相続とは、人が亡くなった時に、故人(被相続人)が所有していた財産の全てを、配偶者や子供などの相続人に引き継ぐことを言います。ここでは、親から子供への遺産相続を取り上げます。
相続財産と相続税
相続財産には亡くなった人が所有していたあらゆるものが含まれます。そしてそれぞれの相続は、それぞれ以下のように評価されます。
不動産: 通常、時価ではなく評価額で計算します。市街地にある土地は、土地が面している道路の路線価をもとに、家屋は固定資産税評価額を使って評価します。 現金・預金・株券: 現金や預貯金は金額そのままを相続財産に参入します。株券は、相続開始時点(被相続人が亡くなった時点)での価格が基本になります。 貴金属・自動車・家電等: 高価な貴金属や耐久消費財は基本的には時価ですが、分かりにくいものは購入価格を参考にして、必要に応じて使用期間などを考慮に入れて算定します。高価ではない宝石や家電等は、全部まとめて「家財一式」で計上するのが一般的です。 著作権: 小説などの文章、写真、絵画、デザイン、コンピュータープログラム等は、著作権として相続の対象になります。著作権には存続期間が定められており、著作者が亡くなってから70年間が対象になります。近年はYouTube、NFT(非代替性トークン)等もあります。これらの財産価値もきちんと判定されるよう、法整備が進められていくことでしょう。
なお、相続税を払わなくてはならないのは、相続財産の総額が以下の「基礎控除」を超える場合です。
相続税の基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例えば、法定相続人が、配偶者と子供2人の場合、4,800万円(=3,000万円+600万円×3)が基礎控除になります。
相続は2回やってくる
1つの家族において、相続は2回発生します。1回目は片方の親が亡くなるとき、2回目は残された親が亡くなるときです。一般的に、一次相続では男性が亡くなるケースが大半です。2021年の税理士法人レガシィの統計によると、一次相続のご相談で男性が亡くなったケースは82%に及びます。
遺産を相続できる権利のある人を「法定相続人」と呼びますが、遺言書を作成しておけば、法定相続人でない人でも相続人になれます。例えば、内縁関係の妻(夫)、愛人、認知していない子供、生前世話になった方々等、血縁関係にない人でも相続が可能です。そして、故人の財産をどのように分けるかは、相続人全員による話し合い(遺産分割協議)に基づいて、全員が合意する必要があります。
なお本書の著者は、一次相続では全て配偶者に相続することを勧めています。
法定相続分に基づいて配偶者1/2、子供①1/4、子供②1/4で分けたケース等で、相続後、配偶者と子供がぎくしゃくし、結局配偶者は孤独感にさいなまれ、お金を散財し、資産がどんどん減っていくという事例を数多く見てきたからです。
やってはいけない相続税対策
親が良かれと思った相続税対策であっても、実は子供にとってためにならないことが良くあります。
名義預金: 名義預金とは、口座の名義だけ子供等になっているものの、実質は親等が管理している(印鑑も通帳も親が持っている)預金口座のことです。税務署は、これを親の財産として課税評価に参入するので節税にはなりません。ではどうすれば良いかというと、印鑑も通帳も子供が持っていて、子供が自由に使える口座にすれば良いのです。そうすれば、子供の口座として扱われて、相続税の節税になります。ただこれは、子供を甘やかしてしまうことになります。子供の自立を考えましょう。 名義保険: 親が子供の名義で保険料を払うものです。親が死んだ時にもらえる生命保険を、子供が支払っているというのは道徳的に不自然ではないでしょうか。 不動産: 子供が住宅を買う時に、親と共同購入することで節税する方法です。この方法であれば、親の支出額が親の持分になるので、贈与にはなりません。親が亡くなった時に、親の持分を子供が相続すれば良いのです。特に建物では相続税の節税効果が高く、建物を1億円で建てても評価額は2,000~3,000万円になります。つまり相続税は、1億円ではなく2,000~3,000万円に対する相当額で済むわけです。ただしこれも名義預金と同様、子供の自立を妨げる恐れがあります。(また、相続税評価額が大幅に下がるような節税対策(タワマン節税等)は、税務署に否認される可能性があります。)
住まない実家の問題
最近、特に都心部では2世代以上が同居するケースが少なくなっています。その場合、親が亡くなると、その家が空き家になります。誰も住まなくなった実家は日本中に増えてきており、社会的な問題にもなっています。人が住まなくなった家は手入れをしないと荒廃も進み、防犯面でも心配があります。しかし、思い出の詰まった家を売るのは決断が必要です。売るか、貸すか、空き家のままにするか、悩ましいところです。
税法上、相続が発生してから3年目の年末までに売却すれば、居住用の特例を使うことで譲渡所得3,000万円まで課税されません。この期間を過ぎると、譲渡益に対して20.315%が課税されます。でも実際に3年以内に売却する人はなかなかいません。例え母親が介護施設に入ったとしても、心情的に、いつでも戻れる場所を残しておきたいと考える人が多いからです。
親の認知症対策
認知症の問題は、相続を考える時に避けては通れません。認知症対策として、以下のようなものがあります。
家族信託: 家族信託とは、親が持っている預金口座の管理を子供に任せることです。口座の所有者が認知症などで判断能力がなくなると、銀行は口座を凍結します。そのままでは子供が親の預金を引き出せなくなり、親の資産で介護施設に入ることが出来なくなります。それを防ぐために、家族に預金を管理してもらうわけです。ただし手続きが煩雑なので、一定の初期費用がかかります。 銀行の代理人カード: 家族信託が面倒であれば、子供などの代理人が使える銀行のキャッシュカードを作成する手があります。作成できるのは、親と生計を同一にする親族に限られます。また、1日に引き落とせる限度額があるため、大きな支出には使えません。 任意後見制度: 認知症になった時に備え、「私が認知症になったら後見人に任せます」と契約する制度です。ただし、裁判所による管理がつきます。後見人は子供というケースがほとんどです。費用は毎月掛かり続けます。
遺言書の種類
遺言書を実際に残している人はごく一部です。税理士法人レガシィが扱った相続では、2021年で全体の11%ほどしか遺言書はありませんでした。様々理由はあるでしょうが、単に気が進まないためだと考えられます。ところで、遺言書といっても3種類あります。
自筆証書遺言: 本人が自筆で全文・日付・氏名を書いて捺印した遺言書です。メリットは大して費用が掛からないこと、遺言書の内容や遺言書自体の存在も秘密に出来ることです。デメリットは、記載に不備があって遺言書が無効になる恐れがあること、見つかりにくいところに保管しておくと、発見されずに終わってしまうことです。また最も心配なのが、他人による偽造・変造です。また開封する際には、家庭裁判所の検認の手続が必要です。 公正証書遺言: 公証人役場に出向いて、公証人のほかに2人以上の証人が立ち会って作成する遺言書です。最も安全で確実な遺言書であるとされています。メリットは、記載に不備のない遺言書が作成できること、そして滅失、隠匿、偽造等の恐れがないことです。デメリットは、内容を公証人や証人に言わなくてはならないことです。 秘密証書遺言: 自筆証書遺言の手軽さと公正証書遺言の安全・確実性を併せ持つ遺言書です。遺言書の本文は自筆である必要はなく、専門家による代筆やワープロ文書でも構いません。自筆で署名して捺印した上で、封印した遺言書を公証人役場に持参します。秘密証書遺言のメリットは、内容を秘密にしておける点です。内容を自分で書くために、気軽に取り掛かれます。デメリットは、自筆証書遺言と同じく執行時には家庭裁判所の検認の手続きが必要になることです。
ここ数年、レガシィが扱う相続で遺言書があった割合は10%前後で推移していますが、資産が5億円以上の相続に限ってみれば、2018~2020年では11~16%の範囲だったものが、2021年には25%へと急激に伸びています。コロナ禍と相まって、元気なうちに早めに遺言をを残さないといけないと考えたのかもしれません。
また、堅苦しい遺言書ではなく、もっと気軽に気持ちを伝えられるものを作るのも良いでしょう。正式な遺言書としては認められてはいませんが、たとえば、肉声を録音したり、動画を取るのも良いと思います。手紙だけだと伝えられない表現、言葉のニュアンス等も、様々な情報によって、親から子供たちへ、気持ちを伝えられるはずです。
参考文献:天野 隆著『相続格差 「お金」と「思い」のモメない引き継ぎ方』(発売日:2022年10月4日)
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