イギリスの経済学者J・M・ケインズは。資本主義が発展していけば、やがて労働時間は短くなると予言しました。2030年には、労働時間は週15時間になるかもしれず、そうなれば人々は時間を持て余すようになる。21世紀の最大の課題は、労働時間や労働環境ではなく、増えすぎた余暇をどうやり過ごすかだ、と。
たしかに、私たちの生活は様変わりしました。様々な技術革新が起き、生産力が上がり、飛躍的な経済成長が起きました。世界の総GDPの変化を示すグラフを見ると、1800年くらいまではほぼ平坦ですが、資本主義の発展に伴い技術革新が進み、特に第二次世界大戦以降はグラフが垂直方向に急伸。この30年でインターネットや携帯電話が普及し、ロボット開発やAI研究も進んでいます。
そうであるならば、ケインズが予言したように、先進国ではもはやさほど働かなくても暮らしていけそうなものですが、現実はそうなっていません。それどころか、私たちは「ロボットの脅威」に怯えながら益々労働に駆り立てられています。
2013年秋にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーンが発表した論文「雇用の未来」によると、技術革新によってアメリカの労働者の実に半数近くが10年から20年後には職を失うと記されています。失業して生活できないというディストピアです。工場労働者のみならず、会計士や銀行員のような高給取りもそのリストに記されていたので、衝撃が走りました。
資本主義は膨大な富をもたらしたように見えますが、私たちの生活にはむしろ余裕がなくなっています。その結果、私たちの欲求や感性はやせ細って貧しいものになっています。そして多くの労働は、つまらないものになっています。「誰でもできる仕事」を、私たちはクビにならないように低賃金で必死にやっています。へとへとになるまでつまらない仕事をして、帰宅してからは狭いアパートで夜遅くにコンビニの美味しくもないご飯をアルコールで流し込みながらYouTubeやTwitterを見る生活・・・。なぜそうなってしまったのでしょうか。
「より安く」を求める資本主義
資本家が生産力を上げたいのは、商品を「より安く」生産して、市場での競争に勝つためです。
例えば、資本家たちがシャツを手縫いで縫製し、それを10,000円で売っていたとします。ある日資本家のAさんがミシンを導入し、同じものを1,000円で売っても同じ利益が出るようになったとします。その際5,000円で売っても十分優位に立つことが出来るうえ、上乗せした利益4,000円(=5,000円‐1,000円)は、Aさんのもとに入ります。しかしそうなると、他の資本家たちは黙っていません。皆がミシンを導入し、1着5,000円よりさらに安く売ろうとするでしょう。最終的に皆が同じ技術水準に追い付けば、1着1,000円で売らなければならなくなります。
資本家であり続けるには、他者より安く効率よく生産して儲けなければなりません。だから商品を安くするために、とにかく生産力を上げようと、資本家たちは躍起になるのです。
こうした価格競争が社会全体に広がると、やがてあらゆるジャンルの商品が安く買えるようになります。しかしそれは、「労働者そのものを安くする(=賃金が下がる)」ことにもなります。なぜなら、賃金は労働者が生活していくのにいくら必要かで決まるからです。
「必要」な生活費には、食費、家賃、衣服、レジャー代、通信費、教育費、老後の蓄え等も含まれるでしょう。しかしそのような商品やサービスが安く買えるようになると、資本家は労働者に支払う賃金を下げることが出来ます。具体的には、非正規雇用等を増やしてコストカットできるようになります。
生産力を上げるのは資本家のためであり、「人々の労働からの解放」や「労働者の生活を豊かにすること」を目指すものではないので、労働者たちは益々過酷な労働へと追いつめられるようになっていくのです。
本来、人間の労働は構想と実行、精神的労働と肉体的労働が統一されています。例えば熟練の土鍋職人なら、長年の修練によって身に付けた技術や知識、洞察力や判断力を総動員して自分が作ろうと思った(=構想した)ものを、自らの手で作り出します。(=実行)しかしこうした状況は、資本家にとって不都合です。なぜなら、「俺には俺のやり方がある」と言って資本家のいうことに従わないからです。だから「構想」と「実行」を分離するのです。
「分業」が労働者を無力化する
ではどうやって「構想」と「実行」を分離するのでしょうか。
土鍋職人の例でいうと、1つの土鍋を作り上げるまでにどんな工程があるのか、各工程でどんな作業があるのか、どの道具を使ってどう進めるのか、何分かかるのか、ということを資本家が観察して、職人のやり方を画一的な単純作業へと分解していきます。それら1つ1つの単純作業をマニュアル化すれば、素人でも少しトレーニングすればできるようになります。そしてこれら素人集団が相手であれば、資本家は容易にコントロール出来るのです。
こうして資本家が構築した分業システムに組み込まれた労働者たちは、「構想」する機会が奪われます。決められた部分作業を毎日繰り返すだけなので知識や洞察力も身に付きません。豊かな経験を積んで技能を身に付けるという形で、自分の能力を開花させるということが出来ないのです。
何年働いても単純な作業しかできない労働者は、分業システムの中でしか働くことが出来ません。誰にでもできる単純作業なので、自分の代わりになる人は他にたくさんいます。仕事を失いたくなければ、夢をあきらめ、不平不満を言わず、ノルマを達成するべく黙々と働くしかない。そして益々資本家との主従関係が強化されていきます。
資本主義は、生産力を上げる中で、労働者の自立性も、人間らしい豊かな時間も容赦なく奪っていきます。だから、生産力がこれほど発展しても、資本主義が続く限り、ケインズが予見したような余暇社会は決して実現されないのです。
参考文献:斎藤 幸平著 『ゼロからの『資本論』』(発売日:2023年1月10日)
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