – 労働者階級663万円、⑩パート主婦 – 労働者階級545万円、⑪専業主婦 – 労働者階級486万円と、妻の稼得力の順番に続いています。
⑰無職・シングルを除いて平均年収が最も少ないのは、⑬II アンダークラス・シングルマザー300万円と、⑬I アンダークラス306万円です。特に前者は子育てをしているので、生活に多くの困難があることは容易に想像できます。これに対して⑦II 新中間階級・シングルマザー473万円と、⑫II 正規労働者階級・シングルマザー418万円は、かろうじて子育てが出来る収入を確保していると言えます。
夫が旧中間階級の3つのグループでは、夫婦で家業を営む⑭旧中間階級 – 旧中間階級が688万円とかなり多くなっています。注目したいのは、妻が収入を得ている⑯パート主婦 – 旧中間階級の平均世帯年収520万円が、⑮専業主婦 – 旧中間階級545万円を下回っているということです。これは、このグループの夫の個人年収が365万円と少ないことによるもので、旧中間階級の最下層部分ということが出来ます。
資産総額
下図は、各グループの平均資産総額を示したものです。ここで資産総額は、生計を共にしている家族で所有している金融資産と不動産について、それぞれ時価総額を合計したものです。
資産総額には極めて大きな格差があります。最も平均資産総額が多いのは①資本家階級 – 資本家階級で、6,099万円。次いで多いのが②専業主婦 – 資本家階級4,577万円で、⑮専業主婦 – 旧中間階級4,226万円、⑭旧中間階級 – 旧中間階級3,996万円と続きます。
平均資産総額が最も少ないのは⑬II アンダークラス・シングルマザーで、わずか547万円、これに続くのは、⑨正規労働者階級 – 労働者階級1,030万円、⑦II 新中間階級・シングルマザー1,085万円、⑫II 正規労働者階級・シングルマザー1,090万円となっています。
参考文献:橋本 健二著『女性の階級』(発売日:2024年4月17日)
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