日経平均は3万円近辺まで上がり、NYダウも36,000ドルを、S&P500も4,600ドルを超え、過去最高値を更新し続けています。バブルを心配する声もあがっています。
判断に迷う時は「歴史に学べ」ということで、エドワード・チャンセラー著『新訳 バブルの歴史 ──最後に来た者は悪魔の餌食』より、過去のバブルの特徴などと比較して、今がどのような時かということを考えてみます。
- バブルの歴史
- チューリップバブルと日本のバブル
- バブルは覇権国で発生する
- 主人公の陰でたくさんのバブルが!
バブルの歴史
歴史的なバブルとして、本書では次の5つがあげられています。なお、本書は1999年に初版が発行されたものであり、それ以降のバブル、リーマンショック等は扱われておりません。
- チューリップバブル(1630年代、オランダ)
- 南海泡沫事件(1720年代、イギリス)
- 鉄道ブーム(1840年代、イギリス)
- 世界恐慌(1929年、アメリカ)
- 日本のバブル(1980年代、日本)
チューリップバブルと日本のバブル
オランダ発のチューリップバブルが、世界初のバブルと言われています。1930年代のオランダで、チューリップの球根が異次元に値上がりをした後、暴落しました。
今でこそ、オランダと言えばチューリップのイメージがあると思いますが、元々海外から輸入されており、バブルの前までは、貴族や植物学者の庭にしかない貴重なものでした。その中でもさらに、特殊な模様がはいったチューリップは貴重で、より高価な値段が付いたといわれています。(後から、その特殊な模様はウイルスによるものと判明)
チューリップの値段は、一般的な人には手の届かないものでしたが、球根であれば一般の人でも手が届く価格でした。球根から育てたら、特殊な模様が入ったチューリップが咲くかもしれない、高値で売れるかもしれないということで、球根が投機対象になりました。供給が、需要に全く追い付かなかったので、球根の先物市場(将来球根を買う権利を売買する市場)も出来ました。そして、その球根を買う権利も転売が繰り返されて、どんどん値段が吊り上がっていきました。行き過ぎた投機の結果、住宅が買える価格、更には生涯年収並みの価格に暴騰し、その後暴落しました。
今の時代の私たちからすると、なぜチューリップの球根にそんな値段が付くのか、理解できませんよね。チューリップの値段など、価値を正確に測ることも出来ません。しかし、バブルの時は何かよく分からない熱狂が起こります。日本のバブル時代も似たようなことが起こりました。
日本のバブル時代に起こったこととして、例えばアートブームがあります。アートの価値は正確に測れるようなものではないと思うのですが、世界でも最高落札額の何倍もの価格で、日本人が落札したようです。また、ゴルフの会員権ブームもあり、現在では数百万円ほどで流通しているものが、当時億単位で投機対象として取引されていました。
これら、チューリップ、アート、ゴルフ会員権等は、株式等と違い、キャッシュフローを生みません。そのため理論的な価格がいくらなのかが分からず、配当利回りや、PERといった指標もありません。だから、いくらだったら高いのか安いのかが分からず、熱狂により投機対象になりました。
バブルが起こった時期、庶民は潤っていました。オランダでは織物貿易で黒字、戦争もしておらず、国民にもお金に余裕がありました。日本では、プラザ合意により円高になり、日本の世界での購買力が上がり、海外のブランドも爆買いしていました。最近の中国のような感じですね。日本にも、過去そのような時期がありました。
バブルは覇権国で発生する
「投機による高揚感は、傲慢さの表れであることが多い。そのため、経済的な権力バランスが一つの国から別の国にシフトする時、巨大な投機ブームが発生する。」(by 筆者)
バブルの事例に当てはめると・・・
- チューリップバブルは、オランダのアムステルダムが世界貿易の中心になった「経済の奇跡」の直後に起こりました。
- 世界恐慌は、20世紀初頭に世界の主要工業国としての地位が、イギリスからアメリカに移った直後に起こりました。
- 日本のバブルは、国民一人当たりの所得がアメリカを抜き、日本の銀行が資産と時価総額の両方で世界最大になった直後に起こりました。
このように、その時代の覇権国(主役)が移った時に、その覇権国でバブルは発生してきました。
南海泡沫事件と日本のバブル
南海泡沫事件は、1920年のイギリスで起こったバブルで、その主役は南海会社です。南海会社は、戦争で経済的に疲弊したイギリスの国の借金を完済するためにつくられた会社です。そして、国からスペイン領中南米植民地との貿易権(独占的に貿易する権利)を与えられました。つまり、貿易で儲けて、国の借金を完済するのが、この南海会社の使命でした。
ところが、本業である貿易では稼ぐことができませんでした。苦肉の策として宝くじをしたところ大きな儲けが出ました。膨大な利潤を予想する者が多くなり、また株の交換におけるトリックによって、ごく短期に、爆発的に南海会社の株価はつり上がりました。株のローン販売、株担保融資が同時に行われていたことも、この短期間の爆発的な株価の上昇の要因となりました。(株の交換におけるトリックが気になる方は、こちらをご参照ください。)
南海株が上がっている時は、もっとどんどん上がっていくんだと信じられていました。「南海会社は絶対つぶれるはずはない」、「この会社は国の借金を肩代わりするために作られたから絶対に安全だ」、「何があっても国が南海会社を助けるはずだ」、と思われていました。
ロンドンに来た人に、海外の人がどういう風に話を聞いていたか、当時のロンドンの雰囲気が良く分かる話があります。
「ロンドンから来た人に、どんな宗教が流行っているか聞くと、南海株だというんです。政策は?って聞くと同じ答えが返ってきた。どんな貿易をしているか聞くと、やはり同じ。どんなビジネスをしているか聞いてもやっぱり南海だっていうんです」(本書より)
中にいたら、変なことに気づかないんでしょうね。これがバブルの恐ろしいところです。
一方、日本でバブルが起こった当時はというと、「日本の証券会社や銀行がつぶれるわけがない。いや、大きすぎて国が潰せない。だから絶対に安心だ。」と言われていました。
しかし実際は、当時日本で10番目に大きい北海道拓殖銀行が破綻し、Big 4(野村、大和、日興、山一)といわれていたうちの1つ、山一證券が破綻しました。
南海泡沫事件も、日本のバブルも、このように絶対に国が助けるはずというモラルハザードが引き起こしたものという点で、共通しています。
主人公の陰でたくさんのバブルが!
南海株で味をしめた市民たちは、株は儲かるものだと分かりました。その結果、南海株以外にも、どんな事業をやっているのかもよく分からないような、訳の分からないペーパーカンパニーが乱立し、何でもかんでも買われるという状況になりました。当然、その訳の分からないペーパーカンパニーの9割以上は倒産し、株は紙くずになりました。
これはチューリップバブルの時も同じで、最高級のセンペル・アウグストゥス、副王、提督、将軍等、そのランクによってチューリップに名前がついていたのですが、名前の付いていないブランドのない無名の品種も、徐々に投機対象になっていきました。
日本のバブルでは、証券会社が様々なテーマ株を提案していました。奇跡のがん治療薬銘柄、鶏の肝汁から抗エイズ物質を抽出したという噂の日本ハム株、常温核融合銘柄、リニアモーターカー銘柄など、人々が「もう少しで実現できるなら、株を買わないと」と思って、実現もしていないのに、よく分からないまま購入するということがありました。
これらは、バブルの熱狂の裏で、本来価値のない物、噂レベルのものまでがどんどん買われたという点で、共通しています。
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今は株価が高いと言われていますが、個人的には過去のバブルとは様子が違うように思います。浮かれている雰囲気も、訳も分からず盛り上がっているということもないですね。庶民が潤っているということも、残念ながらありません。
ただ、暗号資産は最近このバブルに似たことがありました。TITANという暗号資産、ご存じでしょうか。2021年6月16日から17日にかけて、1日で35億分の1まで大暴落する事態がありました。お金をぐるぐる回すだけの錬金術で暴騰していたので、暴落は、起きるべくして起きました。
本書に興味を持っていただいた方、詳細は 『 新訳 バブルの歴史 ──最後に来た者は悪魔の餌食』 をご参照ください。
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