Column
「金融緩和をし、資金を大量に供給すれば経済は成長する」と言われてきましたが、先進国はどこもそれほど経済成長していません。
ただ大量にマネーを供給してきた分だけ、経済規模は拡大してきました。マネーを大量に供給したことの成果は、一部の人々の金融所得が異常なまでに膨れ上がり、その一方で中産階級が没落して低所得層が増加し、深刻な社会問題になってきていることだけはないでしょうか。
マネー中心の金融経済が生み出す「富」は、ただの「数字の増加」でしかないのです。
マネー膨張の歴史はニクソン・ショックから
1971年8月、当時の米国大統領ニクソンは、2つの重大な発表をしました。1つが「金とドルの交換停止」、もう1つが「米ドルの変動相場制移行」です。
この発表の前まで米国は、1オンス35ドルの固定レートでドル紙幣を金に交換する約束をしており、100%金の裏付けがあったので、最高の信用力を持っていました。それをなくした背景には苦しい経済的な事情があったのです。
第二次世界大戦後、米国は、廃墟となっていたヨーロッパや日本を尻目に、世界に向けて工業製品や農産物を輸出しており、「黄金の50年代、60年代」と言われた大繁栄を謳歌し、貿易黒字もどんどん膨れ上がっていきました。当然、米ドルは世界最高の通貨という信用力をほしいがままにし、金も米国に集まっていました。これが、それまで米ドルが金へ無制限に変換できるとしていた背景です。
しかし60年代半ば頃になると、ヨーロッパや日本が台頭し、米国産業界は急速にその競争力を失います。その結果、米国の貿易収支が赤字に転落して米ドルが弱体化し、金の無制限交換が不可能となったため、交換停止に踏み切ることとしました。またそれと同時に、変動相場制への移行も発表します。その結果、戦後ずっと1ドル360円だった為替レートが、以降徐々に円高ドル安方向へ、ドルが切り下がっていくことになります。
ドルのジャブジャブ発行とインフレの始まり
「金とドルの交換停止」の発表をする前までは、米国が発行する通貨の量は保有している金の範囲内という制約がありました。しかしこの発表後、「保有している金の範囲内」という制約がなくなり、ドル紙幣をいくらでも刷れるようになりました。
このドルのジャブジャブ発行の本価格化が、「ユーロダラー市場」をいうホットマネーを生んでいきます。
50年代、60年代の米国による巨額の輸出代金の一部は、米国に還流せず海外余剰資金となりました。そして米国輸出企業は、この海外余剰資金でもって海外事業を展開したり、投機資金として活用したりするようになりました。この余剰資金が徐々に膨れ上がって、「ユーロダラー市場」と呼ばれるようになっていくのです。
オイル・ショックという激震
1970年代の半ばから今日に至るまで、先進国を中心に、世界は金融緩和政策を続けていますが、そのきっかけとなったのが、オイルショックです。(1973年10月の第一次オイル・ショック及び、1979年から80年初頭の第二次オイル・ショック)
第二次世界大戦後、原油価格はずっと1バレル3ドル以下でしたが、突然10~11ドル、更には30~34ドルへと一方的に10~11倍に引き上げられたわけです。これにより、世界の富はOECD加盟国を始めとする産油国へと吸い上げられていき、非産油国の経済はガタガタになりました。
エネルギー価格の急騰は、他の資源や食料などの価格、電気代やガス代といった公共料金の引き上げへと連鎖していき、世界はとんでもないインフレに襲われました。そして非産油国はどこも強烈はスタグフレーション(景気後退と物価上昇の併存)に陥ります。
当時、いまだ高度経済成長下にあった日本は元気いっぱいで、2度のオイル・ショックをなんと3年弱の景気後退で克服します。エネルギー資源の大半を輸入に頼っている日本は、足腰も立たないほどひどく痛手を負うと当時世界からは見られていましたが、日本は産油国等への輸出を大幅に伸ばし、オイル・ショックを乗り越えていきました。
逆に、世界経済は惨憺たる状態に陥りました。米国に至っては、国が公式に景気回復を宣言したのは第一次オイル・ショックから19年経った1992年8月の事です。この間、世界はどこも大量の資金供給を行って経済の立て直しをしました。過剰流動性の始まりです。
マネーの大量供給は危険という認識
世界中のマネーがOECD等産油国へ富がどんどん流出していった分、非産油国はその穴埋めをするため、マネーを国内に大量供給しました。その結果、産油国と非産油国のマネー供給総量が急増し、過剰流動性が一気に膨らみました。
1972年から80年代前半にかけて世界を襲った強烈なインフレは、エネルギー価格などのコスト急上昇と、凄まじい量のマネー供給というダブルパンチが原因です。世界各国は、このインフレ鎮静化に手を焼きました。またその間も、1987年10月に「ブラックマンデー」と呼ばれる世界的な株価大暴落が発生しました。これは、過剰流動性がもたらした景気低迷下の株高バブルがはじけたものです。
これらの出来事から、世界各国では「マネーの過剰供給は危険だ」という認識が広がっていき、1994年頃から米国を中心にマネー供給の縮小に踏み切ることになります。
つづく
参考文献(澤上篤人著『暴落相場とインフレ 本番はこれからだ』)
本日のオマケ
私の投資方針
1.投資対象は、株式インデックスファンド、又は個別株式のみ 2.世界株式インデックスファンドは、老後まで基本的に売却しない 3.レバレッジ、信用取引等はしない 4.財政状態、経営成績が良く、PER及びPBRが低めの割安株式を買う 5.平時は、預貯金の残高が減らないペースで積み立てる 6.暴落等により含み損が発生した場合、含み損状態を脱するまで、平時より積立額を増額する
投資方針の根拠
1.ジェレミー・シーゲル著『株式投資 第4版』 ・長期の実質トータルリターンは、他の資産に比べ株式が圧勝する 2.山崎元、水瀬ケンイチ著『全面改訂 第3版 ほったらかし投資術』 ・世界株式インデックスファンド、特に(eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)がお勧め 3.厚切りジェイソン著『ジェイソン流お金の増やし方』 ・基本的に売らない 4.ジョン・C・ボーグル著『インデックス投資は勝者のゲーム』 ・インデックスファンドは98%の確率で、アクティブファンドに勝てる 5.チャーリー・マンガー著『マンガーの投資術』 ・素晴らしい会社を適正な価格で買う