近年、20~30代を中心に会社からの給料だけでなく、投資や副業などで更なる収入の柱を作る動きが広がりを見せています。その要因として、一般NISA・つみたてNISAの導入を始めとした投資環境の工場や、リーマンショック以降の株価上昇傾向などの環境要因が専門家から指摘されていますが、それだけではありません。
株や不動産に関する様々な投資セミナーの主催者に話を聞くと、ここ数年、将来の経済的な不安から投資を始める若い世代が増加していると言います。また投資セミナー参加者への取材を通じて見えるのは、「正社員として働き続けた先に豊かになる」という安定した将来設計が描けなくなる中で、それぞれの理想とする将来像とのギャップに悩みながらもがく若者世代の姿でした。
資産形成は続けるが、豊かな生活は目指さない
29歳の男性、青木さんは、食品加工会社の正社員として働く傍ら、2年前から株式投資を始め、既に1,000万円程の資産を築いていると言います。
「毎月20万円の収入があればいいんです、最低限の生活さえできれば。自分の収入で車を買ったり、家を買ったりすることは現実的には無理だと思うので。今はそれよりも、サラリーマンを辞めて、自分の好きな事だけして生きていくことを目指しています」
青木さんの手取りは月18万円。営業職ですが、成果を上げても、入社以来その額はほとんど変わっていません。そこで、会社で努力して給料を上げようとすることを辞め、株式投資とブログを始めました。始めてから1年で、株は190万円の利益、ブログの広告収入では毎月1万円程の収入を得られるようになりました。
青木さんは現在、投資とブログで、給料とは別に毎月20万円の収入を安定的に得ることを目標にし、それを達成した際には会社を退職し、趣味のダーツに打ち込む日々を送りたいと考えています。そのために1円でも多くの資金を投資に回して利益を多く得るため、日々の支出は可能な限り圧縮。また、ブログの収入を増やすために毎朝5時に起きてブログ執筆に励み、アフター5も、休日の時間もほとんどをブログ執筆に費やしています。そのストイックな生活の原動力となっているのが、「仕事から解放されること」であり、「豊かな生活を実現すること」ではありません。
「普通に結婚して、マイホームを持っていて、車も持っていて、子供もいて。中流、まあ自分も、そういう風になっていくんだろうなと(昔は)思っていたんですけど。今の会社入って、(自分の父親が)結構お金を持っている方なんだ、というのを気付いた感じがして。今、本当、(自分が実現するのは)無理だなって思っているんで。やっぱり自分の生活水準にあっていない車とか、家とか、なかなか買えないですね。達成できそうなビジョンが見えない」
キャリアアップの道が絶たれた非正規社員
バブルが崩壊した1990年代以降、日本経済は長い下り坂を下るような低迷を続けてきました。とりわけ深刻な影響が及んでいるのが、現役世代の多くを占める、いわゆる「就職氷河期世代」です。概ね1993年~2004年に学校卒業期を迎えた者を指し、2003年4月時点で、大卒で概ね41~52歳、高卒で概ね37~48歳になります。数多くの人達が長年にわたりその影響に苦しみ続けています。
42歳で賃貸住宅に1人暮らしする小野さんもその一人。現在、派遣社員としておよそ470万円の年収を得ています。新卒で入社したのは金型製造の中小企業。上司のパワハラで1年余りで退職することとなり、その後は機械設計補助業務を中心に、派遣社員として8社を転々とし、リーマンショックの時は、いわゆる「派遣切り」も経験しました。
小野さんが頭を悩まし続けてきたのは、正社員ではないために、人材育成や能力開発の機会を十分に得ることが出来ず、キャリアアップの道を描くことが出来ないという現実です。派遣では人をまとめて作り上げていく仕事の経験を積めず、どうしても必要なノウハウが欠けてしまいます。現在も、機械設計関連のマネジメント職へのキャリアアップを目指していますが、働きながら受けられる訓練も限定されており、自立したキャリアを目指そうと努力しようにも、それに報いる仕組みがありません。
日本では、いまや正社員ではない非正規労働者が全労働者の4割に迫ろうとしています。企業の多くが、1度採用した正社員の生活を最期まで保障するという「終身雇用」を維持しながら人件費を削減するために、使い勝手の良い非正規労働者を拡大してきました。残念ながら、多くの企業は、非正規労働者のスキルアップを十分に測る余力を持っておらず、当然のごとく賃金は上がりません。政府系シンクタンクによると、2020年時点の男性の生涯未婚率は28.3%、この30年間で5倍も増えています。企業からも、行政からも、必要な支えを得られなかった、現役世代の現実です。
参考文献:NHKスペシャル取材班『中流危機』(発売日:2023年8月23日)
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