誰しもお金との関係で悩んでいるし、とんでもなく間違ったマネー感覚を持っている人達も、あなたが思っているよりはずっと多い。また、お金の問題の原因は複雑な資産管理が分かっていないことにあると考えて、たくさん情報を集め、予算や投資のコツや戦略をもっと知れば解決すると誤解している人も多い。
一部の人達にはそれでいいかもしれません。しかし大半の人達にとっては、情報が足りないことが問題なのではありません。どうすべきかは分かっているのにその通りに行動出来ないとしたら、問題は知識の不足ではないのです。
お金に関わる慢性的で自己破壊的な困った行動は、全て、無意識の心理的な力によって起こっています。
だからお金の問題を解決するには、その自己破壊的、自滅的な行動の根本にある原因を探る必要があります。その後で、自分とお金の関係を正直に認めて、経済生活をコントロールし、変えていく必要があります。
お金と健全な関係を保てない自分を、恥ずかしいと思う必要はありません。自由への第一歩は、「お金に関する問題行動は、自分が悪人だとかダメな人間だとか、どこかが壊れているから起こるのではない」と、気づくことです。心を変えれば、行動を変えることは出来ます。
お金は最大のストレス要因
健全な経済生活の基本はそう複雑ではありません。
お金を貯めて、未来のために投資する。暮らしを楽しみ、目標を実現するためにそれなりの額のお金を使うが、稼ぐ以上には支出しない。うますぎる投資話には気をつける。・・・とてもシンプルです。それならなぜ、このルール通りに出来ない人が多いのでしょうか。
現在、色々な調査を見ても、私たちの生活の最大のストレス要因はお金だ、ということで一致しています。2008年10月、アメリカ心理学会がストレスに関する年次調査を発表しましたが、この調査で分かったアメリカ人のストレスの最大原因、なんと80%までが、お金でした。またこの傾向は、時代を通じて、好景気の時も不況の時も変わりません。
一方で、お金が多ければ自動的に問題が解決したりストレスがなくなるわけではありません。実際多くの調査では、平均以上の収入があるアメリカ人の場合、お金と幸福に相関関係は見られません。
「年収5万ドルのアメリカ人は年収1万ドルのアメリカ人よりもずっと幸せだが、年収が500万ドルのアメリカ人が10万ドルのアメリカ人よりもずっと幸せかと言えば、そうとは限らない」
(by ダニエル・ギルバート『幸せはいつもちょっと先にある-期待と妄想の心理学』)
私たちの暮らしの最大のストレス要因はお金ですが、お金を増やしても問題は解決しないのなら、解決策はもっとたくさんのお金を稼ぐことではなく、お金ともっと健全な良い関係を築くことなのです。
おいてきぼりの恐怖で判断を誤る
経済的な決断を動かしているのは欲だ、と一般的に信じられています。しかし実際に経済的な行動を動かしているのは、「おいてきぼりにされることへの恐怖」でしょう。
人間は社会的動物であり、何千年もの間、私たちの生存は群れの一員でいられるかどうかに左右されました。群れから放り出されることは孤立を意味し、孤立は死を意味しました。
私たちは他者とつながるように出来ています。それが原始的な本能で、今でも最も強力な衝動の1つであることに変わりありません。Facebook、Linkedin、Twitter、どれも原始的な群衆本能の現代版であり、これらの仕組みが成功していることは、群れに所属したいという力がどれほど強いかを証明しています。その力は作動すると主導権を握り、理性など吹き飛ばしてしまいます。
私たちの「群れとともにいたい」という欲望のせいで、「経済的な快適ゾーン」、つまり自分が快適に感じる社会経済的な群れから離れられません。自分の経済的な快適ゾーンから踏み出す意志を持ち、群れから離れた別のテリトリーに入らなければ、私たちはいつまでも行き止まりの、あるいは過去に引き戻されるような経済的行動を無意識のうちに取り続けるでしょう。
私たちはたいてい、生まれや育ちによって気づけば特定の経済的な快適ゾーンにいます。もともとは自分が選んだのではありませんが、多くの人達はそれがすっかり自分の一部になっていることに気づきません。
それぞれの経済的領域には、それぞれ価値観や習慣があり、お金に関わる色々な問題にもそれぞれの回答があります。借金してもいいか、いいとすればどんな場合か、自分のお金の最善の使い道は何か、自分の財産や買い物を見せびらかしても構わないか、等々。要するに、金持ちと貧乏人ではお金に関する考え方はまるで違うし、考え方が変わらなければ、片方から別のグループへと移動するのは難しいということです。
私たちは、経済的な地位が経済的な快適ゾーンと一致していれば、全ては順調だと感じていられます。しかし、所得レベルや生活水準が大きく上昇したり下がったりすると、快適ゾーンが成功の邪魔になったり、逆に有利に働くことになります。
例えば、経済的な快適ゾーンの上限を突き抜けた場合、落ち着かない不安な気持ちになるでしょう。自分ではその不安にも、不安の理由にも気付かないかもしれません。なぜなら、財産が増えるのは良いことのはずだからです。しかし現実は、財産が減った時だけでなく、財産が増えたせいでストレスを感じることも珍しくありません。慣れない経済状態に置かれた、つまり「群れから離れた」という気分になるからです。
平衡を取り戻そうという自動的な衝動は、逆に快適ゾーンの下限に近づいた時にも起こります。成功したビジネス・オーナーが事業に失敗しても、また数年後には別の事業で成功しているというケースが良くあるのは、経済的な快適ゾーンより下に落ちると、自分のスキルやリソースをすべて使って元のレベルに戻ろうとするからです。
ですので、今より高い所得レベルを実現しようと思うなら、あるいはもっと低いレベルでも快適でいようと思うなら、自分の経済的な快適ゾーンから踏み出すことについて、じっくりと考えなくてはなりません。柔軟な思考こそ、経済的、心理的な健全さを実現し維持するために欠かせないのです。
マネーのトラウマ
私たちが過ちから学べないでいる時、お金に関してやるべきことが出来ないとき、いけないと分かっていても止められないとき、変わろうと思っても変われないとき、状況に不似合いな激しい感情的反応をしてしまうとき・・・そのようなときは、おそらく未解決のトラウマがあるはずです。そして多くの場合、そのトラウマの根は家族の経験にあります。
例えば、社会経済的に低い階級で育った人たちは、豊かに育った人たちとは全く違うシナリオを作ります。よくあるのは、「家族の誰かが成功したら、残りを助けて引き上げる義務がある」「何かを手に入れたら、奪われないうちに使ってしまわなくてはならない」「豊かな人たちは我々のような人間を踏み台にしている」等です。こういうシナリオは、人生なんて希望が持てないものだとか、自分で人生を何とかしようと思っても無理だし無駄だという思いや、宿命的な欠乏感を助長します。このようなシナリオを持っている人は、人生の大きな出来事を決定するのは自分より大きな何者か、政府、上司、宇宙・・・だと信じています。そのために、入ってくるお金は出来るだけうまく使おうと考えます。
他にも、経済的な安定を提供するのは男の仕事だとか、「白馬に乗った王子様」がいつか現れるというマネーのシナリオを持っている人もいます。このようなシナリオを抱く女性は、誰かが現れて自分をさらっていき、輝かしい新しい人生が始まる、と期待して待つことになります。それで結婚前も結婚後も、経済的に人に依存してしまいます。逆に男性は、「男性が一家の稼ぎ手にならなければいけない」「家族の面倒も見られないのはダメな男だ」「お金だけが人間の価値の基準だ」という考え方のせいで、職場におけるアイデンティティや所得を過剰に重視してしまうことがあります。男性も女性と同じように、心身の健康のためには親密な人間関係を必要とするのに、全エネルギーをキャリアに注ぎ込んでしまえば、他者と豊かなつながりを築くことは出来なくなります。
このようなマネーのシナリオは、検討して明確にし、問い直さない限り、決して変化しません。経済的な可能性を最大限に発揮して生きられるかどうかは、シナリオがそっと心に忍び込んできたときに、それに気づくことが出来るかどうかに左右されます。自己破壊的な行動を変えるための第一歩は、思考を変えることにあります。
参考文献:ブラッド・クロンツ著『マネーセンス 人生で一番大切なことを教えてくれる、「富」へ導くお金のカルテ11』(発売日:2023年7月21日)
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