急成長したシャドーバンク
中国で不動産バブルが大きく膨らんだ背景には、不動産開発に関わる「シャドーバンク」と「融資平台」と呼ばれる地方政府設立の投資会社の存在があります。
特に注目すべきはシャドーバンクの活躍です。シャドーバンクとは、金融機関のバランスシートに計上されないオフバランス取引の事を指します。中国のシャドーバンクが急成長するようになったのは2008年ころからです。2008年というと、ちょうど北京オリンピックが開かれ、同時にアメリカでサブプライム危機によるリーマンショックが起きた年でした。
シャドーバンクが急成長した原因は、人民銀行(中央銀行)による金融引締政策です。金融引締の強化により流動性不足が顕著となると、金融監督が不十分な中国では、シャドーバンク、すなわち、影の金融市場でのファイナンスが盛んになります。そして、ありえないほど高い利回りを約束する投資信託商品「理財商品」がたくさん販売されるようになりました。
自己責任の「理財商品」
「理財商品」を買う個人の多くは、それがどこの商品なのかを理解していないはずです。銀行が売っている理財商品だから、リスクがないと思い込んで買っている人が多く、いざデフォルトが起きた時、銀行が返済してくれると誤解している人が少なくないと思います。しかし、10%以上の高い利回りを「約束」する理財商品であれば、ほとんど元本も戻ってこないものと覚悟しておかなければなりません。
近年、中国政府は理財商品を中心とするシャドーバンクの膨張を警戒して、銀行の理財商品の仲介を厳しく管理するようになりました。しかし、2022年末時点においても、理財商品の残高は10兆ドルに迫り、GDPの60%に相当します。
リコミクスと脱レバレッジ
債務の膨張に危機感を抱いていた李克強前首相は、在任期間中(2013年~23年)、一連の経済政策を打ち出しました。これらの経済政策はレーガノミクスとアベノミクスにちなんで、リコノミクスト命名され、安易な金融緩和を行わず、脱レバレッジと構造転換を柱としていました。
仮にリコノミクスがきちんと実施されていたら、中国は不動産バブル崩壊を免れたのかもしれません。しかし、習政権において権力の一極集中は予想以上に進み、李克強前首相は力を失いました。理念はあっても、それを実施する力がなかったのです。
習政権になってから、経済成長率は年を追うごとに下がり、「新常態」で唱えられた6~7%の成長率すら実現できなくなりました。予想以上に経済成長率が下がったため、習政権は不動産開発を促進して経済成長を維持せざるを得なくなりました。経済成長を不動産開発に頼っていたため、不動産バブルの崩壊は政権にとって致命傷になる可能性が高い。だからこそ、不動産バブルの崩壊を許すわけにはいかないのです。
地道な努力をしなくなった
2000年代以降、不動産ブームは顕著になっていきました。ディベロッパーはいとも簡単に一獲千金の夢を実現し、不動産投資を行う個人はあっという間に資産家となりました。あまりにも簡単に大儲けできるようになったため、人々は技術開発・イノベーションのための地道な努力をしなくなったと、中国国内の専門家は警鐘を鳴らします。国内の統計によると、ハイテク工作機械における地場メーカーのシェアはわずか6%で、94%は輸入に頼っていることになります。
このようなコンテキストに則って考えれば、不動産バブルの崩壊は中国経済にとって必ずしも悪い話ではないかもしれません。不動産バブルが崩壊して、中国経済と中国人の心が落ち着くようになれば、安定してゆっくり成長することを、皆が目指すようになる可能性もあります。長期的に見れば、落ち着いた経済成長は中国経済にとってプラスになります。
しかし、不動産バブルの崩壊後、中国経済が安定成長の軌道に戻るとは限りません。
バブル崩壊への備えは出来ているか
不動産バブル崩壊のメカニズムは必ずしも解明されていませんが、バブルは突然崩壊するものです。
まずはデベロッパーが開発している不動産が売れなくなり、デフォルトに陥ります。その影響を受けてマクロ経済が急減速し、失業者が増えます。家を買った個人は住宅ローンの返済が出来なくなります。中国の場合、マンションが完工する前に住宅ローンが実行されることが多いため、新しく買ったマイホームに入居できなくて途方に暮れる人が増えるでしょう。影響は銀行にも及びます。デベロッパーへの融資と家を買った個人に対する住宅ローンが焦げ付き、不良債権になります。完工していない家を差し押さえても競売で売れないので、結果的に銀行のバランスシートに巨額の不良債権が生まれ、金融システム危機に陥る可能性があります。
中央政府と地方政府への影響については、分けて考える必要があります。地方政府については、土地の使用権を払い下げようと入札を告知しても、デベロッパーが入札に参加しない事態が起きます。そうして地方財政が赤字になると、地下鉄の延伸工事のようなインフラ整備がストップするだけでなく、既存のインフラ施設のメンテナンスが予定通りできなくなる可能性があります。また、地方政府が財政危機に陥ると、社会保障基金に注入する資金が枯渇する可能性があり、その結果、年金の支給が滞り、深刻な社会問題になるでしょう。
中国経済が直面する「失われた20年ないし30年」
日本の場合は、バブル崩壊の後処理を行うのに30年かかりました。果たして中国は何年かかるのでしょうか。現時点では断定することは出来ませんが、日本を取り巻く外部環境と中国を取り巻く外部環境を比較すると、両者の立場は大きく異なります。
日本のデフレは30年続きましたが、輸出製造業は順調に日本経済を支えていました。それに対して、中国には米中対立とサプライチェーンの再編という壁が立ちはだかります。習政権は目の前の状況の深刻さを十分に理解しておらず、国内循環、すなわち、自力更生で経済成長を実現しようとしているようです。しかし、中国の経済構造は輸出依存であり、内需だけで経済を持続させるのはそもそも無理なことです。このままいくと、中国は失われた20年ないし30年を喫する可能性が高くなります。
参考文献:柯 隆著『中国不動産バブル』(発売日:2024年4月19日)
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