2015年に若年雇用促進法が施行され、採用活動の際に自社の残業時間平均や有給休暇取得率、早期離職率などを公表することが努力義務となりました。2019年には働き方改革関連法により、労働時間の上限規制が大企業を対象に施行されました。更に2020年には、パワハラ防止法が大企業で施行されました。このように、2010年代中盤以降、職場運営にかかる法律が次々と変わりました。
結果として、労働時間は減少し、有給休暇取得率も上昇し、職場環境が好転し、若手の職場への認識も好転しています。ただ、「労働環境が良くなって、若手も会社のことが好きでハッピー」では終わらないことは、強く感じているのではないでしょうか。若手の離職率を10年スパンで見ると、2009年卒の20.5%から、2019年卒の25.3%へ、上昇しています。若手社員たちは、自らの今置かれた状況をどう認識しているのでしょうか。
若手を育成する力の低下
若手の能力や期待に対して仕事の負荷が著しく低い職場を「ゆるい職場」、職場環境が大きく変わったことによる若手の職業生活における不安の高まりを「キャリア不安」と呼びます。
10年程前までの日本においては、会社、特に大きな会社に入れば職業人生の安心・安全を会社がある程度保証してくれるという認識が一般的だったように思います。しかし、現代の大手企業に入社する新入社員のうち、その会社に定年まで勤めるイメージがあるのは実に20%程度に過ぎないという調査もあります。「自分もいつかは転職するのだ」という気持ちの中で、「この仕事を続けて本当に大丈夫なのか?」と感じることが、キャリア不安の根っこにあります。実際に若手社員から、「居心地は良いが、このままだと社外で通用する人間になるために何年かかるのかと焦る。何か自分で始めたりしないと、周りと差がつくばかりなのではないか、このままではまずいと感じている」と、これに類する声を聞くことは多い。
こうした状況を裏打ちするように、大手企業の育成機会が縮小されている動向も示唆されています。業務から離れた知識や経験習得の機会であるOff-JTも、職場での実践を通じて業務知識を身に付けるOJTも、減少しています。働き方改革以降の管理職層の多忙さは指摘されている通り、もはや職場の中で育成するような余裕はないのかもしれません。
若手を活かす職場、2つの要素
現代において若手が意欲をもって仕事に全力投球できるのはどのような職場でしょうか。リクルートワークス研究所の調査データによると、2つの要素が存在しています。
1つは、職場の「心理的安全性」です。その職場で自分が何かを言ったり始めたりしても誰かに言下に却下されたり、人格を否定されることがないという認識で、「チームのメンバー内で、課題やネガティブなことを言い合うことが出来る」「現在のチームで業務を進める際、自分のスキルが発揮されていると感じる」という職場です。
もう1つは、職場の「キャリア安全性」です。キャリア安全性は、「所属する会社の仕事をこのまま続けていれば成長できる」「自分は別の会社や部署でも通用する人材に、職場の仕事を通じてなることが出来る」といった認識の高さであり、若手が自分の事を俯瞰して、「自分の今後のキャリアが今の職場でどの程度安全な状態でいられると認識しているか」を捉える尺度です。
自分のキャリアが現職を続けることでどう展開し得るのか納得し安心して初めて、その職場での仕事に打ち込めます。これは変動の激しい現代社会において、漠然とした不安を抱える若手の生存本能が与えた感覚と言えるかもしれません。企業が最後まで面倒を見てくれる保証はないのだから、自分の職業人生を安定させられるのは、自分が身に付けた経験や知見・技能でしかないのです。
参考文献:山田 昌弘著『「今どきの若者」のリアル』(発売日:2023年11月16日)
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