2024年11月に行われる米大統領選は、民主党の現職バイデン大統領と、返り咲きを狙う共和党トランプ前大統領の一騎打ちになります。
2月に発表されたABCニュースなどの世論調査によると、81歳のバイデンが2期目を務めるには「年を取りすぎている」と答えた人は86%。77歳のトランプが「年を取りすぎている」と答えた人は62%でした。2021年1月の就任時点で78歳とアメリカ史上最高齢の大統領だったバイデンは、2期目を終えるときは86歳。今でさえ、記憶違いや言い間違いが目立っています。ウクライナとイラクを混同したり、現職のフランス大統領をマクロンではなくドイツのミッテランと言ったり。
ポスト・バイデンが出なかった理由
結局、民主党からは「ポスト・バイデン」の大統領候補が出てきませんでした。その大きな理由は、オバマ政権の時バイデンが副大統領だったためでしょう。民主党の支持者は今でもオバマが大好きだし、オバマを支えたバイデンに対する評価は高い。しかもバイデンは、4年前の2020年にトランプに勝っています。トランプに買った唯一の候補だから、周りが引きずりおろすことは出来ませんでした。
カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(56歳)は、将来の大統領候補として期待され、民主党の中でも支持が高い。2028年の大統領選には出馬するでしょうが、「バイデン大統領に挑戦することはない」と話しています。
共和党を変えたトランプ
世論調査の支持率を見ると、バイデンの45%前後に対して、トランプは47%と上回っています。(2024年3月時点)なぜアメリカ人はトランプを再びリーダーに選ぼうとしているのでしょうか。
一言でいえば「格差」への怒りでしょう。アメリカ社会でも格差が広がって、下から7割の国民は過去30年賃金が上がっていません。糖尿病患者がインスリンを1回打つのに5,000ドル、つまり75,000円かかります。「金がない奴は病気になったら死ね」というのが、今のアメリカです。こんな社会にしたエスタブリッシュメントには、責任がある。それを乱暴な言葉で訴えているのが、トランプではないでしょうか。
第二次世界大戦後以上の混乱
各国政府も産業界も、「ほぼトランプだろう」と対策を練り始めました。ただ、トランプ再選後の世界のパワーバランスがどうなるかについては、あまりにも不確実な要素が多すぎます。
確実なのは、世界が多極化というより複雑系になることで、そうすると予測不能の問題がたくさん出てきます。「危険人物」のトランプか、再任された場合、任期末には86歳になるバイデンか。そのどちらが選ばれても、中長期的にはアメリカは内向きになり、アメリカの力はこの程度だったのかということが露呈してくることは間違いないでしょう。アメリカが世界での存在感を低下させると、その空白をどう埋めるかが課題となり、世界各地で勢力均衡線の引き直しが行われることになります。それによって、第二次世界大戦後の国際秩序の転換というレベルではない混乱が起きるでしょう。
トランプ再選なら、プーチンが「アメリカに勝つ」
バイデンが再選するか、トランプが復帰するかで、外交政策が大きく異なることがはっきりしているのはウクライナへの支援です。トランプは「自分が大統領になったら24時間以内に終わらせる」と言っています。これは、アメリカがウクライナへの支援をやめることを意味しています。
ウクライナに単独での戦争継続能力はなく、アメリカの支援に頼っている状況ですから、アメリカが手を引いたら、早い段階で停戦するでしょう。そうなると、アメリカにはしごを外されたウクライナは憎んで、反米に転じるかもしれません。
一方、プーチンはウクライナ戦争をアメリカとの戦いだと思っていますので、「アメリカに勝った」と国内に向けてアピールするでしょう。
国際情勢は短期的には安定
今後のアメリカは、第二次世界大戦前よりもアメリカ第一主義になるでしょう。経済面では、海外からの輸入品に10%の関税をかける。中国からは60%だと宣言しています。もしこれが実現すれば、アメリカ国内の産業は振興します。
だから産業界も金融界も、既に期待しています。バイデンが行った石油や石炭に対する規制を取っ払い、海外から軍隊を引き揚げさせてメキシコとの国境警備に充てるとも言っています。
トランプは戦争を好みませんから、イスラエルを除けば、価値観戦争的な紛争はなくなり、短期的には国際情勢はしばらく安定すると思います。しかし、各地で「アメリカの撤退による力の空白」が生じる。だから、不安定を通り越して、誰も予想できない未知の領域に入ることになるでしょう。
ペトロダラーの崩壊もありうる
トランプの復権でアメリカ国内が混乱したら、基軸通貨としてのドルが揺らぐ恐れがあります。原油国際取引市場では国際決済のほとんどがドル建てで行われるため、石油(ペトロ)の国際取引が「ペトロダラー体制」と呼ばれてきましたが、近年では自国の通貨で直接決済しようという動きが相次いでいます。基軸通貨としてのドルと、世界のエネルギー源としての石油。マネーとエネルギーの両方を支配していることがアメリカの国力の源だったのですが。
既にロシアは石油の輸出国にルーブルでの決済を求めていますし、サウジが石油の現物取引をロシアや中国と始めています。人民元やインドルピーでの決済が広がっていくと、ペトロダラーの崩壊のリスクがあり得ます。さらに、ロシアや中国がアフリカの現地通貨での相対取引を認めるよういなると、基軸通貨としてのドルにはかなり風穴があいてきます。
金本位制に戻るか
もしもペトロダラーが崩壊してドルが基軸通貨でなくなると、恐ろしい事態になります。国際的な貨幣価値の基準がなくなるのですから。
ドルが期日食うかで亡くなったら、金本位体制に戻るしかないのではないでしょうか。金の価値が上がると、南アフリカ、ロシア、中国といった金産出国の地位が高くなります。日本ももう一回、佐渡金山を掘り返すことになるかもしれません。
参考文献:池上 彰 (著), 佐藤 優 (著)『グローバルサウスの逆襲』(発売日:2024年4月19日)
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