相対的デフレの今の日本では、増税してはいけない。『奇跡の経済教室』

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中野剛志著『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】 (ワニの本)』は、経済に関してこれまで習ってきたことや、世間の常識が覆される一冊です。

なぜ、日本は高度経済成長がのぞめないのか、日本はなぜ経済成長率がマイナスなのか、日本の経済政策は何がどう間違っているのか、本書にはその答えがあります。次の3つのポイントに分けてご紹介します。

  • 日本が成長しなくなった理由
  • 政府のするべきこと、してきたこと
  • デフレ脱却を目指す
  • 税金は財源確保の手段ではない

日本が成長しなくなった理由

日本が成長しなくなった最大の理由はデフレです。

デフレとは、一定期間にわたって物価が持続的に下落する現象を言います。そしてデフレが起こるのは、経済全体の需要(消費、投資)が供給に比べて少ない状態が続くからです。つまり、需要<供給物が売れない状態ということです。

物が売れないと、企業は赤字が続きますので、最悪の場合は倒産します。労働者は賃金が下がり、最悪の場合は失業します。

デフレとは、物の価格が継続的に下落することですが、裏を返すと貨幣の価値が継続的に上昇することです。持っているお金の価値が上がる現象ともいえます。

持っているお金の価値が上がるということは、人々は物よりお金を欲しがりますよね。つまり、物を買わずにお金を貯めるようになります。

デフレ = 貨幣価値の継続的上昇 ⇒ 人々は消費等を控える ⇒ 益々物が売れない = 益々デフレ ⇒ ・・・(これを、「デフレスパイラル」と言います。)

また消費者は、住宅を購入する場合等の大型消費をする場合、通常ローンを組みます。デフレの環境下では貨幣価値が上がりますので、借りたお金は、実質的には返すときの方が価値が上がっている、つまり負担が増えるということになります。このためデフレになると、誰も銀行から融資を受けなくなります。また、融資を受けたとしても返済を急ぐようになります。融資を受ける人が減ると金利が下がりますので、銀行は稼ぐのが難しくなります。

このように、デフレになると経済成長が止まってしまいます。これが平成の日本で起きたことです。世界中で日本だけが長期のデフレですので、日本だけが極端に成長していません。

日本が再度経済成長するためには、デフレを抜け出す必要があります。

どうすればデフレを脱却できるかというと、【需要<供給】の状態を【 需要>供給にすれば良いということです。つまり、需要(消費等)を増やし、供給を減らせば良いということです。

しかし、デフレ状況下で人々は需要(消費等)を増やすでしょうか?答えは「No」です。給料が下がり、貨幣価値が上がるため貯金をした方が得なので、合理的に考えると消費を控えることになるのです。そのため益々デフレになります。

このように、人々が個々として正しい行動をとっていても、全体としては好ましくない事態がもたらされます。これを、経済学の用語で「合成の誤謬」と言います。この「合成の誤謬」は、市場に任せていても解消しません。ですので、マクロの経済全体をつかさどる政府がなおすしかありません。

デフレ経済の下で、日本の企業は内部留保を貯め込み、賃上げや積極的な設備投資、技術開発もしなくなりました。結果、日本の企業は画期的な新製品を送り出したり、イノベーションを生み出したりする力を失っています。でもこれは、デフレ経済という条件の下、個々の企業が合理的に行動した結果ですので、経営者が悪いというわけではありません。デフレ脱却に失敗している、政府のせいなのです。

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Photo by Robin Schreiner on Pexels.com

政府がするべきこと、してきたこと

政府がするべきは、需要を増やすということです。

そのために、例えば、社会保障、公共投資を拡大する等により財政支出を拡大すること(政府が自ら需要を拡大)、民間の消費を促進するために、減税すること(民間部門の需要を拡大)等があげられます。

これはつまり、財政赤字を拡大することです。

中央銀行も、金利の引き下げを行い、個人や企業の融資を受けやすくすることが大事です。このように、拡張的な財政金融政策が、需要を拡大するデフレ対策です。

また、デフレを脱却するためには供給を減らすことも有効ですが、 そのためには、企業に生産性を下げさせるモチベーションを高めるため、企業間の競争を抑制気味にするべきです。競争を抑制するため、規制を強化し、事業を保護し、多くの企業が市場に参入できないようにします。また、国際競争にさらされないよう、国内市場を保護する「保護主義」を取ることも有効です。

一方、政府が実際に行ってきた改革はというと…

橋本政権:行政改革、経済構造改革、金融システム改革等の6つの改革を掲げて実行しました。これらの中身は、財政支出の削減、消費増税、規制緩和、自由化、グローバル化等であり、いずれもデフレ対策とは真逆のインフレ対策でした。その頃、バブル崩壊により資産価格が暴落していたので、本来インフレではなくデフレを警戒しなければならない時期でした。つまりデフレを警戒すべきときに、インフレ対策を続けてしまいました。

その理由は、この改革の手本として、1980年代のイギリスのサッチャー政権、アメリカのレーガン政権が行った「新自由主義」の政策だったからです。当時のイギリスやアメリカは、インフレで悩んでいました。「新自由主義」は、インフレを退治するために人為的にデフレを引き起こす政策でした。

つまり、取るべき対策とは真逆の対策を手本にしてしまったということです。この誤りを、小泉政権がさらに加速させます。

小泉政権:郵政事業の民営化、道路関係4公団の民営化、労働者派遣法の規制緩和等。これらは全て、インフレ対策です。ただし、金融政策だけは金融緩和というデフレ対策を取りました。

この、デフレ下におけるインフレ対策は、今もずっと続いています。消費税増税、通信費引き下げ、金融所得課税の増税も???こうした「新自由主義」の改革に反対した人々には、抵抗勢力のレッテルがはられ、多くは政治や言論の表舞台から追放されました。

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Photo by Ricardo Esquivel on Pexels.com

デフレ脱却を目指す

デフレ脱却のための需要を増やす方法として、財政支出を拡大することが必要であると、先ほど述べました。

政府の支出には無駄が多いという批判がありますが、政府が支出を増やせば需要は増えますので、たとえ無駄なものであっても(よく公共投資や公務員の給料が槍玉にあげられますが)、財政支出を減らすよりは増やす方が良いのです。

また、デフレ脱却のための供給を減らす方法として、政府は企業間の競争を抑制気味にするべき、生産性の向上を抑えるべきということを先ほど述べました。

直感的にわかるとおり、生産性を向上させなければ経済は成長しません。しかし、デフレ経済の下で生産性を向上させてしまうと、デフレスパイラルに入ってしまうので、かえって経済成長が阻害されてしまいます。

ですので、まず①生産性を抑制してデフレ脱却を目指し、経済をインフレにする。その上で②生産性の向上を促して経済成長を実現する、という2ステップを踏む必要があります。

経済としては、一般的にデフレの方が異常です。正常に成長している経済では、物価は穏やかに上昇するからです。(=マイルドなインフレ)要は、生産性の向上や無駄の排除が正しいと思われているのは、このマイルドなインフレの正常な経済を暗黙の前提としているからです。

デフレ経済の下では、正常なインフレ経済の下では「間違い」とされてきたことを敢えてやらなければならないのです。しかし、正常な経済の下で「間違い」とされる政策については、理解を得ることは非常に難しいため、実行されてきませんでした。

税金は財源確保の手段ではない

税金とは、物価調整の手段です。税金は財源確保の手段ではありません。

これを理解するためには、現代の通貨を理解する必要があります。

現代の現金通貨は、貴金属との交換が保証されていない、「不換通貨」です。この現金通貨が貨幣として価値があるものとして流通している理由は諸説ありますが、著者は「通貨は納税の手段となることで、その価値を担保している」という説が有力であると言います。この理論を、「現代貨幣理論」、通称MMT(Modern Monetary Theory)と呼ばれています。

この理論は、以下の順で説明できます。

  1. まず国家は、国民に対して納税義務を課し、「通貨」を納税手段として法令で定める
  2. 国民は、国家に通貨を支払うことで納税義務を履行できるようになる
  3. 通貨は「国家に課せられた納税義務を解消することが出来る」という価値をもつことになる
  4. その「価値」故に、通貨は国民に受け入れられ、財・サービスの取引や貯蓄など、納税以外の目的でも広く使用されることとなる

つまり、通貨の「価値」を裏付けるものは、租税を徴収する国家権力であるということです。

国家が納税手段として法定していないものでも、貨幣として流通した例はありますが、それが「現代貨幣理論」を否定するものではありません。なぜなら、国家が納税手段として法定したものは全て貨幣として使われるからです。(イメージは下図の通り)

現代の通貨は、その価値を国家の徴税権に裏付けられています(オレンジ円)。ですので、税金をなくすということは、通貨の価値を暴落させ、ハイパーインフレを引き起こす行為になります。逆に言うと、税金が必要な理由は、通貨の価値を担保し、インフレが行き過ぎるのを防ぐためです。

これまで税金は、政府の支出に必要な財源を確保するのに不可欠なものだと考えられてきました。しかし、自国通貨を発行できる政府が、税金によって財源を確保しなければならない理由はありません。お金が必要だったら、政府はいくらでもお金を刷ればいいのですから。つまり税金というのは、政府にとっての財源確保の手段ではありません。この認識を持つことが、とても大切です!

もちろん、無制限に大量にお金を刷れば、お金の価値は暴落するので、ハイパーインフレになってしまいます。ですので、お金を生み出す方法にも制約・限度はあります。

一方、税金にはこれとは別に、物価調整の手段としての役割があります。

税金が高くなると、人々は税金を支払うためにより多くのお金を貯める必要があります。人々はお金を手放さなくなり、お金の価値が上がるので、デフレになります。逆に、税金が安くなると、人々はその分お金を貯めておく必要性が減るので、お金の価値が下がり、インフレになります。つまり、税金を高くしたり安くすることによりお金の価値を上下させられるので、それが物価調整につながるということです。

増税を正当化する理由は「財源の確保」ですが、そもそも 税金は財源確保の手段ではありません。 デフレ下の今の日本で、増税するのは間違っています。

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Photo by Tara Winstead on Pexels.com

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「2022年度税制改正大綱に、金融所得への課税強化を今後の検討事項として盛り込む」という話がありますが、上述の理論では、ほとんどインフレしておらず、世界と比較して相対的にデフレであり、ほとんど経済成長していない今の日本においては、増税はやめるべきということになります。

本書に興味を持っていただいた方、詳細は 『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】 (ワニの本)』 をご参照ください。

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