S・アモウズ著『ビットコイン・スタンダード』は、世界中で読まれているビットコインの基本書の邦訳版です。
ビットコインの技術、ビットコインが解決する経済問題、ビットコイン誕生前の貨幣の歴史等が詳細に紹介されています。
ビットコインは、従来の貨幣の問題点を克服できる可能性をもち、デジタル時代の健全な貨幣となる大きな可能性を持っていると著者はいいます。
本書を、次の5つのポイントでご紹介します。
貨幣の3つの機能
貨幣には、次の3つの機能があります。
1.交換の手段
貨幣には、商品(財・サービス)の交換を媒介する機能があります。貨幣が交換の媒介となることで、交換が成立します。
2.価値の尺度
貨幣には、これは1,000円、あれは500円等、商品やサービスの値打ち、価値を決める物差しとしての働きがあります。
3.価値の保存
貨幣には、今持っている価値(資産)を蓄えておけるという機能があります。そして、長期間価値保存するためには、耐久性と希少性という特徴を持っている必要があります。

貨幣の健全性
歴史上、貨幣の生産難易度の高さが、その貨幣の健全性の高さを決めてきました。生産難易度が高ければ、その貨幣は希少性があり、価値が保存できるため、健全であると考えられます。
生産難易度により、貨幣を次の2つに分けることが出来ます。
1.イージーマネー
イージーマネーとは、貨幣の生産の難易度が低いものを言います。希少性が低く、健全性の低い貨幣であり、生産コストが低く、ストック・フロー比率が低いという特徴があります。
「イージーマネー」 = 貨幣の生産が簡単 = 希少性が低い = 健全性が低い
ストック・フロー比率は、以下の計算式で求めることが出来ます。
ストック・フロー比率 = ストック(総供給量) ÷ フロー (新規供給量)
ストックとは貨幣の総供給量、つまり世の中全体に出回っている貨幣の総量であり、フローとは貨幣の新規供給量、つまり1年間に新たに供給された貨幣の量です。
ストック・フロー比率が低いということは、ストックに対してフローが比較的大きいということです。フローが比較的大きいということは、1年間で新規供給できる貨幣が多いということであり、生産難易度が低いということです。
昔の貝殻の通貨、石の通貨、ガラスビーズの貨幣(アフリカ)はイージーマネーに分類されます。
※ガラスビーズは、それがアフリカで貨幣として流通していた際、アフリカにとって希少性の高いハードマネーでした。しかし、当時のヨーロッパ諸国にとっては生産難易度の低いイージーマネーでした。ヨーロッパ諸国はこれを利用し、アフリカの貴重な資源とガラスビーズを大量に交換しました。その結果、アフリカから大量の貴重な資源が流出し、大量のガラスビーズがアフリカに残りました。ガラスビーズは希少性を失い、「価値の保存」という貨幣の機能を果たすことが出来なくなりました。
2.ハードマネー
ハードマネーとは、貨幣の生産の難易度が高いものを言います。希少性が高く、健全性が高い貨幣であり、生産コストが高く、ストックフロー比率が高いという特徴があります。
「ハードマネー」 = 貨幣の生産が難しい = 希少性が高い = 健全性が高い
ストック・フロー比率が高いということは、ストックに対してフローが比較的小さいということです。フローが比較的小さいということは、1年間で新規供給できる貨幣が少ないということであり、生産難易度が高いということです。
金やビットコインはハードマネーに分類されます。
ビットコインは、最初から2,100万枚が上限と設定されています。なお、ビットコインの供給増加率は年々逓減していきます。2040年ごろに2,100万枚に近づき、供給が完全に停止すると考えられています。そのため、ビットコインは最強のハードマネーになる可能性があります。
※現在の法定通貨のうちUSD、JPY、EUR等は、ハードマネーに近いストック・フロー比率ですが、新興国の通貨、特に過去何度もハイパーインフレが起きているような通貨は、イージーマネーに近いストック・フロー比率です。
そのため、このような新興国では自国の通貨よりもビットコインの方が、通貨として流通している例もあります。自分たちの国の通貨では価値を保存できないと考えられており、信用されていないからです。(参考:エルサルバドルがビットコインを法定通貨に | Reuters)

金本位制は良かった
ビットコイン登場以前では、金本位制が一番正しい通貨の在り方だったと著者は言います。
19世紀頃、世界では金本位制が広がりました。金本位制とは、金を通貨の価値基準とする制度です。この時、金に裏付けられた「紙幣」が登場しました。
金に裏付けられているということで価値の尺度が一定だったので、現代のように為替を気にせずスムーズに貿易することが出来、国際貿易が発展しました。
また金はハードマネーですので、歴史上最も価値保存性が高まった時期だと言われています。こういった健全な貨幣があると、人々は時間選好を下げます。つまり、今現在の喜びに飛びつくのではなく、将来のためにより生産的な活動をし、貯金をしようとします。「未来志向になる」とも言えます。
人々のこの「未来志向」のため、19世紀には多くのものが発明されました。例えば、水道、配管設備、電気、自動車、飛行機、地下鉄、心臓手術、電話、無線等。今の文化的な生活の基礎は、ほとんどこの時代にできたと言っても過言ではありません。

現代の法定通貨の問題
金本位制の後は、現代の法定通貨に移行します。金の裏付けのない、政府が自由に印刷できる通貨になってしまいました。
通貨が大量に発行されると、通貨膨張により、貨幣の価値は下がるので、人々の購買力が低下します。これは、本質的には課税や資産の没収と同じです。
また、現代の法定通貨の誕生と同時に、世界大戦が開始します。もし、金本位制下の通貨のように、裏付け資産のある健全な通貨であれば、財源の枯渇とともに戦争は終了するのですが、政府が自由に印刷できる現代の法定通貨の下では、通貨が大量に発行され戦争の継続が可能になりました。
さらに、貨幣の量が増えたため、「それだけでは価値を生まない」金融のGDP比率が非常に高まりました。
歴史上、貨幣の供給を管理できる主体、つまり「打ち出の小づち」を持っている主体が通貨を大量に発行するという欲から逃れられたことはありません。これに対してビットコインは、特定の管理主体を持たないものであり、健全な貨幣になりうると考えられています。

ビットコインの未来
上記をまとめると、ビットコインは価値保存性が高く、特定の管理主体を持たない(ビットコインの所有者たちに支配が帰属する)という特徴があるということです。
また、ビットコインが将来日常的に使われるようになるかという点については、著者の意見は否定的です。処理能力の上限などを考えると、世界中の取引の処理をこなすだけの能力がないと考えるためです。
その代わり、著者はビットコインは金のように価値の裏付けになる準備通貨になるのではないかと考えています。銀行などが、ビットコインで裏付けされた独自トークンなどを発行して、日々の細かい支払いは、この独自トークンを使って行われるのではないかと考えています。
「銀行が準備金をビットコインで保有し、ビットコイン兌換を保証した独自デジタル通貨を発行することには意義がある。ビットコインブロックチェーンには、世界の金融取引全てを処理できる能力はない。」
それが成り立つためには、ビットコイン保有量と独自トークンの数量が合っている必要があり、その独自トークンを発行している事業者を監視する仕組みが必要になってきます。
本書の詳細は 『ビットコイン・スタンダード』 をご参照ください。
本書の英語版は 、『The Bitcoin Standard: The Decentralized Alternative to Central Banking』です。
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