ジェフリー・A・ハーシュ著『アノマリー投資』は、テクニカル分析に関する本です。
ファンダメンタルズ分析により、「優良株を適切な価格で」投資することを目指す投資家からは、あまり評判の良くないテクニカル分析ですが、本書で紹介されているような見方で市場を捉えている方々もいますので、これらを知っておくことに、大いに意味はあると思います。
本書より、次の3つのポイントでご紹介します。
- 選挙と株価
- 季節と株価
- 絶好の買いのタイミング
選挙と株価
ここでいう選挙とは、米国の大統領選挙のことです。米国の株価と日本の株価はかなり相関性が高いので、米国の選挙と米国の株価に相関性があるということを知っておくと、日本の株価の動きを予測する際にも役に立つと思います。
下図は、1833年から2011年までの、米国の大統領選挙の4年周期で見られるダウ平均の年上昇率をまとめたものです。
図一番右の「選挙の年」と、その隣の「選挙の前年」に株価は大きく上昇していることが分かると思います。逆に「選挙の翌年」は最も上昇率が下がり、その翌年の「中間選挙の年」に、上昇率は少し戻ります。
「選挙の前年」と「選挙の年」に株価が上昇しやすいのは、大統領たちは再選してもらうために、選挙が近くなったら景気刺激策をするためだと考えられています。経済的に大変な状態であれば、国民は革命を求めるので、再選は望めないですからね。
逆に、選挙以降はその景気刺激策のツケを払うことになります。歴史的には、不況、戦争、弱気相場は、4年間の任期の内、前半に起こりやすいことが分かっています。
事実、大統領選挙の翌年は以下のようなイベントが起きています。
- 1917年 第一次世界大戦
- 1941年 第二次世界大戦
- 1955年 ベトナム戦争
- 1929年 世界恐慌
- 2001年 9.11同時多発テロ
もちろん、選挙のタイミングだけでこれら戦争や大事件が起こっているわけではないですが、過去これほどの大きなイベントが「選挙の翌年」に集中しているということは、何らかの力が働いているのではないかと考えてもおかしくないと思います。著者はこれを、「選挙の翌年症候群」と呼んでいます。
「選挙の翌年」に株価が荒れやすいということは、「中間選挙の年」が株を割安に買う絶好の機会になるということです。
季節と株価
本書では、下図のように、8月~10月を「植え付けの秋」、11月~1月を「満足の冬」、2月~4月を「収穫の春」、5月~7月を「不振の夏」と呼んでいます。
1.植え付けの秋
「不振の夏」から「植え付けの秋」にかけての6か月間は、1年の内で株価にとって「最悪な6か月」と言われています。ですので、「植え付けの秋」は「最悪な6か月」の後半に当たります。
この時期は相場上昇の種がまかれることが多く、1982年以降8回の弱気相場のうち6回はこの時期に底入れしました。
統計上、新規買いや買い増しに絶好の機会とされています。また、最も多く大底をつけたのは10月と言われています。10月前後に「買い」をいれると、その後報われる季節が来るということです。
2.満足の冬
1年の内で最も良い3か月です。以下のような事情があるからだと考えられています。
- 11月:機関投資家の第4四半期の資金が市場に入る
- 12月:プロのトレーダー、証券会社が買いに走る
- 12月:個人のボーナスが市場に入る
ただし、12月の前半に関しては、節税目的の売りや、ポートフォリオの見直しが入ることが多く、弱くなりがちです。
また、1月はイベント(議会招集、大統領の一般教書演説、年間予算)が多く、1月の株価の動きが、その1年間のS&P500の株価の動きに似ると言われています。つまり「予測力の1月」。1月に株価が上がれば、その1年間の株価は上がるだろう、逆に1月に株価が下がれば、その1年間の株価は下がるだろうと言われています。
また1月は、小型株より大型株が上がりやすいというアノマリーがあります。
3.収穫の春
2月は、最高の3か月である「満足の冬」が終わり、一息つきやすい時期です。
「満足の冬」から「収穫の春」にかけての6か月間は、1年の内で株価にとって「最高の6か月」と言われていますが、その中では2月が一番弱くなりがちです。
3月は、強気と弱気が交錯します。月初めに上がり、月末に下がる傾向にあります。
最高の6か月の最後の月が4月。何か問題の兆しがないか注意をするべき時です。過去63年間のデータでは、4月に利益を確定させて守るのが正しいと言われています。
4.不振の夏
「最悪な6か月」の最初の月である5月について、古い格言では「5月に売って相場を離れなさい」ともいわれています。これは、夏休みになると投資家はゴルフやバカンスを楽しむためです。
6月、7月に相場を離れたとしても、良い機会を逃すことはほぼないと言われています。7月に上がったとしてもその後に買う方が割安、つまり「植え付けの秋」の時期に買った方が良いということです。
絶好の買いのタイミング
以上をまとめると、絶好の買いのタイミングが分かります。
「選挙と株価」で、 「中間選挙の年」が、株を割安に買うための絶好の機会になるということを述べました。
そして「季節と株価」で、「植え付けの秋」が買い時ということを述べました。
つまり、「中間選挙の年」の秋頃が、そのタイミングになります。
そして、「選挙の前年」と「選挙の年」には保有し続けて利益を得、「選挙の翌年」の「収穫の春」に利益を確定させるというのが、このアノマリーでいうところの、最大の利益が得られるのではないでしょうか。
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直近の大統領選は2020年でした。今年2021年は、「選挙の翌年」にあたります。
過去の傾向が必ずしも未来にそのまま当てはまるとは限りませんが、知識として知っておくだけでも、何か大きな動きがあった時に「気づき」が得られることもあると思います。
最後に、 ウィンストン・チャーチル元英首相の言葉を引用します。
「過去を遠くまで振り返ることが出来るほど、未来を遠くまで見通せる」
本書に興味を持っていただいた方、詳細は 『アノマリー投資』 をご参照ください。
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