中国不動産バブルの崩壊
2023年8月17日、中国の不動産大手である恒大集団は、ニューヨークで破産を申請、マンハッタン地区連、破産裁判所に連邦破産法15条の適用を求めました。同法が適用されれば、米国内の資産の強制的な差し押さえなどを回避でき、同時に米国外では再建計画を進めることになります。
2022年3月21日には株式の売買が停止、2023年7月17日には会計帳簿を公開し、2021年と2022年の2年間で赤字は8,120億元(約16兆2,000億円)を超えたことが明らかにされていました。
恒大集団の破産申請の影響は大きく、業界最大手のカントリーガーデン含む他の不動産大手の連鎖的な破綻を招くのは確実な情勢です。恒大集団の負債額だけでも48兆円あり、再建は容易ではありません。
不動産大手の危機は、地方政府、保険、年金、信託、銀行へと波及し始めています。地方政府の「隠れ債務問題」も表に出てきており、およそ1,900兆円の簿外債務が大きな問題になっています。この時限爆弾をリセットすることは、もはや不可能な段階になっています。
高学歴でも職に就けない
中国の不動産バブルの崩壊は、実体経済にも大きな影響を与えています。鉄鋼やコンクリートを始めとした資材関連産業、住宅設備産業などに直接的な影響を与えることは必至で、失業者の増加と実体経済のさらなる悪化を招きます。
中国の最大の問題は、政治面にしても経済面にしても都合の悪い事実は政府が覆い隠すので、問題の大きさや事態の深刻さが正確に把握できない点にあります。特に若年層失業率は、公表すら取りやめられました。
中国の若者の失業率は、現在は20%程度の高水準を続けていると言われています。公表の取りやめは、その実態を隠す目的であることは間違いありません。以前から若年層の完全失業率(1週間に1時間でも働けば除外)は20%を超えており、2023年6月の公式統計では過去最高の21.3%にもなっていました。
もっとも、これは就職活動をしている人を対象にした数字に過ぎません。北京大学の趙丹副教授は、就職活動をせず親の扶養の下にある若者1,600万人を含めれば、若年層失業率は46.5%に達する可能性があると指摘します。
すでに現場ではホワイトカラーの賃下げが本格化したとされます。若年層の実質失業率46%という状態では当たり前と言えますが、「高学歴人材」すら余剰人員となっています。
「軽工業」にまで先祖返りするしかない
これまで中国の内需を支えてきたのは、まぎれもなく不動産セクターでした。都市住民の4人に1人が建設不動産関連の労働者といういびつな構造のせいで、今後は、代金や賃金の不払いにより、個人事業主などの破産も続出すると思われます。
中国政府は景気対策の一環として「軽工業の成長加速」を謳っていますが、このジャンルは賃金の上昇に伴い、インドやバングラディッシュ、ベトナム等に移り、既に中国から離脱した産業です。再び競争力を取り戻すには、これらの国々よりもローコストであることが大前提となります。そのために不可避となるのが「賃下げ」ですが、果たして可能なのでしょうか。
例えば自動車産業の場合、日本では部品メーカーも含め長い歴史と経験で、精密加工などの特殊技術を有し、産業基盤が確立されています。しかし中国では、そうした蓄積した技術がありません。なぜなら、先端技術産業のほとんどを、他国から輸入(実態は略奪のようなもの)してきたからです。つまり基礎研究を行う土台がなく、先端産業に至るまでの発展過程を経験していません。そのため自動車産業でいうと、ゴーカートのように簡単に作れるEVに活路を見出すしかありません。しかしEVは簡単に異業種が参入できるコモディティであり家電製品の延長ですので、過当競争と質の悪化という負の連鎖に陥っていくことになるでしょう。
工業製品で中国独自の技術でしか作れないオンリーチャイナは見当たりません。部品や素材レベルでも同じです。そのため景気刺激、経済成長のために「軽工業」にまで先祖返りするしかなくなったのです。
サービス業など第三次産業に関しても不動産収益への依存傾向が見られ、不動産市場が回復しない限り、縮小が続くことになります。頼みの不動産のバブルが弾け、恒大集団が破産申請。中国経済はもはや「詰み」の状況と言えるでしょう。
インドが世界の半導体工場となる
中国の不動産バブルが崩壊した今、遠からずインドが世界経済のけん引役に名乗りを上げるという予測が、衆目の一致するところとなっています。既に人口も14億人を超え、世界1になっています。
2023年6月22日、バイデン大統領はインドのモディ首相を国賓として迎え、ホワイトハウスで首脳会談を行いました。この席でバイデン大統領は、米印間は21世紀で最も重要な二国間関係の1つとして、貧困の撲滅、気候変動対策、食料・エネルギー問題など、様々な分野で協力していることを強調しました。
米国とインドは以前から協力関係を築いています。半導体分野や宇宙事業など先端技術分野の産学官連携だけでなく、中国に代わる世界の向上の地位を狙うインドとの産業界の協力も深まっています。
もともと、米国のIT系技術者の多くがインド系であり、インテルなど多くのIT起業がインドに研究所を持ちます。それはインドが理系教育、スーパーエリート教育を行い優秀な学生を米国などに送り込んできた成果と言えます。
アメリカの理工学系にはインド人が大量にいて、CPUの開発部門もインド人が多い。英語という共通言語を持つ点も両国の人的交流をよりスムーズにしています。
従って、まだまだ製造技術は貧弱であるものの、優秀なプログラマーを大量に抱えており、今後の世界の中での雄となるポテンシャルが非常に高いのです。
参考文献:渡邉 哲也著『世界と日本経済大予測2024-25』(発売日:2023年11月2日)
Amazon
にほんブログ村