2024年の相場がスタートしてから2週間で日経平均は30年ぶりに36,000円の大台に乗りました。なぜこのタイミングで日本株が大きく買われたのでしょうか。
もちろん新NISAの影響はあります。しかし、より根本的な変化があります。それが、日本人のマインドの変化です。日銀が2024年1月17日に発表した生活意識調査によると、来年の物価について「上がる」との回答をした人の割合が79.3%となり、5年後の物価についても大半の人は上がると答えています。これはかなり衝撃的な結果で、日本人のマインドが明確にデフレからインフレに代わっていることを示しています。
以前「老後2,000万円問題」が話題になりました。老後2,000万円問題を解決するには、早い段階から資産運用をしてお金を増やしていくべきという論調が広がったわけです。しかし、金融庁が最近出した報告書でこの数字を2,000万円から3,000万円に上方修正しました。その理由は、インフレの長期化を織り込んで計算したためだと思われます。この数字は、時間が経つにつれてさらに上方修正されると思ってください。インフレの長期化というリスクを考えると資産運用の知識はもはや趣味レベルの話ではなく、基礎教育の一貫にすべきではないでしょうか。
コロナ後に出現した新たな経済パラダイム
依然として私たちは、コロナパンデミックによって生まれた経済のパラダイムの中にいます。
コロナパンデミック当時、世界各国は前代未聞の財政出動を一気に行いました。それに加え、主要国の中央銀行は大々的な「金融緩和」に踏み切りました。これにより、それまで微妙なバランスをキープしていた金融システムが破壊され、食料価格を中心とした物価高騰、株高、不動産高に代表される資産バブルを形成する等、世界的なインフレに発展していきました。
インフレを本気で退治しようとすると、さまざまな資産価格がクラッシュしたり、景気が大恐慌並みに悪くなる可能性があります。そのため、インフレターゲットを2%から、3%程に上方修正する可能性があります。そうすると結局、マイルドなインフレが今後続くことになるので、世界が変わってくるのは間違いありません。
そこには、これまで世界の「デフレ」をつくってきた中国が大きく絡んできます。今、中国と米国が喧嘩をしていて、西側諸国が中国から徐々にサプライチェーンを移動しようとした場合、当面のコスト高を招き、インフレを助長させる1つの要因になります。
中国の不動産バブル崩壊による負債総額は最低1,000兆円
中国では、不動産バブルの崩壊も起きています。
1980年代から外資企業が、無尽蔵と言われる労働力を目当てに中国各地になだれ込んできました。外資が工場を建てる際にはまず、広大な土地を手当てしなければなりません。中国の中央政府から土地の権限を移管された地方政府は、日米欧の先進国企業に対し、土地の「使用権」契約を締結し、膨大な利益を得ていました。ところが2010年代後半になると、それが一巡し、外資企業にとって魅力的な土地がなくなってしまいました。つまり、地方政府にとって収入の柱であった資源が、枯渇したということです。
日本でも不動産バブル崩壊はおきました(1990年から2005年までの15年間における不良債権処理はトータル100兆円かかったと言われています)が、中国はそれと比較にならないぐらい大きい。ディベロッパー大手2社、恒大集団、碧桂園の2023年11月時点での負債総額だけで75兆円にもなり、中国の不動産業トータルでどれぐらいの不動債権処理額になるかはブラックボックスです。IMFの推計では、処理額2,000兆円とされています。
自転車操業だった中国の不動産ディベロッパー
不動産業界が悲惨な状況にある中、中国経済はほぼデフレ下にあります。
中国はこれまで猛烈にレバレッジ(借金)を膨らませてきました。これが全部焦げ付いてくるので、バランスシート不況に陥る可能性があります。銀行はお金を貸さなくなり、個人はお金を使わず、どちらかというと、皆自分の借金を先に返そうとします。まさに日本で起きた「失われた30年」の再来です。
そして中国の場合、誰がどんな金融商品をどこまで持っているか分からない、下が見えない穴のようにブラックボックス化しているという問題があります。
中国の不動産ディベロッパーは、ある不動産開発プロジェクトを立ち上げた場合、建設に着手していない段階で、デポジットとして何%かを購入希望者から払い込ませます。そこで得たお金は、当該プロジェクトではなく、先行して建設が続いている他のプロジェクトに投入します。それで先行物件を完成させ売却を終え、また新たなプロジェクトを立ち上げて、デポジットを新たな購入希望者から払い込ませる・・・ということを繰り返してきました。つまり自転車操業です。そのため、ひとたびプロジェクトの進行が止まると、資金繰りに行き詰まり、次々にデフォルトを起こすことになります。
他に、中国の不動産ディベロッパーに資金を供給してきた、かなり大きな投資ファンドもごろごろありますので、彼らの経営も危ういでしょう。
鎖国化する中国の事情
今習近平国家主席が鎖国に踏み込もうとしています。
エクスパットと言われている外国人駐在員も、中国からどんどん離れていっています。最大の理由は、人種差別がひどく、彼らが生活しにくくなっているからです。人種差別には、住居からの強制退去に始まり、商店や飲食店の利用拒否、バスやタクシーの乗車拒否などがあります。また学校教育のカリキュラムも、「習近平思想」が必修化され、英語は教育から外されました。
こうした体制は、当然ながら中国経済全体にとっては逆効果になります。しかし、経済のパイが縮小しても、その中で中国政府、共産党が直接もしくは間接的にコントロールしている企業の数が増えていけば、彼らにとっては共産党の支配が揺るがないというメリットにありつけます。
国の景気が後退しようが、経済が縮小しようが、巨大な民間企業がつぶれようが、中国共産党一党独裁が今後も続くのであれば、問題ないのです。国民の利益、国民の発展がどうかなどは、さほど気にしていません。
共産党にジャック・マーも潰された
ジャック・マーが創業したEコマース最大手のアリババが独占禁止法違反で制裁金182億元(約3,000奥円)を科されたのは2021年の事でした。これは明らかに、民間企業がでしゃばるとこういう目に遭うぞという「見せしめ」で、いわゆる「国進民退」(国有企業が発展し、民間企業は衰退する)の象徴のような事象でした。その後、「共同富裕」の旗頭の下、様々な民間企業の経営者が標的にされ、大金をむしり取られてきたという経緯があります。
一世を風靡し、2019年の米国株式市場で時価総額4,795億ドル、堂々の代7位にランクインした元アリババのオーナーに対する中国政府の振る舞いに、全世界の投資家は凍り付きました。テンセント然りです。もはや中国への投資はあり得ない。そのオルタナティブとしての日本への期待は、想像以上に大きいと思います。
参考文献:エミン・ユルマズ、大橋 ひろこ著『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術 』(発売日:2024年2月21日)
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