日本の企業が「人」に対してリスクを取らなくなってから久しい。例えば、中途採用という場面でも、履歴書という紙切れ1枚で説明がつくような表面的な事実 - 「どの学校を出て、どこの会社で、どんな部署にいたか」 - そんなことでほとんどが判断され、マッチングされています。
ほとんどの日本企業において、勇気を出して「未然」ながら「可能性がある」人を採用することには大変な勇気が必要となっています。なぜなら、差分を作ろうとするインセンティブが働かないので、その人事が当たった時の加点よりも、うまくいかなくなった時の減点が大きいと、無意識に判断するからです。そういう「創造性を妨げる組織の空気」に満ちている会社が、日本には大変多い。だから、人を選ぶ時も、「何となくセーフっぽい」方向へと決断が寄ってしまう傾向があります。この、人に関するリスク回避の姿勢こそが、日本社会の弱体化を招いているのではないでしょうか。
日本企業はなぜワイルドな採用が出来ないのか
例えばアイドルが好きすぎて独立起業し、同人誌の自費出版を多数手がけてきた人が、ある出版社の中途採用に応募してきたらどうでしょうか。出版社での勤務経験はないが、やたらと意欲はある。その話しぶりや佇まいから、「何となく編集者にとって必要な資質や能力、可能性を持っているかもしれない」と面接担当者は感じたとします。
しかしほとんどの企業では、こうした「未然」な人材は採らないでしょう。なぜなら、自分がどうしてこのアイドル好きを「編集者としてイケる」と考えたのか、上司らに説明する「言葉」や「ロジック」を持ちえていないからです。つまり、将来の可能性を、ロクに検討もしないまま捨てるということです。これは、会社にとっても、もちろん個人にとっても大きな損失です。
本来、組織はもっとダイナミックで多様性に満ちたものだと思います。出来上がっているけれども枯れ始めた人材より、能力や経験は未然ながら、意欲溢れる異質な存在の獲得こそが、企業という人の集団をホットにし、強くするのではないでしょうか。
猛烈な競争社会アメリカで起きていること
アメリカのエリートビジネスパーソンは、ある意味では、全員がプロ契約のスポーツ選手のような世界にいます。そこに広がる風景は、実は日本以上に強烈な学歴・職歴社会です。そのため、エスタブリッシュされた会社においては、アメリカにおいても大胆で意外性のある採用はなかなか行われず、日本とそれほど変わりません。むしろ、日本以上にシビアな競争社会なので、概ね手堅い登用や採用が行われています。
しかし、家族経営の中小企業や、無名のスタートアップ企業のようなところでは、かなりワイルドな採用が行われています。まともな面接なしで採用することもあります。それは、「こういう採用をしたら話題になるかも」「一発当てたら自分のボーナスが増えるかも」と言った類の、加点方向の組織の空気があるからです。要は日本に比べて、当たった時のインセンティブがはるかに大きい社会なのです。
見切る力
日本は、この20年程、世界をあっと言わせる製品やサービスを生み出せなくなりました。結果、国全体の生産性は下がり、世界経済から置いてきぼりを食らっています。
面白いのがイタリアです。イタリアの労働生産性は、日本の1.3倍から1.5倍あります。しかも、人口当たりの働いている人の割合は38%しかなく、日本の50%に比べたら3/4程度なので、1人あたりの差はさらに大きい。この違いはどこにあるのでしょうか。
それは「見切る力」が関係してくると思います。頃合いの見極めと、出来ないこと、やらないことの見切りが早いということです。要するにダラダラやらず、細かいところまでこだわらない、でも最終的にはつじつまが合っているということです。
日本の場合は、同じように「何となく参加者の意見や意思が合意形成されている空気」になった場合でも、なかなか「それでいこう」と言い出しにくい空気が生まれがちです。結論を出すこと留保するようなケースも良くあります。こうした「決める力」の違いが、物事の判断や人の起用・登用を「見切る」速さの違いにつながり、それが日本全体の生産性の低さにつながっているのではないでしょうか。
育てることは大事だけど、選ぶことはもっと大事
新卒一括採用はやらずに、第二新卒や若手の中途社員を、お金と時間をかけて徹底的に探し、選ぶことで有名だった社長がいます。曰く、「ちゃんとした素材を選べば、あとは放っておいても伸びる。そっちの方がコスパ良いんだよね。」
日本企業は伝統的に育成に時間と手間をかけてきました。この「育成至上主義」は、かつての日本では通用しました。莫大な労力をかけて育てても、終身雇用で最後まで稼ぎ続けてくれれば、元が取れたからです。しかし、今の時代には通用しません。
終身雇用が崩壊したこともありますが、技術の進化やトレンドの動きが速すぎて、知識が身についたころには時代遅れということがあり得るからです。それよりも、その時々に必要な人材を、的確に選んで採用した方が圧倒的に合理的です。あるいは、「何も言われなくても自ら学んで育つような人材」をよくよく選別して採用する方が効率的なのです。人を選ぶことから目を背けてはいけません。
参考文献:小野 壮彦 著『経営×人材の超プロが教える 人を選ぶ技術』(発売日:2022年11月21日)
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