ジャン・マリー・エベヤールは、ファースト・イーグル・グローバル・ファンドの運用者で、資産運用業界のプロから非常に尊敬されている人物の1人。調査会社であるモーニングスターより、2001年の国際株式部門のファンド・マネージャー・オブ・ザ・イヤーに選出され、2003年には出資者の最善の利益に合致する「長期にわたる傑出したパフォーマンス」と「大多数と意見を異にする勇気」が称えられ、「生涯功労賞」を授与された。
エベヤールの投資戦略は、ベンジャミン・グレアム著『賢明なる投資家』から得た、極めて重要な知見に基づいている。
「未来は何が起こるか分からないのだから、リスクは最小化しておかなければならない」
『賢明なる投資家』では、生き残ることを最優先する投資の信条を、「安全域(margin of safety)」と表現している。安全域は、ある株式や債券を「評価価値」より「有利に」安く買うことで得られる。割安な資産を買えば、「損をするより儲ける可能性の方が高い」ということだ。
エベヤールの苦難と逆転
エベヤールの苦難は1997年に始まった。それまでの18年間、彼は災難を回避し、市場を上回る成績を上げ続けた。最悪だった1990年でさえも、彼が運用するファンドはわずか1.3%の損失を出しただけだった。しかし彼が築いた金融の砦の脅威となったのは、市場の暴落ではなく、投機の熱狂だった。
1997年1月から2000年3月にかけて、インターネットや通信関連銘柄に熱に浮かされたような買いが入り、IT関連銘柄が多いナスダック総合株価指数は290%上昇した。例えば、ソーシャルメディアサイトを運営するザ・グローブ・ドットコムは1998年にナスダックに上場し、上場初日の取引で株価が606%高騰したが、2001年には1ドルを割り込んで上場廃止に追い込まれた。他にもネットワーク機器大手のシスコシステムズは、500日足らずで時価総額が1,000億ドルから5,000億ドルへ急騰し、少しの間だけ世界最大の企業となった。その後バブルが弾け、株価は86%暴落した。
慎重さが習い性のエベヤールは、このジェットコースターに乗ろうとはせず、ハイテク関連株を一つも持たない極端なポジションをとった。ファンドマネージャーが株価指数とまるで連動しない運用をするのは大変な勇気がいる。もし判断が間違っていたら、それまで築いてきたキャリアすべてを危険にさらすからだ。「キャリアを危うくする」恐怖を考えるために、多くのファンドはインデックスにしがみつく。目を見張るようなリターンは望めなくても、飛び切りの不幸に会わなくて済むからだ。
エベヤールは楽な道をとらなかった。その結果、ハイテク関連株が上がり放題だった3年もの間、彼は市場に大差をつけられる格好になった。1998年だけでも、ナスダックは39.6%上がった。その間、彼の運用するファンドは0.3%下がった。翌年も、ナスダックは85.6%上げる中、彼のファンドは19.6%しか上がらなかった。
この流れが、2000年3月10日、ITバブルの破綻で一変する。市場に合理性が戻ると、エベヤールのポートフォリオに組み込まれていたバーゲン価格の各銘柄は驚くほどの上昇を見せた。彼のファンドは、ナスダックを2000年に49ポイント、2001年に31ポイント、2002年にも42ポイント上回り、大勝した。
「いま落ちぶれている者はやがてよみがえり、いま栄光のなかにいる者はやがて落ちる」
(by 古代ローマの詩人 ホラティウス)
何十年にもわたり投資で成功し続けることは難しい。
エベヤールは、企業の本質的価値を重視するグレアムの法則に出会い、分析と論理に基づく思考に長けていた。どんな状況に置かれても、この法則に忠実に従う規律を持ち、過大評価された株に惑わされなかった。同僚からの蔑視に耐え、自分を疑いそうになる気持ちを抑えつける胆力があった。つまり彼は、傑出した成果を長期間出せる知力と性格を兼ね備えた、ごく限られた人たちの1人だったのだ。
「未来は『本質的に不確実』なのだから、投資家は長く影響が残るようなひどい損失を被らないように心がけ、『世界のどんな事態にも耐えうるポートフォリオ』を構築することを重視すべきだ。」
屈せずに立ち上がるための5つの法則
投資家としてどのように不屈の力を鍛えるか、グレアムやカーン、バフェット、エベヤール、マクレナンから抽出した、根本的な指針が5つある。
① 不確実性を尊重する 無秩序や混沌、乱高下や不意打ちは、社会構造の欠陥ではなく仕様である。これらの混乱がいつ、何によって、どんな性質をもって訪れるかは予測できない。だがそれを和らげるために、私たちは自分のもろい個所を探り出し、意識的に排除して備えておくべきだ。 ② 借金をなくすか出来るだけ減らし、レバレッジを避け、過大な出費に注意することが肝要 仮に全財産を一つの銀行、一つの国、一つの為替等に集中させていたら、弾が込められた銃で遊んでいるようなものだ。運が良ければ、短期的には何も起こらない。だが時間が経つほど、無防備さが不足の時代にさらされる可能性が高まっていく。 ③ 短期的な利益や、インデックスを上回る成績にこだわるより、衝撃に耐えて破滅を避け、ゲームにい続けることをより重視すべき アップサイドはある程度放っておいても、経済が成長し、生産性が上がり、人口が増加すれば、後は複利が魔法をかけてくれる。たが、ダウンサイドを無視するわけにはいかない。 ④ 自信過剰と油断に用心する 例えば、直近の過去が未来もそのまま続くと信じ込むことを、自分でもしがちだということを忘れてはいけない。 ⑤ 情報を持った現実主義者として、リスクにさらされていることを強く意識し、常に安全域を確保する 不屈の投資家は、そうでない投資家が動揺しているのを後目に、絶好の機会をつかみ取りに行く強さと自信、未来への楽観を持っている。守りは突如として攻めに代わる。混乱は利益をもたらすのだ。
参考文献:ウィリアム・グリーン著『一流投資家が人生で一番大切にしていること』(発売日:2023年6月20日)
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